人気刑事ドラマ『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)の山村刑事役などで知られる俳優の露口茂さんが、4月28日に老衰のため、都内の自宅で死去したことが9月2日に明らかになった。93歳だった。

露口さんは、舞台を中心に活動したほか、『赤い殺意』(‘64年)や『女のみづうみ』(’66年)などの映画でも注目を集めた。声優としても活躍し、ジブリ映画『耳をすませば』(‘95年)のバロン役、海外ドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズの主人公ホームズ役などを務めた。

とくに‘72年から放送された『太陽にほえろ!』では、容疑者を自白に追い込むのが得意な「落としの山さん」を、第1話から殉職する第691話まで長年にわたって好演。煙草の箱に1000円札を忍ばせ、情報屋から話を集める冷静沈着な「山さん」の姿は、作品中で欠かすことのできない存在だった。

第301話「銀河鉄道」で共演し、当時売れっ子の子役だった俳優・水野哲(60)は、露口さんとの思い出をしみじみと振り返る。

「この回は“子どもの自殺”をテーマにした異色の回で、僕は屋上から自殺を試みようとする中学生役を、露口さんは命の尊さを解いてその自殺を食い止めようとする人情派の刑事役を演じていました。

全編に渡って僕と露口さんの二人のやり取りが中心に描かれ、ほとんど露口さんが主役みたいな回だったのです。そのため、個人的に当時の思い出は鮮明に残っていますね」

劇中では、水野演じる少年の心に寄り添おうと、山さんが少年を昼食に誘うシーンがある。実際の撮影中にも、水野は露口さんに蕎麦屋へ連れて行ってもらったことがあったという。

「学校で撮影していた際、お昼の休憩時間に蕎麦屋に連れて行ってもらったんです。僕と露口さんで隣に並んで、2~3時間ほど話をしました。物思いに耽るようにして“役者という仕事”について優しく語っていたのを覚えています」

そこで露口さんは水野に対して、ある“教え”を語っていたという。

「とりわけ、その時に露口さんの言葉で数十年経っても印象に残っているのが『俳優ってのはゴミみたいなものなんだ』と笑いながら言っていたことですね。

当時の僕は幼かったこともあって、内心では“一体どういうことだろう”と首をかしげていました。ですが、僕も役者としてだんだん歳を重ねることで、その言葉の意味が身に染みて分かってきたんです。

おそらく、その時の露口さんは『サラリーマンなどの仕事が世のため・人のための職業だとすれば、役者という仕事は自分たちがやりたくてやっているだけの独りよがりな職業。僕らなんか、社会の片隅で生きている端くれに過ぎないんだ』ということを言いたかったのでしょう。

当時まだ子役だった僕に、役者という仕事をするうえで忘れてはいけない心構えを教えてくれたのだと思います。今考えると、その言葉に胸が熱くなって、すこし泣きそうになりますね」

■晩年に表舞台から遠ざかっていたワケ

劇中の山さんは、家に帰れば妻と養子を大切にする愛妻家として描かれ、当時の主婦層からも根強い人気があった。水野によると、普段の露口さんもそんな山さんの“生き写し”のような存在だったという。

「演技に真摯に取り組む真面目な方で、周囲が盛り上がっているときも、露口さんだけはいつも物静かな様子でしたね。撮影が終わるといつも“お疲れ”ってすぐに奥さんの元に帰って、お酒の付き合いとかも全然しない。ご家族と過ごす時間を大切にされていたのでしょう」

晩年は妻と都内の自宅でマイペースに暮らし、娘夫婦や孫に会うことを楽しみにしていたという露口さん。‘09年のインタビューでは「どうしてもというオファーがあればやりたい」と話していたが、役者として復帰することはなかった。

表舞台から遠ざかっていた理由を、水野はこう推測する。

「当時から、役者としての基準を常に高いところに置いていたプロフェッショナルな方でした。高齢になってセリフ覚えが悪くなってきたら、もう仕事は受けないと決めていたのだと思います。

露口さんは“俳優の仕事なんて自分のエゴだ“と仰っていましたが、だからこそ決して妥協せずにご自身の仕事に向き合ってきたのでしょう」

水野に語った“ハードボイルド”な教えは、露口さんの俳優としての生き様そのものだった。

編集部おすすめ