「リフォームを希望するお客さまの9割方が、ご自身の介護が必要になってから相談に来られます。ご自宅に住みながらでは、工事に3日~2週間ほどかかるような大規模なリフォームができにくくなってしまうんです」

こう話すのは、リフォーム全般を扱う高齢者住環境研究所社長の溝口恵二郎さんだ。

一方、東京消防庁が発表した「高齢者の『ころぶ』事故の発生場所(2021年中)」によれば、「ころぶ」事故の6割が、住宅などで発生している。

転倒による骨折をきっかけに高齢者が寝たきりになる事例が多く、安心した老後を送るには、段差の解消や手すりの設置といった介護リフォームが欠かせない。また、車いすになった場合、スロープの設置なども必要になる。

しかし、前述のように、実際に介護が必要になってからリフォームするとなると、長期間外泊するのが困難なこともあって、必然的に工期が短い、簡単なリフォームしかできなくなってしまう。

要介護認定を受ければ、介護保険でリフォーム代が補助されるが、上限は原則18万円(自己負担1割の場合)。大規模なリフォームには到底足りない額だ。

「50代に入れば、お子さまが独立するなど、定年前に夫婦2人暮らしになる方も多いはずです。元気なうちに、家中の段差を減らしたり、後々手すりを付けるために壁に下地だけ先に取りつけておくなど、ある程度リフォームを進めておくのがベターです」(溝口さん、以下同)

だが、家の構造によっては、予想以上に費用がかかることがあるという。溝口さんに、どんな家がリフォームで余計にお金がかかる家なのか教えてもらった。

■玄関と道路に高低差がある

「1階の床は地面から45センチ以上の高さがないといけないと、建築基準法で定められています。一般的な住宅では、道路から玄関ドアまでの高さは20センチほどのことが多い。車いす用のスロープを設置する場合は3メートルほどの長さが必要になります」

費用は15万円ほど。

しかし、高低差40センチの場合、倍の30万円ほどかかることに。スロープを設置するスペースがない場合は、リフトの設置が必要になる。

「コンクリートで平らにする作業に20万~30万円。リフトは工事費込みで50万~60万円。レンタルにすれば月額3000円ほどです」

■玄関ドアの幅が狭い

「開き戸の玄関ドアを、高齢者や車いすの人でも使いやすい引き戸に替えるには30万円ほどかかります。ところが、ドア幅が最低60センチはないと車いすが入れませんので、60センチ未満の場合は、壁を壊してドア幅を拡張する工事が必要です」

その場合、費用は60万~70万円に増えてしまう。

■段差のある和式トイレ

「和式から洋式に変更すると最低20万円ほど、洗浄機付きで30万円ほどです。さらに、床より1段上がっている和式の場合は、段を壊して壁の補修も必要になるので、30万円(洗浄機付きで40万円)ほどになります」

■壁に下地がない

「手すりの設置は、壁に下地があれば、2万円程度でできますが、下地がなければ設置できません。板をつける必要があるなら3万円に。トイレなどで、両側につければ6万円になります」

■引き戸を作るスペースがない

「車いすになったら、家の中のドアも引き戸にしたほうが、利便性が上がります。10万円ほどで替えられますが、柱などがあって、扉を引き込むスペースがない場合、2枚引き戸か巻き込み型のものを設置しなければならず、いずれも20万円ほどに費用が上がります」

■階段が途中で曲がっている

「階段の形状が直線なら、手すりの設置は下地込みで10万円ほど。途中で曲がる“曲がり階段”の場合、15万~20万円ほどです」

■浴室のドアの幅が狭い

「通常の折れ戸の場合は10万円、引き戸で15万円です。

シャワーキャリー(風呂用の車いす)を出し入れするスペースがない場合、間口を広げる工事が必要になりますので、30万~40万円かかります」

■和室が周囲の部屋より高い

「6畳間をフローリングに変更する費用は20万円ほどです。しかし、和室はほかの部屋より床が5?6センチ高いことが多く、段差をなくすために床を下げる場合は40万円ほどかかります」

逆に周囲の部屋の面積が少なければ、そちらの高さを上げたほうが工賃は少なく、20万円ほどが目安となる。

「しかしキッチンや洗面所の床上げは水道の設置のし直しが必要で5万~10万円プラスに。さらに床上げで扉交換などが必要な場合も10万円ほどプラスになります」

最後に、溝口さんはこうアドバイスをくれた。

「こうした事実を知っておけば、リフォーム費用を備えておくことができます。要介護になる前に、早めの準備を心掛けてください」

■家は老朽化している15年に一度は補修を

ここまで介護リフォームにかかる費用を見てきたが、持ち家にかかるお金は、それだけではない。モリシタ・アット・ホーム会長で一級建築士の森下誉樹さんは、こう話す。

「新築した持ち家も、住み続ければ経年劣化します。特に、修繕に費用がかかるものとして、壁と屋根があります。周囲から目に付く壁ばかり修繕したがる方も多いですが、本来は壁と屋根は、同時に修繕することが望ましいです」

森下さんによれば、長く、安心して住み続けるためには「10~15年に一度は壁と屋根を修繕するのが理想的」だという。東京をはじめ人口が集中する大都市などでは土地の価格が激しく高騰している。そのため、狭い土地に建てた細長い住宅、いわゆる「ペンシルハウス」が急増している。

8月10日の日本経済新聞(日曜版)の報道によると、東京23区内で売りに出された戸建てのうち、敷地面積50平方メートル未満の戸建てが占める割合は、2018年は12%だったのが、2024年には16%と増加しているという。

今回、森下さんに同じ30坪(約100平方メートル)の住宅でも、平屋、2階建て、そしてペンシルハウスに多い3階建てで、どれくらい修繕費用が違うのか教えてもらった。

「同じ30坪の住宅でも、壁の面積は平屋が120平方メートル、2階建てが180平方メートル、3階建て207平方メートルと大きく異なります。壁の修繕費は、平屋で約100万円、2階建てで約150万円、3階建てで約180万円という試算になりました」

一方、屋根は階数が上がるほど、面積が狭くなるという。

「標準的なスレート瓦を張り替えた場合、平屋建てで110万円ほどになります。一方、3階建てなら、45万円ほどに。また、腐食しにくく、軽量で耐震性に優れたガルバリウム鋼板の屋根(ガルバ屋根)の場合、平屋で130万円、3階建てで55万円です」

ただし、2階建て、3階建てとなれば工事の足場設置費用がかかってくる。以上を加味した住宅の壁と屋根の修繕費は表のとおり。

「東京などの都心では、敷地が狭くて足場が建てられないなどの問題が出ることがあります。その場合、より工賃が高くなる可能性も。また、安価な住宅の場合、初期費用を抑えるために最上階の断熱が甘いことがあります。その場合、夏の暑さや冬の寒さが強くなり、不快なうえ、医療費などがかかることにもつながります」

せっかく手に入れた夢のマイホーム。

老後も末永く住み続けるために、介護リフォームと修繕の費用は念頭に置いておこう。

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