真冬に猛威を振るうイメージの強いインフルエンザが、残暑厳しい全国各地で暴れている。9月5日には、千葉県市川市の小学校の児童の間で集団感染が発生し、学級閉鎖に。
「検査をしたところ、A型の陽性でした。冬ほどではないものの、夏にもインフルエンザの患者は一定数いますが、ほとんどが海外の渡航先での感染です。
いまはかぜ症状がある際に、新型コロナとインフルエンザの2種類のウイルスを同時に検査できるキットも用いられるため、これまでより確認数が増えている可能性もありますが、9月に学級閉鎖はあまり聞いたことがありません」
インフルエンザは、定点医療機関1カ所あたりの患者数が「1人」を上回ると流行期とされるが、青森県では、9月1日までの1週間で「1.23人」に。また京都府では9月7日までの1週間で「1.19人」と流行の目安を超えた。
9月11日に「1.20人」とインフルエンザの流行期に入ったのが福岡県。「ひろつ内科クリニック」(福岡市)の廣津こう平院長がこう話す。
「昨年より1カ月早く流行期に入りました。空港や新幹線の利用者の往来が多いため、他地域への感染拡大も危惧されます。高齢者や心臓、肺、腎臓などに慢性疾患のある方は、できるだけ早めの予防接種を検討してほしいです」
例年であれば11月下旬から12月上旬に始まるインフルエンザの本格流行。この時季に感染が広がっているのはなぜだろうか?
長崎大学高度感染症研究センター長の森内浩幸先生が解説する。
「インフルエンザウイルスが好むのは、たしかに冬の低温・乾燥の環境です。
記録的な暑さとなった今夏、エアコンのフル稼働で室内は乾燥し、換気もおろそかになりがち。集団感染を招く、密閉空間・密集場所・密接場面という3つの『密』が冬以上にそろいやすいのです。
また、冬の流行期はかぜ症状が出たらインフルエンザを疑い医療機関を受診しますが、夏の場合、症状の重くない感染者は夏かぜと思って放置し、ウイルスを拡散させてしまうことも。さらには残暑による疲れや睡眠不足などから、ウイルスと闘う免疫の機能が低下していることも懸念されます」
インバウンドの影響も指摘されている。日本学校保健会によると、9月17日時点で、インフルエンザによる学級閉鎖は全国で40クラス。そのうち13クラスが、世界中から人が集まる大阪・関西万博開催中の大阪府内の学校だ。
「万博とインフルエンザの学級閉鎖との関連を証明することは困難ですが、いま南半球はインフルエンザが暴れ回る冬の真っ最中。そのような地域から持ち込まれたウイルスが飛び火して、学級内で広がっていく可能性は十分に考えられます」(森内先生)
万博会場は、国内外からの来場者で連日にぎわいを見せている。季節外れの感染拡大だが、沖縄県では以前から確認されているという。
「沖縄県では、’05年ごろから夏のインフルエンザ流行が定着しています。’19年の夏には、定点医療機関1カ所あたりの患者数が『30人』を超えて警報レベルの大流行になりました。
沖縄県以外でも、今後も季節外れのインフルエンザの流行が繰り返されるかもしれないと、前出の森内先生は指摘する。
「熱帯や亜熱帯では、一年中インフルエンザウイルスがいますが、家の窓も玄関も開けている乾期よりも、窓を閉めっぱなしにして『密』になりがちな雨期に流行する傾向があります。日本の中では唯一亜熱帯気候に位置する沖縄県も、季節を問わずに『密』の条件がそろえば、インフルエンザ感染が増えてしまうのでしょう。年々、亜熱帯気候のような酷暑が続いている状況を鑑みれば、今後、夏にもインフルエンザが全国的に流行するようになる可能性も否定できません」(森内先生、以下同)
季節外れのインフルエンザは、症状や感染経路などは冬と変わりはない。大きく異なるのは、予防接種の体制の有無だ。対象者や助成額は自治体によって異なるが、助成制度はおおむね10月以降にスタートする。
「予防接種の主目的は、流行を抑えるというよりも、重症化を防ぐことにあります。
特に、重症化リスクのある高齢者や持病があり免疫の機能が衰えている人は、昨シーズンに予防接種を受けていても、その効果はほとんどなくなっています。
そのため、予防接種を受けられる機会が増える冬場と比べると、季節外れのインフルエンザは重症化するリスクが高くなります」
季節外れの感染拡大が続くなか、重症化リスクのある人は、自己負担で予防接種をする選択肢もあるだろう。ほかにはどのようにして感染を防げばいいのだろう。
「外出後の手洗い、うがい、室内換気など、基本的な感染対策が不可欠です。特に重症化リスクの高い人は人混みを避ける。
感染しないため、感染を広げないため――。一人ひとりの心がけで、季節外れの流行を乗り切ろう。