「1973年に劇団(東京ヴォードヴィルショー)を立ち上げ、お客さんが増えてきた’83年ころ、山田洋次監督が芝居を見にきてくださって、『今度、寅さん(33作・夜霧にむせぶ寅次郎)に出てくれませんか』と誘われたんです」
こう語るのは、佐藤B作さん(76)だ。山田監督は「当時は若造だった」B作さんにも丁寧な語り口調のため、優しい人だと安心した。
「ところが最初の撮影シーンのときです。ボクが旅館の部屋で休んでいるところに『すみませんねえ、相部屋をお願いできますか』と女中がやってくるんです。女中役は松竹のベテランの大部屋俳優の方だったそうですが、監督はたった一言のセリフに午前中いっぱい使って『違う!』『何年、女優をやっているんですか!?』と厳しくやり直しをさせる。“B作、これが映画の世界だぞ”と、ほっぺたをはたかれたような感覚でした」
北海道の釧路ロケでは、渥美清さんや中原理恵さんと橋を渡るシーンに臨んだ。
「多くの見学者がいるのに、監督は拡声器を使って何度も『B作、違う!』って言うもんだから、恥ずかしくてね。『君ねえ、これから愛する妻に会うのだから、タクシーに乗るときにあわてて転んだりするだろう』と言われて、転んでみると『わざとらしい!』って。ロケが終わって監督車の中で『君のシーンを増やします』と言われたとき、うれしい半面、『もう、増やさなくていいです』と喉元まで出かかりました(笑)」
B作さんが撮影所に到着すると、渡瀬恒彦さんのシーンを撮影していることが多かった。
「渡瀬さんは、よく監督ともめていました。役を降りるんじゃないかと思うほど一触即発のムード、現場の緊張感が高まるので“このあと、オレの撮影が控えているのに”とハラハラしてねえ(笑)」
一方、渥美さんはNGを出さなかったという。
「渥美さんは体調を崩され、控室では布団を敷いて、台本を手に横になっていることが多かったんです。それでも本番になると、ごく普通のシーンなのに、渥美さんが演じるとなぜか面白くなる。アドリブを入れると、あの山田監督ですら、クスリと笑うんです」
現場で鍛えられてできあがった映画は、家族と一緒に劇場で鑑賞。
「正月の映画館は満杯でね。うれしかったのは、ボクの出ているシーンで笑いが起きたこと。もちろん監督や渥美さんの力ですけど、いっぱしの喜劇人になったような感覚になりました」
『男はつらいよ』(1969~1995年)
フーテンの寅さんこと車寅次郎(渥美清)が活躍する国民的映画シリーズ『男はつらいよ』。佐藤が出演したのは33作の『夜霧にむせぶ寅次郎』。寅さんだけでなく、風子(中原理恵)やトニー(渡瀬恒彦)など孤独を匂わせる渡世人の生きる世界を描いた。
【PROFILE】
さとう・びーさく
1949年生まれ、福島県出身。舞台や映画だけでなくバラエティ番組などでも活躍。1月21日より新宿紀伊國屋ホールで上演される舞台『ママごと』に出演。
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