「最近、ドラマ『アイコ16歳』シリーズで共演した武田久美子ちゃんとLINEでつながって、久美子ちゃんが帰国したときに会う約束をしました。きっとドラマの思い出話で盛り上がるんでしょうね」

こう語るのは伊藤つかささん(58歳)。

歌手デビュー直後ということもあり、同ドラマの撮影当時は、もっとも忙しい時期だった。

「高校生だった堀田あけみさんが描いた小説で、主人公・織田アイコも女子高生。私自身、当時は学業優先でしたので、芸能コースのない高校に通っていました。とはいえ、午前中は学校に行けるものの、午後には裏門で待っているマネージャーの車に乗って、取材やラジオの仕事現場に向かう毎日。夏休みや冬休みなどは舞台やドラマのお仕事が入っていて、なかなか普通の高校生活を送ることができませんでした。だから、同ドラマでは貴重な体験をさせてもらいました」

弓道部に所属している設定だったため、部活の擬似体験ができた。

「撮影に入る前に、都内の弓道場で練習しました。所作が美しいし、袴や足袋を身につけるなど、なかなかできない体験。ただ、弓をひくには力がいるため、最後まで矢が的に届きませんでした(笑)」

女子校に通っていたが、ドラマの学校では共学を体験した。

「クラスメート役の人たちとは、ほとんどが初対面。私は人見知りなので、かんたんには溶け込めないんです。でも、『金八先生』(TBS系)で一緒だった吉田康子ちゃんや藤田秀世くんが一緒だったので、助けてもらいました」

ロケは、ドラマの舞台となった名古屋近郊で行われた。

「街中を颯爽と自転車で駆け抜けるシーン、名古屋の街にお母さん役の加賀まりこさんと買い物に行くシーンなどでも、日常生活ではできなかった体験をさせてもらうことできました」

叔母が訪ねてきて、母(加賀)とアイコ(伊藤)の3人ですき焼きを食べるシーンが忘れられない。

「私がセリフを言っているときに、叔母はすき焼きを食べ続けるのですが、何度やってもセリフを間違えてしまって……。NGのたびに、叔母は卵を割るところからやり直さないといけないんです。しかもお肉がすごく大きい。その姿を見ると申し訳なくて、余計に緊張して、何度もNGに。さすがに加賀さんからも『いいかげんにしなさいよ』とたしなめられました。監督にもあきらめられたのか、OKシーンも、しどろもどろっぽいんです(笑)」

『アイコ16歳』(TBS系、1982年)

堀田あけみが高校在学中に執筆した『1980アイコ十六歳』が原作。名古屋を舞台に、弓道に熱中する16歳の女子高生のひと夏の経験を描いた青春ドラマ。当時、史上最年少で文藝賞を受賞した作品らしく、普通で繊細な少女の描写が話題となった。

【PROFILE】

いとう・つかさ

1967年生まれ、東京都出身。幼少期から子役として活躍、1980年に出演した『3年B組金八先生』第二シリーズで全国的な人気に。1981年には歌手デビューを果たし、アイドル、俳優として幅広く活躍中。

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