「ストーカー事案のほとんどが、元配偶者など『知っている人』の犯行や行為です。ところが、今回逮捕された男は『まったく知らない人』を尾行し殺害したと供述。

私たちは、警戒度をワンランク上に引き上げなければいけません」

こう話すのは、防犯アドバイザーの京師美佳さんだ。

神戸市のマンションのエレベーターで、8月20日に発生した会社員・片山恵さん(24)刺殺事件で兵庫県警に逮捕された谷本将志容疑者(35)は事件当日、片山さんの勤務先付近から約50分尾行し、自宅があるマンションのオートロックが閉まらないうちに侵入。

エレベーターに一緒に乗り込み、片山さんを羽交い絞めにしてナイフで刺して殺害したとみられる。

「谷本容疑者は2020年にストーカー規制法違反容疑などで逮捕。2022年に面識のない女性の首を絞めるなどして執行猶予付き有罪判決。

今回の事件の3日前には、別のマンションに住む女性の後をつけ、同様にオートロックをすり抜ける“共連れ”行為が判明しており、ストーキングから人を襲う快感の欲求へとエスカレートしたようです」

卑劣なストーカー行為や殺人などの犯罪から身を守るため、私たちができることとは。

仕事や買い物などの外出から帰宅までの、各所の“命の守り方”を京師さんに解説してもらった。

「最寄り駅からの帰宅ルートで、歩きスマホやイヤホンでの通話、音楽鑑賞などの『ながら歩き』はやめましょう。物音や気配に気づかず、不審者に注意を払えません」

後ろから気配を感じたり、実際に誰かついてくるようだったら、歩道を一度、曲がってみること。

「それでも、あとをついてくるようなら、もう一度曲がりましょう。ここでもついてくれば、付きまといと断定できます。すぐ交番やコンビニ、病院など24時間体制で誰か人がいる場所に逃げ込みましょう」(京師さん、以下同)

帰路のどこに交番、コンビニなどがあるか、記憶しておくべきだ。

「店に逃げ込んだら、気配がなくなるまで待ちます。もしくは店の中でタクシーを呼びましょう。

110番を呼んでもいいです。『つけられているかもしれないので保護してください』といえば、警察官が駆けつけ、不審者への職務質問などをしてくれるでしょう」

“ながらスマホ”は厳禁だが、不審者に気づいたら、スマホを手に持って「110番を表示させておくといい」と京師さん。

家族や友人など、すぐ取ってくれそうな相手の番号を表示させておくのも一手になる。

■“共連れ”を防ぐには「お先にどうぞ」と譲る

逮捕の谷本容疑者は事件3日前の事案も入れて、少なくとも2度、マンションのオートロックをくぐり抜ける“共連れ”をしていた。

「オートロックを開ける前に、周囲に不審者がいないか確認します。もし、共連れしようとする人がいたら、『お先にどうぞ』と先に譲りましょう。その際、覚えられたり先回りされるのを防ぐため、郵便受けの自分の部屋番号の前には絶対に立たないようにしてください」

そして、エレベーターでは。

「同乗しようとする人がいれば、『お先にどうぞ』と、先に行き先階に行ってもらい、エレベーターが戻ってきたとき、誰も乗っていないのを確かめてから乗りましょう」

自分がエレベーターに乗り、扉が閉まる直前に人が乗り込んできたら、「もしもし」と、スマホに着信があったふりをして、エレベーターからとにかく出ること。

それでも同乗者がいる状況を迎えてしまったら「エレベーターの操作パネル前に立ち、すぐ非常ボタンが押せるように」と京師さん。

「片手はパネルに添え、壁を背に、体は不審者に向けて立ちましょう」

ここからは最悪の想定。

羽交い絞めや襲い掛かられたら「日傘を広げて防御することも有効」だ。

「スマホをギュッと握りしめるなどの操作でも緊急通報できるので、自分のスマホの機能を、あらかじめ把握しておきましょう」

犯人の両目を手で払うというのも有効になる。ただし催涙スプレーは「理由なく所持すると法律違反になる場合がある」という。

「不安がある場合は、事前に警察に相談しておけば相談履歴が残りますので、所持する正当な理由となる場合もあります」

最後は、エレベーターを降り、自室の玄関ドアを開ける瞬間だ。

「絶対に部屋に入られないよう、周囲に人がいないか必ず確かめます。そしてドアを自分が入れる程度に少し開けて、素早く入ります。

入ってロックしたら、室内に侵入者がいないか確認してからチェーンやU字ロックをかけましょう」

外からの侵入には性的暴行や殺害目的のほか、近年凶悪化している押し込み強盗もある。

非常グッズには防刃の手袋やブルゾン、エプロンなどがあるので、幾重にも予防策を立てよう。いざそのとき、助けが来るまでは、自分で身を守るしかないのだから。

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