「普通、患者さんは歯の痛みがあれば歯科、肩が痛ければ整形外科を受診するものです。そこで異常がなければ安心してしまいます。

しかし、いつもと違う痛みを感じて私のクリニックを受診した結果、心筋梗塞が発見された……。そんなケースが、年間、数例あります。

また別の男性の場合、まぶたの裏が白っぽくて貧血症状がありました。ただの貧血と見過ごしてしまう場合も多いですが、じつは早期の胃がんだったのです。病気には、意外な症状があります。なかには早期に発見して治療しないと、命に関わるケースもあるので注意が必要です」

こう語るのは『放っておくとこわい症状大全 早期発見しないと後悔する病気のサインだけ集めました』(ダイヤモンド社)など著書が多数ある、総合内科専門医の秋津壽男さんだ。

わずかな病気のサインを見逃さないよう、クリニックでは患者の訴えばかりでなく、顔色などを含めた全身のようすを、細かく診ているという。

「体のSOSにいち早く気づくことで、早期の対処が期待できます」(秋津さん)

医療ガバナンス研究所理事長で、内科医の上昌広さんも、このように補足する。

「たとえば同じ血便の症状でも、黒っぽいタール状の便なのか、赤い鮮血がついた便なのかで、出血場所も、病気の原因も大きく異なってきます。また、風邪でもないのに声がかすれる、食べ物が喉に少し引っ掛かるなど、よくありがちで気にも留めない症状が、重病のサインであることもあります」

■心臓の疾患の影響が爪にあらわれることも

命に直結し、時に突然死を招く脳や心臓の病気のサインを教えてもらった。脳梗塞、脳出血、脳腫瘍は発生場所ごとに症状が異なる。

「右足の運動機能に関わる脳の部分に異常が起こると、右足のしびれなどが出ます。

ポイントは、脳疾患の場合は、左右どちらか一方にまひが出ること。

なかでも表情は、わずかな変化でもわかりやすい。笑ったとき、顔面のまひで片方のほうれい線が深くならなければ無表情に見えて、すぐに気づきます。表情は脳の病気を早めに知らせてくれることもあるのです」(秋津さん)

「意外な症状では、妊婦でもないのに乳汁が出ることも。ホルモン分泌を促す脳の下垂体に腫瘍などができると、乳汁を分泌させるプロラクチンというホルモンが過剰に作られるためです」(上さん)

突然死の原因の7割を占めるのが心疾患。心筋梗塞などは胸の強い痛みに襲われる。

「左の心臓の痛みが脳に届くルート近くには、顎や肋骨、肩の神経なども通っているため、脳が誤作動を起こして別の場所の痛みとしてあらわれることも」(秋津さん)

また、心不全の場合、時には指先に変化が出たりする。

「心機能の弱まりで末梢部分まで十分に血液が届かず、酸素不足になると、爪が伸びにくくなったり、白く濁ったりします」(秋津さん)

「心不全になると、心臓から全身に血液を送ったり、全身から心臓に血液を戻す力が弱まります。立った状態では、重力の関係で末端の足の血液を心臓に戻す力が弱まり、足がむくむ。横になると全身の血液が心臓に戻りやすくなりますが、送り出す力が弱まっているので心臓への負担が大きく、肺も鬱血しやすくなり、圧迫されて息苦しくなるのです」(上さん)

水分不足になると、血液の粘度が上がり血栓ができやすくなるため、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まる。汗をかく夏は水分補給を欠かさないよう気を付けよう。

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