9月19日に、東京都北区にある林家ペー(83)、パー子(77)夫妻の自宅マンションで起きた火災。出火原因は古い電源タップによる漏電と見られている。
「ぺーさん、パー子さんが住んでいたのは築46年の5階建てマンションの広さ約38平方mの一室。家にいたパー子さんは避難して無事でしたが、飼っていた猫4匹が亡くなり、夫婦で撮影した約2万枚の写真や派手なピンクの舞台衣装のほとんどが燃えてしまいました。
当初、パー子さんは『仏壇のろうそくに火をつけようとしたら燃え広がった』と話していましたが、室内には、何年も前から使っていた延長コード(電源タップ)がいくつもあり、それが漏電して発火した電気火災の可能性が高いようです」(全国紙記者)。
■電気火災は年間4,578件も起きている!
電気機器、電気コードなどが発火源となる「電気火災」は珍しいことではない。
消防庁「令和6年における火災の概要について」によると、全国の建物火災の出火原因で「電気機器」は2,022件、「配線器具」が1,446件、「電灯電話等の配線」も1,110件起きている。これらを合わせると電気火災は4千578件になり、建物火災原因では「コンロ」や「たばこ」よりも多い。
9月25日には、東京都杉並区で、モバイルバッテリーから発火した火事で男女6人が煙を吸い病院に搬送された。
元消防士で防災スペシャリストの野村功次郞さんが電気火災についてこう語る。
「家庭内で使用する電化製品の増加に加え、昨今は取り扱いを間違うと発火につながる軽量で高電力が進んだモバイルバッテリーや充電式家電などが増え、電気火災は増加する一方です。
■気づいたころにはメラメラ燃えているのが特徴
発火源となるのは延長コード、差し込みプラグ、器具付きコードが多くなっています。電気火災は、炎や煙が出るコンロやたばこと違って、目には見えない電気が引き起こすため、炎が出るまで気づかずに、瞬く間に燃え広がってしまうのです」
■そんな電気火災はどのようにして起こるのだろうか?
「長時間差し込んだままにしているプラグに水分を含んだホコリやペットの毛がたまり、そこで火花放電が起きて火災にいたる『トラッキング現象』、ひとつの配線に複数のプラグをつなげた“たこ足配線”によって延長コードが許容されている電気量を超えることで異常発熱する『過電流』、さらにはコードが家具やドアに挟まり、プラグを抜くときにコードを引っぱることで断線し発火する『半断線』など。
また曲がったプラグや延長コードを巻いたまま使用することでも異常発熱や発火を起こすリスクが上がります」(野村さん、以下同)
林家ペー・パー子夫妻の自宅マンションで起こったとされる“漏電による電気火災”についても解説してもらおう。
■異常に電気代が高いときは、家庭内で漏電が起きているかも
「電気製品や配線コードには、電気が正しく流れるために、電気を通しにくい絶縁という物質で覆われている部分があります。その絶縁部分の劣化や損傷によって、電気が漏れ出すことで出火します。
しかし家庭内で漏電が起きると、ブレーカーの中でも『漏電ブレーカー』が落ちるのですが、古い住宅やマンションでは漏電ブレーカーが故障していたり、メンテナンスが行き届かなかったりして電気が漏れていることに気がつかないことも。
たとえ24時間エアコンを使っていたとしても、異常に電気代が高いときは、家庭内で漏電が起きている可能性があると考えたほうがいいでしょう」
とりわけ高齢者の場合は、住んでいる家屋に限らず、家電製品、配線設備などが古く、電気火災を招きやすいから要注意だ。
電気火災を防ぐためにも、たこ足配線をしない、コンセントまわりを清掃する、コードを束ねたり傷つけたりしない、などが重要なポイントになる。
■電源タップは3~5年で交換を!
「電気機器の正しい使用方法を守ること。電化製品の異常に気づいたら使用をやめたり、使用していない電気機器のプラグを抜いたりすることも予防策になります。
とくに、どこの家庭でもひとつはある複数の差し込み口がある電源タップには注意が必要です。電源タップをいつから使い始めたかわからないという家庭がほとんどでしょうが、長期間使用するとテーブルタップが発熱したり、コンセントプラグが溶けたり、コードがショートしたりして発火することも少なくありません。
電源タップが出火原因となった火災では、ホコリがたまることによるトラッキング現象が多く、定期的な清掃を心がけるとともに、劣化があるようならすぐに買い替えるようにしましょう」
配線器具の調査を行う日本配線システム工業会では、火事やケガが生じる恐れがあるため、電源タップの交換目安は3~5年と呼びかけている。不具合がないか、交換するタイミングを見極めたい。
■直接水をかけての消火は感電の恐れあり!
実際に電気火災が起きた場合の行動についても教えてもらった。
「通報して周囲に火災を知らせること。可能であれば初期消火を試みるところまでは通常火災と同じです。ただし、電気火災の場合は、水での消火はやめてください。
水は電気を通しやすいため、漏電している機器に直接水をかけると、水を通じて人体に電気が流れ感電する恐れがあり非常に危険です。
可能ならばブレーカーを落としたり、電源プラグを抜いたりしたうえで、普通(A)、油(B)、電気(C)の火災に対応している粉末ABC消火器を使うのがもっとも効果的な消火手段。初期消火の限界は炎が天井に達するまで。自らの安全を最優先にした行動をとるようにしてください」
これからの乾燥する季節を前に、今一度、家庭内の電化製品や電源タップを点検して備えよう。