「『キイハンター』や『Gメン’75』(ともにTBS系)を手がけた名プロデューサーの近藤照男さんが、『HOTEL』で主役を演じる高嶋政伸くんと凸凹コンビを組む俳優を探していたところ、ボクの存在を知ってもらって、ウチの身内に連絡があったんです」

こう語るのは、丈さん(59)。“ウチの身内”というのは、父親で、『HOTEL』の原作者でもある漫画家・石ノ森章太郎さんだ。

「父のことが好きで迷惑をかけたくなかったし、当時はとんがっていたから、決して父のことをボクから話すことはなかったんです。でも来年に還暦を迎え、父が亡くなった年齢に追いつくことで、心境の変化が出てきたんですね」

石ノ森さんは、ドラマの感想を丈さんに語らなかったという。

「昔からの父の口ぐせは『自分の人生は、自分で築け』でした。だから俳優の道を進んだボクに、あえて何かを物申すことはしなかったんだと思います。ただ、父があるとき仕事で訪れたホテルで、ボクにそっくりなベルボーイがいたそうで『お前、偉いな。こっそり働いて、しっかり役作りまでして』と……。あのとき『あれは俺だよ』と?をついておけば、そのまま感心されていたかもしれませんね(笑)」

だが、実際の撮影現場では、本当にベルボーイの仕事をすることもあったという。

「撮影は、実在するヒルトン東京ベイホテルで、お客さんの少ない時間帯に行われました。同じ制服だから、待ち時間に椅子に座ったり、だらだらすることもできない。外国からの宿泊者は撮影のことなど知らないので、ベルボーイに間違われ、実際に荷物を運んだこともありました」

それまでの丈さんの出演作は、学園ドラマが中心、大人向けドラマである同作品では演技で悩むこともあったと言う。

「頼りになるのが沖田浩之さん。少し年齢が上で、いい兄貴分。

悩み事を聞いてくれたり、アドバイスをしてくれたり、お酒の飲み方や遊び方も教わりました」

もっとも印象に残っているシーンは、パート2での主役回。

「政伸くん演じる主人公が、先輩であるボクを追い越して出世してしまうんです。複雑な思いで、ケンカのようなやりとりがあったのですが、涙が吹き飛ぶくらいに熱演ができました。ほかの先輩キャストもうなずいているようすから、認めてもらえたのだと思います」

松方弘樹さん、丹波哲郎さんらベテラン勢とも共演。

「そこにメインキャストとして足を踏み入れることができた貴重な作品。父には直立不動で頭を下げたいです」

『HOTEL』(TBS系、1990~2002年)

石ノ森章太郎の同名漫画を原作とした人気ドラマ。高嶋政伸が演じるホテルのベルボーイ・赤川の「姉さん、事件です」という名ナレーションで始まる、ひと癖ある客とホテルマンとの騒動がストーリーの中心。営業中のホテルでロケをしているからリアリティがすごい!

【PROFILE】

じょう

1966年生まれ、東京都出身。劇団活動を経て、小野寺丈として多くの映画、ドラマ、舞台で活躍。2021年に芸名を丈に改名した。

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