現在、第2期が放送中の人気アニメ『ダンダダン』(MBS・TBS系)の劇中で演奏された楽曲をめぐり、「X JAPAN」のYOSHIKIが“パクリ疑惑”を指摘した一連の騒動。アニメ公式が謝罪文を公表し、YOSHIKIもコラボの可能性に言及するなど円満に解決したように見えるが、余波は続いている――。

ことの発端は、8月7日深夜放送の第18話でヴィジュアル系風のバンド「HAYASii」が登場し、披露したメタル調のハードな楽曲『Hunting Soul』。すると、8日にYOSHIKIがXに同曲を取り上げた上で《何これ、XJAPANに聞こえない?》と、「X JAPAN」の代表曲『紅』に酷似しているとファンに問いかけ、《この制作チーム、事前に一言ぐらい言ってくれれば良いのに..》とした上で、《弁護士達からも連絡がきた》と著作権侵害の可能性についても触れたのだ。

18日には、バンド名の「HAYASii」に対しても《よく考えたけど、これ俺のLast Name?自殺した俺の父の名前?著作権や肖像権は色々な会社が動いているので任せているけど。この件は直接話う?》(原文ママ)と言及するなど、1週間以上にわたって批判的に言及した。

最終的には“対応は関係者に任せます”と表明して、一連の投稿を削除したYOSHIKIだったが、22日に『ダンダダン』のアニメ公式Xアカウントがコメントを発表。“事前に説明をしなかった”とYOSHIKIに謝罪した上で、《本件についてはYOSHIKI様ともすでにお話をさせて頂いており、今回を契機に、未来に向けた創造的な取り組みを共に考えている所でございます》と状況を報告した。

これに、YOSHIKIも23日、《ダンダダン製作委員会の誠実な対応に、心から感謝します。驚きもありましたが、皆さんの声に感謝しています。プロデューサーさんとのポジティブな会話で、コラボの可能性も含め、素晴らしい未来をファンの皆さんと築いていける気がしています!》と、“円満解決”を報告した。

しかし、『Hunting Soul』は有名ミュージシャンが作詞作曲を手掛けたアニメのためのオリジナル楽曲である。“オマージュ”だと受け止めた人も多く、“パクり”であるかのような指摘をしたYOSHIKIに対して疑問を抱く人も多かった。最終的に『ダンダダン』側が謝罪する結末となったことで、Xでは釈然としない思いを吐露する人が続出した。

《って、自分が引っ掻き回しておいて「なんだかなぁ」というのが正直な感想。。。》
《不快極まりない幕引きだよな》

YOSHIKIの指摘はなぜ波紋を広げ続けるのか。企業の知財活動に詳しく『エセ著作権事件簿』などの著書がある友利昴氏は、今件について「著作権侵害にもパブリシティ権侵害にも抵触しない」とした上で、次のように解説する。

「権利侵害ではないとしても、“参考にされた”とか“引用された”など、本人にとって意に沿わない使われ方というのは、芸能、音楽のジャンルに限らずあります。そこに不満があるというのは、正しいかどうかではなく、人間だから仕方ない部分だと思いますが、問題はそれを公に表明したことだと思います。

ファンに向けて発信することで同情を買える可能性もありますが、実際には“器が小さい”などと言われてしまったように、イチャモンをつけているような印象を与えることもあります。やはり大御所のロックスターなんだから、そこはもうちょっと堂々としているところをファンとしては見たかったのかなと思います」

“オマージュ”作品に苦言を呈した元ネタ側へ失望が向けられやすい背景には、反応しない有名人が多いこともあるようだ。

「アニメなどで芸能人などのパロディの演出例は数えきれないほどありますが、大抵は気にしていないケースの方がずっと多いです。今回もYOSHIKIさんは反応しましたが、同じく見た目を寄せたキャラクターがでてきたToshlさんとPATAさんや、関係者は何のコメントも出していませんよね。

やっぱり普通は気にされないことが多いですが、何年かに1回くらいは怒る有名人も出てくるだろうと思います。

『ポケモン』のスプーンを持った『ユンゲラー』というキャラクターに、スプーン曲げで有名なユリ・ゲラー氏が米国で訴えを起こして敗訴しこともありましたが、たまにあるんですよね。何年かに1回、事故みたいなことがどうしても起こるのだと思います」

『ダンダダン』側の謝罪という形に終わった今回の騒動だが、今後のアニメや映画でのパロディにもたらす影響はあるのだろうか?

「どちらかというと、今回も『ダンダダン』側に同情の声が集まって、YOSHIKIさん側には“ガッカリした”といった意見が多かったと思います。これを踏まえると、パロディにされる元ネタの方がもう少し自分の持っている著作権やパブリシティ権について、間違った拡大解釈をしないようにリテラシーを高めないと、かえって評判を下げたり、アニメファンから不興を買うことになるのではないかと思います。

なので、どちらかというとアニメ制作側の教訓というよりは、元ネタにされる側の度量が試されたのが今回だったのかなという印象はあります」

中には今回の件を、法的な問題というよりは礼儀の問題だと指摘する意見もあるが、トラブル回避のために事前に“筋を通す”ことにはリスクも伴うという。

「元ネタに対する礼儀はもちろん大切です。礼儀を重んじて先にひと声かけることは誠実ですし、必要な場合も多いと思います。しかし、事前にひと声かけることで、断られたり、コストや時間、制限がかかることもあると思うので、それよりは視聴者に届けたい表現を貫徹するということもまた尊重されるべきだと思います。

元ネタ側が不満を感じるのは自由ですが、法的根拠が薄いのに礼儀という名目で、本来は必要のない許諾を押し付けることは、表現の自由に対して過剰な制限をもたらす危険性を孕んでいると思います。その危険性は、YOSHIKIさんも表現者なので、分かっていらっしゃるはず。作品に最善を尽くす姿勢はお互いに尊重すべきです」

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