今年6月、東京都板橋区の賃貸マンションでオーナーによる突然2.5倍もの家賃値上げで住民が困惑するというニュースが話題になった。その後、オーナー側は値上げを取り下げたものの、7月には共有部分の照明もつかなくなったという。
このケースのように、オーナー側が急に賃上げを要求してきた場合、入居者はどう判断すればよいのだろうか。
全国800名以上の不動産仲介エージェントを擁するTERASSの取締役・COOである井上利勉さんに聞いた。
「オーナー側が急に理不尽な値上げを命じてきたとしても、入居者はそれに応じる必要はありません。日本には借地借家法という法律があり、入居者が非常に強く守られているため、家主は入居者の合意なく勝手に家賃を上げることができないのです」
「また、契約更新時に賃料改定が行われることがありますが、この時にも入居者の合意なしには値上げができなくなっています。
ただ、近年、東京都では土地の価格が上がり、家賃相場も上がってきています。現在のように周辺相場も上がっている場合は、2.5倍といった極端な金額ではないにせよ、東京は23区を中心に家賃の値上げが増えています。合理的な理由がある家賃改定であれば、最終的には応じる必要も出てきます。」
不動産情報サービスのアットホームが8月27日に発表した、7月の東京23区の単身者向け賃貸マンションの平均募集家賃は、前月比1.6%値上がりしたという。昨年以来、14カ月連続で最高値を更新し続けている。単身者向けの物件は10万円台になっている。
たしかに今の地価高騰による家賃の上昇も都市部では相応な状態といえるのだろう。
しかし、前出の板橋のマンションの問題は、家賃の値上げだけではなかったようだ。
家賃値上げを取り下げたものの、7階建の住宅用建物なのにエレベーターが使えなくなったり、ゴミ集積所など共用使用の部分の管理が行われないなどと、住民にとって不便を強いられる状況が現れた。
こうなったときに、住民ができることは何があるのだろうか。
「共用部分の使用については、民法601条(賃貸借の定義)や借地借家法によって、オーナーが修理を負う義務のあることが定められています。
たとえば、エレベーターや共用部分の照明などは生活の中での必要な設備です。そういう共用部分が故障などの理由で使えないのであれば、オーナーは修理をしなければなりません。万が一、修理代金がまかなえずに修理ができないなどの場合、入居者はオーナー側に賃料の減額請求をすることもできるのです」
管理会社やオーナーと入居者が直接話し合いの場を持つことも必要だという。
「話し合っても合意に至らない場合は、調停や訴訟といった法的手続きをとることになりますが、法的手続きをとると、感情的なしこりが残りやすくなります。ですから、その前に話し合いで双方が合意できることが理想的です」
通常はオーナー側と入居者が話し合いがのできるケースが多いし、そのために賃貸管理会社が仲介者の役割を担っているわけだ。
だが、板橋のケースでは、オーナー側と連絡がとれず、結局、住民たちが協力しあって共用スペースを掃除している様子がテレビで報道されていた。
このように最終的に住民の負担が増えると、マンションに住みづらさを感じるだろうし、入居者は本意ではなくても転居を考えざるを得ないこともあるだろう。
「その際は立ち退きのための補償金を、オーナー側に談判、交渉することができます。立ち退きに対しても入居者は法律で守られていますから。
今回のような急なマンションの値上げの要求は、不動産事情に疎い人にとっては、晴天の霹靂で、動揺した人も少なくないのではないだろうか。
しかし、井上さんは“情報弱者”にならないようにアドバイスする。
「賃貸物件に入居されている方々も、たとえば、不動産事情に詳しい人から話を聞く機会をもったり、いざとなったら頼りにできる人と連絡がとれる状態にしておくことで、いざというときの対処法も随分変わります。そうした準備が、これからの時代はより大切となるでしょう」
できるだけ動揺せずに、自分にとって負担の少ない対処ができるようにしておきたい。