「10年前の台風の夜。都内から神奈川県の自宅に帰ると、住宅街一帯は停電で真っ暗。

さらに5軒隣には人だかりができていて、何だろうと思ったら、古い電柱が折れて倒れていたんです。電柱が突っ込んだ屋根は重さ数百キロの変圧器でつぶれ、穴が開いていました。幸い住民の方は無事でしたが、自分の家に倒れてきて、2階部分にいたらと思うと恐ろしいです……」

読者の30代女性は、2015年の台風18号の経験をこう語る。

9月に入り、本格的に台風シーズンを迎えた日本列島。先日の台風15号も、西日本を中心に甚大な被害をもたらした。今後も台風の発生頻度は平年並みかそれ以上との予想もあり、暴風雨で電柱や街路樹などが倒れる被害も懸念される――。

山梨大学地域防災・マネジメント研究センターの武藤慎一さんは、次のように話す。

「国や行政は、点検や規制強化などそのつど、対策を立てて取り組んできてはいます。しかしその対策は、やはり事故が起きてから、後手の対応に回っている印象があります。私たち市民は、災害の有無にかかわらず、建造物やインフラ設備の倒壊などの事故ゼロを目指し、リスクを把握して注意を怠らないことが重要です」(武藤さん、以下同)

地域防災のスペシャリストである武藤さんに、私たちが出くわす恐れがある「街に潜む危険サイン」について解説をお願いした。

「まず、老朽化した看板などの落下事故が挙げられます。建物などの所有者が設置の届け出を許可される際、看板の安全性もチェックされているはずなのですが……。

古くなると、どこまで守られているかは、不明な部分があります」

特に空き店舗などの場合、長く放置され、管理点検が不十分になっている可能性がある。

「看板の接続部などにサビがあったり、腐食していると落下の恐れがあります。また、経年劣化で金具が緩んでいる場合も、落下する恐れがあります」

危険な状態の看板は、強風がトリガーとなり落下する可能性が高いという。2024年7月には、竜巻注意情報が出ていた埼玉県で、JR川口駅付近のビルの看板が歩道に落下。この事故で、60代男性が頭に重傷を負っている。“看板なんてめったに落ちてこないだろう”と油断は禁物だ。

「異変のある看板を発見したら、まずはお店の方に伝えてみるといいと思います。それでも改善が見られなければ、市区町村の役所(都市計画課など)に相談すべきです」

次に、電柱の倒壊だ。2019年9月の令和元年房総半島台風(台風15号)では千葉県を中心に甚大な被害が発生。経済産業省の調査によれば、倒壊・損傷した電柱はおよそ2千本と推計されている。日本中には通信と電力を合わせて約3千600万本もの電柱があるが、台風の際に折れてしまうような、危険な電柱の見定め方はあるのだろうか?

■飛来物が引っ掛かると電柱は倒れやすい!

「まず、傾いている電柱は非常に危険です。特に大地震が起こった場合、地面が液状化すると倒壊の危険度が高まります」

また「電線の張りが強い場合も要注意」と武藤さんは続ける。

「電柱は縦に細長いため、上部の圧力に弱いです。強風で飛来した屋根、看板、木の枝などが電線に引っ掛かって強く引っ張られると、倒れたり折れたりするケースが多くあります」

そして、街路樹の倒木も命に関わる危険の一つ。国土交通省の2023年調査によれば、過去5年間で国や都道府県が管理する道路における街路樹の倒木は、平均で年間約5千200本だったという。うち、強風などの災害による倒木は約3千700本もあったのだ。

「実際に枝が落ちて重大事故につながったケースが多々報告されています。腐食がある、空洞があるなど、危険サインを発見したときは、管轄の道路管理者や自治体に連絡してください」

2024年9月には、東京都でイチョウの木が根元から折れ、下敷きになった男性が死亡するという痛ましい事故があった。腐食がひどい場合は、台風でなくても危険にさらされる場合もある。注意したい。

建造物の外壁タイルなどが落下し、直撃した人が死亡する事故も、たびたび起きている。

「外壁やタイルにひび割れがあったり、はがれている、変色がある、水染みがあるなどが危険サインです。しかし、高所は目視が難しいという難点があります」

さらに、“インフラの老朽化”の代表ともいえるのが、水道管の劣化だ。水ジャーナリストの橋本淳司さんが、こう指摘する。

「上水道の耐用年数は40年、下水道は50年とされています。現在、それを超える老朽管から交換をしているのですが、とても追いつかない状況です。水道管の破損は年間約2万件。1日に数十件起きているという計算になるんです」

1月に起きた、埼玉県八潮市の痛ましい道路陥没事故。原因やその対策を検討していた「原因究明委員会」は4日、中間の取りまとめを公表し、陥没の原因は硫化水素で腐食した下水道管によるものだと公表した。水道管が腐食するなどして穴が開けば、その上の土砂が水道管に入り込み、地下には空洞ができていく。それがやがて、道路陥没の原因となるのだという。

「しかし、水道管は地下に埋まっているため、目視できません。そのため特に下水道管は、自治体によって『配管の位置がわかる平面図』を公開しています。家の近所でどのあたりに水道管が通っているのか知りたい場合は、これを参考にしてください」(橋本さん)

道路陥没の「危険サイン」の中には、目視でわかるものもある。

「舗装のひび割れやはがれ、水たまりが消えないなどは、陥没の可能性があります。周辺で水道管工事や漏水が多発しているのも、目安となります」(前出、武藤さん)

見慣れた街にも、死の危険は潜んでいる。

日ごろから危険をチェックし、台風のときはくれぐれも外に出ないようにしよう。

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