「鼻水が何日も止まらない」「咳がずっと続いている」――。かぜをひいたと思ってクリニックに行くと、じつは「花粉症」だったというケースが相次いでいる。

「咳が止まらないといった症状で受診される方が、この1週間ほどで急に増えました。すべてではありませんが、“秋の花粉”の影響が背景にあるケースが多くなっている印象です」

そう語るのは、きたにし耳鼻咽喉科(大阪府守口市)の北西剛院長だ。花粉症というと、春に悩まされるものと思われがちだが、秋にも発症する。秋の花粉症を引き起こすのはブタクサやヨモギ、カナムグラといった雑草の一種で、これらの雑草は生命力が強く、公園や河川敷、空き地、道路沿いなど、身近なところに生えていて、8月下旬~10月ごろまでが花粉飛散のピークにあたるという。

国内の観測史上最高気温を記録するなど、今年は記録的な暑さが続いているが、その影響で秋の花粉症が激増し、ピークも前倒しになる恐れがあると警鐘を鳴らすのは、花粉症外来がある「せたがや内科・神経内科クリニック」(東京都世田谷区)の久手堅司院長。

「すでに秋花粉の症状を訴える人が出始めており、今後のピークにかけて警戒しています。秋の花粉症を引き起こすブタクサなどの雑草は、暑さで繁殖が加速する性質があります。気温が高い日が続いているせいで、今年は秋花粉の飛散量が倍増するという専門家の予想も。罹患する人や、初めて症状を自覚する人の増加が懸念されます」

春の花粉の場合、花粉前線が南のほうから北上するイメージがあるが、秋の花粉に関しては全国の飛散情報や市区町村別の統計などの手掛かりが乏しいため、症状が出ていても「秋の花粉症だ」と自覚できず、悪化させてしまうことも多いそうだ。

「外出を控えてエアコンの効いた部屋で過ごす機会が増えています。そのため、夏バテの影響で免疫機能が低下している人が少なくありません。同時に、発汗機能の衰えなどが重なって、体温調節をはじめとする自律神経の働きが低下しがちに。

これらが秋花粉と重なることで、体調不良を訴える人が急激に増えてきていると考えられます」(北西院長)

花粉症の主な症状は、春と秋で同様だが、秋特有の症状もある。

「何度も繰り返す『くしゃみ』と、透明でサラサラした『鼻水』が出ること、さらに『鼻づまり』の3つが共通する症状です。花粉が目に付着すれば目のかゆみや充血が起こりますし、皮膚に付着すればかゆみが現れるのも同じです。

異なる点は咳症状。春に飛散するスギ花粉と比べ、ブタクサなどは粒子が小さいため、気管支や肺まで侵入しやすく、ぜんそくのような咳が出やすいといった特徴があります。

このほか、かぜの場合は熱が出るのに対して、花粉症の場合は微熱のようなだるさを訴えるケースもあります。

診察の際、患者さんに自覚症状がないというケースも多いため、かぜとの見極めが困難なところも、秋花粉の厄介なところです」(久手堅院長、以下同)

かぜと混同しないためのポイントの一つはくしゃみ。かぜの場合はよく出るが、連続しては出ない。いっぽう花粉症のくしゃみは発作的に起こり、一度出ると止まらないことが多い。かぜによる鼻水は粘り気があって黄色っぽいが、花粉症では透明でサラサラしている。

症状が出るタイミングにも違いが。秋の花粉症は春と同様“モーニングアタック”と言われるように、朝方に症状が強く出る傾向がある。

かぜの場合は、一日中、症状の出方に差はない。

「熱が出ないのに、発作的な咳が2週間以上続いているようであれば、かぜ以外の原因が考えられます。迷ったら早めに病院で受診することをおすすめします」

治療方法は、春の花粉と同じで、症状が軽ければ抗ヒスタミン剤、点鼻薬、点眼薬で症状が改善するという。アレルギー検査を行い、症状に合わせた薬を処方するのも春と秋で共通だ。

予防のためには、「花粉を吸い込まない」「部屋に持ち込まない」ことが基本だ。

「ブタクサなどの雑草が多く生えている空き地や公園などは避けるようにしましょう。

スギやヒノキの花粉は、風に乗って広範囲に飛散するのに対し、ブタクサは丈が低いため花粉の飛散する範囲が数十mほどと狭くなります。スポットを避けることで、花粉によるダメージのリスクを抑えることにつながります。

また、マスクやめがねで花粉の侵入を防ぎ、帰宅直後は洗面台に直行して手と顔を洗う、口と鼻のうがいをするなどが効果的です。玄関前で衣服の花粉を払い、シャワーを浴びるとさらに症状の軽減につながります」

換気の際にも配慮を。レースのカーテンは閉めたままにして、窓を開けるのは10cmほどにしよう。洗濯物は部屋干しにし、外に出さないようにすると花粉の侵入を抑えることができる。

花粉症は「アレルギー性鼻炎」の一つであるため、バリアとなる免疫機能を高めるために、腸内環境を整えておくといいと久手堅先生は話す。

「夏場は冷たいアイスや飲み物でおなかを壊している人をよく見かけます。また食欲低下から野菜不足になり腸内環境が乱れている人も多いでしょう。

おなかの冷えを防ぎながら、ヨーグルトや納豆などの発酵食品を取って腸の働きを正常に保ちましょう」

まだまだ続く異常酷暑の余波。体へのさらなる負荷を減らすためにも、秋花粉のダメージから身を守ろう――。

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