「自分の未来を想像したとき、そこにいたのは『母である自分』と『妻である自分』だけでした。“山本モナ”という、ひとりの人間としての自分が、どこにも見当たらなかった。
そう語るのは、フリーアナウンサーの山本モナ(49)。34歳で結婚し、その翌年芸能界を引退。3人の子どもを育てる傍ら、46歳で早稲田大学のロースクールに入学。育児をしながら司法試験に挑戦し、49歳となった2025年、見事合格を果たした。
50代を目前に控え、子育てもひと段落し、生活が落ち着き始める年代。なぜ彼女はあえて、司法試験挑戦という過酷な道を選んだのか。その裏には、母でも妻でもない、ひとりの人間としての「切実な思い」があった――。
■社会に必要とされている夫を見て湧き出た本音
芸能界を引退後、36歳で長女、38歳で長男、43歳で次女を出産。小学校受験やバイオリンのレッスンなど、山本の情熱はすべて子どもたちに注がれていった。
「特に、長女に対しては、『完璧な子育てをしなければ』というプレッシャーを常に感じながら、子育ての理想を子どもに投影していた部分もあります。当時は、それが母としての正解だと信じていたんです。毎日とても忙しかったですが、子育ては楽しくて、充実していました」
しかし、第三子を考え40歳を過ぎて取り組んだ不妊治療が、平穏だった彼女の心をざわつかせることに。
「不妊治療が思うようにいかなくて、次第に『3人目を授かる未来』と『授からない未来』をシミュレーションするようになりました。でも、どちらの未来を想像しても、そこに『母』『妻』である私はいるのに、ひとりの人間である自分の姿が見当たらなかったんです。その瞬間、子育ての忙しさを理由に蓋をしてきた感情が一気にあふれ出しました」
最初にあふれ出たのは、会社を経営する夫への羨望の気持ちだったという。
「楽しそうに働く夫の姿に、ずっと憧れていたことに気付きました。『社会に必要とされていていいな』『やりがいのある仕事ができてうらやましい』って。夫は自ら事業を立ち上げ、拡大させ、いつもキラキラと働いている。そんな夫がうらやましかったんです。未来を思い描くほど、『私も、もう一度社会に出て働きたい』『ひとりの人間として認められたい』と強く思っていることに気づきました」
■長女に突き付けられたひと言――「ママと私は違う!」
そんな葛藤を抱える中、当時小学4年生だった長女から、衝撃的な言葉を投げかけられる。
「よかれと思って続けさせていた習い事や教育方針に対して、長女から『私とママは違う!』と言われたことがあって。彼女にとって、私の熱意は重荷でもあったようで、『私の好きなことと、ママの好きなことは違う』とハッキリ拒否されました。
ハッとしましたね。子どもたちには子どもたちの人生がある、と。
もう一度社会に出て働きたい――。仕事を探す中で、山本が挙げた条件は「年齢を重ねても続けられる仕事」「社会に必要とされる仕事」「子どもがいても全力で挑戦できる仕事」だった。
「せっかくやるなら、簡単な道ではなく、挑戦しがいのある仕事がしたかったんです。そう考えたときに、真っ先に浮かんだのが『弁護士』という職業。弁護士の友人から、『子どもがいてもできる』『やりがいのある仕事だよ』と話を聞いていたことが大きかったですね。あとは、私の親族が弁護士だったんです。幼いころから仕事の話を聞いて身近に感じていたし、『1日8時間、3年間勉強すれば、司法試験は誰でも合格する』って言われたことがあって。じゃあ、やるしかないじゃん! と覚悟を決めました」
その後、46歳で早稲田大学のロースクールに入学。しかし、親族から聞いた言葉ほど、現実は甘くはなかった。
「同級生は20代の若者ばかり。若くて優秀な学生たちが、1日10時間以上勉強している現実に圧倒されました。
年齢を重ねていることはハンデでしかありませんでした。友人が『昨日、勉強しすぎてご飯を食べ忘れて倒れちゃったの』と言っているのを聞いて、馬力の違いに愕然としたこともあります」
さらに、3人の子どもを育てる彼女には、圧倒的に「勉強時間」が足りなかった。
「子どもが寝た後の夜と早朝、学校の送迎の待ち時間など、あらゆる自分のスキマ時間を使って勉強をしました。1日8時間が目標でしたが、やはりそうもいきません。そのぶんは土日に長めに勉強するなどして補っていました」
努力はしたものの、すぐには報われなかった。1回目、2回目の試験は不合格。特に2回目の不合格を知ったときは、「私はバカなんじゃないか」とさすがに落ち込んだという。
「心が折れかけたんですけど、すぐに切り替えました。悩んでいても、成績は上がらないじゃないですか」
■やめる選択肢がないから、続けるしかなかった
2度の不合格を経験した山本だが、司法試験を諦めようと思ったことは一度もなかったと言う。
「『〇〇ちゃんのママ』でも、『〇〇さんの妻』でもなく、“山本モナ”として社会とつながっていたい。その一念が最大のモチベーションでしたね。
そして迎えた3回目の挑戦。49歳で見事合格を掴み取った。
「合格を知ったときは、うれしいというより、とにかくホッとしましたね。家族よりも先に電話で連絡したのは、支えてくれた弁護士の友人です。落ち着いていたはずでしたが、彼女に報告をしていくうちに、気づいたら泣いていましたね。その後、家族にも報告をして。夫も子どもたちも、私が勉強している姿をずっと見ていたので、安心した様子でした」
一念発起してから三度目の正直での難関試験合格。誰の代わりでもない、自分自身の足で再び歩き出すための準備は整った。
【後編】「表舞台に戻るつもりは一切ない」司法試験合格の山本モナ フリーアナやめて挑む「弁護士の覚悟」へ続く

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