「食事の研究は、世界中で新しい知見がどんどん出ています。ところが日本では“科学的な根拠がない”のに爆発的な流行で信じられている健康法や古い情報が数多く残っているのです」

そう教えてくれたのは、ハーバード大学医学部講師で医師の濱谷陸太先生。

『予防医療の医師が教える最小の努力で最大の効果を得る食事学』(東洋経済新報社)の著者で、食事や生活習慣における予防医療のエキスパートだ。

「皆さんにしっかりお伝えしたいのは、『この食材は健康によい』『この栄養素は体に悪い』などと決めつけないでほしいということ。そういった考えは捨ててください。たとえ研究結果があっても、食事の健康への影響は複雑すぎて、はっきりとした因果関係を証明するのは難しいからです。一部を切り抜いて論じられたことに、とらわれすぎないようにすることが大切です」(濱谷先生、以下同)

毎日の食習慣は、健康に大きく影響する。間違った情報をうのみにしていてはがんなどのリスクを高める恐れも。

「これさえ食べておけばOK、といった食事法はありません。健康法にとらわれて偏ったものを食べ続けたりせず、1週間『21食』の単位でバランスのよい食事を取りましょう」

最新研究でわかった新常識を、さっそく見ていこう。

【Q1】心筋梗塞のリスクを高めるトランス脂肪酸を避けるために、パンにはマーガリンよりバターを塗っている(○または×)

「確かにトランス脂肪酸は心筋梗塞のリスクを上げますが、以前に比べて含有量は激減しており、気にしすぎる必要はありません。心筋梗塞のリスクを高めるほどの大量のトランス脂肪酸を摂取するのは、かなり難しいと言えるでしょう」。日本マーガリン工業会(’24年)のデータによれば、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸は’06年の約13分の1の含有量で、食パン1枚に塗る量(10g)あたり0.07gしか含まれていないのだ。さらに、バターは10gあたり0.19gと、マーガリンよりもやや多いという事実が。

マーガリンとバターの使い分けでは、少なくとも、心筋梗塞の予防にはならない。

答え…×

【Q2】野菜から先に食べる「ベジファースト」が、糖尿病の予防になる(○または×)

「検証不足を理由に、『日本人の食事摂取基準(2025年版)』からべジファーストに関する記載が削除されました。かつての日本では、爆発的に流行しましたが、実は、べジファーストの効果は“日本でのみ”検証されています。食直後の血糖の上昇を抑える効果は示されてきていますが、長い目で見たときに糖尿病予防になるほどの効果は、まだまだ科学的には証明されていません」

答え…×

【Q3】「マルチビタミン」で認知症が予防できる(○または×)

「最新の研究で、高齢者に対して認知症予防効果があることがわかりました。さらに、大規模な複数の研究で、がん発症リスクを約7%低下させることもわかっています。マルチビタミン剤は、それぞれのビタミンを程よい用量で混ぜるため、単独のビタミン剤ほど副作用が出にくく、食事サポートとして取り入れやすいのもメリット。ただし、今回検証されたのは欧米でのこと。サプリの効果が食事の効果を上回ることはないので、基本はしっかり食事から栄養素を補給することです」

答え…○

【Q4】ハムやソーセージなどの「加工肉」はがんリスクを高めるので、習慣的に食べることは避けている(○または×)

「加工肉を多く食べている人のほうががんのリスクが高いという研究結果はたくさん出ています。とくに大腸がんのリスクを高めることが指摘されています。加工肉であるハムやソーセージ、ベーコン、熟成肉などを日常的、習慣的に食べるのはやはり避けるべきでしょう。ときどき食べるぶんには、それほどの悪影響はないかと思います」

答え…○

【Q5】タンパク質を効率よく摂取するため、牛肉・豚肉を積極的に食べている(○または×)

「確かに牛肉や豚肉などの赤肉は、タンパク質や鉄、ビタミンB群などが豊富なのですが、『赤肉をたくさん食べるグループは、最も食べないグループと比較して約13%死亡率が高い』という研究結果もあります。これは平均的な統計なので、人によって違いはあります。

ただ、もし牛肉や豚肉ばかりを頻繁に食べているなら、一部を鶏肉や魚に置き換える、大豆食品も取り入れるなど、タンパク質をバランスよく取ることを心がけましょう」

答え…×

【Q6】血圧を下げるには、牛乳やヨーグルトなどの「乳製品」を積極的に食べるとよい(○または×)

「血圧を下げる食習慣を『DASH食』といいます。積極的に食べたいものとして、果物、野菜、全粒穀物、ナッツ、豆類、そして『低脂肪・無脂肪の乳製品』が含まれているのが特徴です」。カルシウムには血圧を下げる効果が確認されている。乳製品を選ぶときは、できるだけ脂肪の少ないものを選ぶようにしよう。

答え…○

【Q7】1日1杯程度の「少量のお酒」は、むしろ体によい(○または×)

「『少量の飲酒は体にいい』『赤ワインは健康にいい』という通説がありますが、最新研究では、たとえ少量の飲酒でもがんのリスクを高めるとわかりました。少量の飲酒で心臓病を予防できると主張している研究もありますが、信頼性はそこまで高くありません。少なくともがん予防の観点でいえば、アルコールを含んでいる赤ワインや梅酒も健康にはよくないのです」

答え…×

【Q8】コレステロール値の高い人やダイエット中の人でも、「ナッツ」は食べてよい(○または×)

「『ナッツは健康によいけど太る』『油脂が多いからコレステロール値を上げてしまう』と考える人も多いですが、これまでの研究結果から、実は、ナッツと体重増加の関係性は認められていません。たしかに油脂は多いですが、体によい油(不飽和脂肪酸)であり、心血管病やがんのリスクが下がることも示されてきています。習慣的に食べるおやつの一部をナッツに置き換えることで、健康によい影響が期待できます」

答え…○

【Q9】「玄米」には白米の2倍のヒ素が含まれているが、気にせず食べてよい(○または×)

「がん予防に玄米は積極的に食べてほしい食品のひとつ。白米より食物繊維が多く、マグネシウムやカリウム、ビタミンB群を含みます。白米に玄米を混ぜ込んで取り入れるだけでも、全粒穀物による健康へのよい影響が期待できます。白米の2倍と言われる玄米に含まれるヒ素が心配な方がいるかもしれませんが、内閣府食品安全委員会からも『日本人が食品を通じて摂取するヒ素の現状に問題があるとは考えていない』と発表されています。

毒性を心配するレベルのヒ素含有量ではなく、大きな問題はないと思います」

答え…○

【Q10】塩分を控えるために、塩の代わりに添加物を含む「減塩しお」を使うと体に悪い(○または×)

「塩分の取りすぎは、体のダメージが大きくなります。おいしさそのままで減らすには、減塩しおの活用がおすすめ。減塩しおは、塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムに変えるという製造法をとっているものが多いです。添加物が気になる方もいるかもしれませんが、高血圧や脳卒中への予防効果は複数の研究で確かめられていて、安全性も立証されています」

答え…×

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