「いまは2人分の年金があるけど、母1人になったら大丈夫かしら?」

子ども世代は心配するが、意外にも母は「遺族年金があるから大丈夫!」と胸を張る。そんな家庭が多いのではないだろうか。

「遺族年金は『4分の3』という数字だけが独り歩きし、『夫の年金の4分の3』と思う人もいるようですが、それは大きな誤解です」

そう指摘するのは社会保険労務士の桶谷浩さん。正しく把握しておかないと、老後資金の設計が根底から崩れることもあるという。

「4分の3」は間違いなのか。

「数字は正しいのですが、計算の基になるのは夫の年金支給額全体ではなく、夫の厚生年金部分です」(桶谷さん、以下同)

会社員だった夫は老後、国民年金に当たる基礎年金と厚生年金を受け取る。遺族厚生年金は生前の夫の厚生年金をもとに算出され、基礎年金は含まないのだ。

「妻自身に厚生年金がある場合、そのぶん遺族年金から引かれます。共働き夫婦などには4分の3ではない計算方法が適用されることも」

遺族厚生年金の仕組みを理解するため、3つのケースを考えよう。

【ケース1】父が会社員だった場合(母にも会社員経験5年あり)

いまは専業主婦でも、若いころ会社員経験があったという母が多いだろう。一般的な収入を基に試算した。

2人暮らしの間はそれぞれに厚生年金と基礎年金があり、年金は2人分で月約24万8千円だ。

「家計調査(2024年)では高齢無職夫婦の生活費(税金等除く)は月約25万7千円です。夫婦が元気なうちは、多少の貯蓄があれば安心でしょう」

だが、1人になったら……?

「母が先に亡くなると、父自身の年金が月約17万2千円あります。

同じ家計調査の高齢単身世帯の生活費は月約15万円ですから、経済的な不安はないでしょう。逆に、父が先に亡くなった場合は遺族厚生年金がポイントになります」

遺族厚生年金は、父の厚生年金の4分の3から母自身の厚生年金を引いて算出する。ケース(1)では、月約7万円だ。これを含めて父の死後、母が受け取るのは月約14万6千円。2人暮らしのころより月約10万2千円減ることに。

「母1人の生活費としては大丈夫ですが、介護費用を考えると……」

生命保険文化センターによると、平均的な介護費用は在宅で月5万3千円、施設で月13万8千円だ。

「特別養護老人ホーム(以下、特養)の入居費は捻出できそうですが、満室の場合も。有料老人ホームは特養より月5万~10万円は多くかかるので対策が必要です」

■1人になる前に年金繰下げなど検討して

【ケース2】両親とも会社員だった場合

共働きで、母自身の厚生年金が比較的多い場合はどうだろう。

「2人で暮らす間はゆとりがあるでしょう。ですが、父亡き後の遺族厚生年金は少ないです」

父母の厚生年金額が近い場合、ケース(1)と同じ4分の3を用いる計算式では、遺族厚生年金がマイナスになる。そんなときは、父の厚生年金の2分の1と母の厚生年金の2分の1を合わせて、母の厚生年金を引く計算を行う。夫婦のうち厚生年金額の多いほうが先に亡くなった場合、遺族厚生年金は必ず支給されるのがルールなのだ。

とはいえ、母1人遺されたら遺族年金を含めても月16万円とは、2人暮らしから半減する計算だ。

「2人暮らしで余裕があるうちに、年金の繰下げなどを検討して」

年金を65歳より遅くもらい始める繰下げでは、1カ月遅らせるごとに0.7%受給額が増加する。5年遅らせると42%アップだ。

「ただし、母の厚生年金を繰り下げ受給額を増やすと、遺族厚生年金から引かれる金額が大きくなり、結果、遺族厚生年金が減ってしまいます。繰下げは厚生年金と基礎年金を分けて行えるので、遺族年金を減らしたくない人は基礎年金だけ繰り下げるとよいでしょう」

【ケース3】両親共働きの自営業だった場合

「国民年金夫婦のどちらかが18歳未満の子を残して亡くなった場合、手厚い遺族基礎年金が支給されますが、子どもが成人した老夫婦には遺族年金はありません」

40年加入の満額受給者でも、国民年金は2人分で月約13万9千円、1人だと月約6万9千円だ。

「自営業の人は長く働いて収入のあるうちは年金を繰り下げ、妻がパート勤めで社会保険に加入するなど年金を増やす方法を考えて」

だが、年金を繰り下げて早死にしたらもったいないのでは……。

「一生に年金をいくら受け取るかを考えると、早くから受け取ったほうが得でしょう。ただ、介護費という視点も重要です」

「介護は親の資金で」が基本だが、親の年金や資産が少ないと、その負担は子どもにかかってくる。

「月々の年金額を増やしておけば、子どもの介護費負担を減らせます」

母の生活費や介護費の観点から、父亡き後の母の年金を考えよう。

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