「サラリーマンの妻子が夫の扶養内で働く『178万円の壁』が大きな話題になっていますが、私たち中高年おひとりさま女性には、もっと“高い壁”があるんです……」

新著『中高年シングル女性』(岩波新書)が話題を呼んでいるライターの和田靜香さん(60)は、高齢シングル女性の置かれた窮状を改善すべく声を上げ続け、「つながる」ことを呼びかけている。

和田さん自身、音楽ライターをしていたが40歳を過ぎたころから仕事が激減。

コンビニなどでアルバイトを始めるもコロナ禍でクビに。5万7千円の家賃を払うのに窮して、安い部屋を探しては転居を繰り返した。ときには、食べるものにも事欠き、友人からお米やおかずをカンパしてもらったこともあったという。

そんなどん底の経験から、中高年シングル女性は、社会保障や支援の隙間からこぼれ落ちてしまう「透明な存在」だと感じた。

「仕事や住まい、お金の心配が尽きず、老後になっても先の見えない不安にさらされているのです」(和田さん、以下同)

国政調査(’20年)では、女性の生涯未婚率は17.8%と、30年前の4.3%から4倍に。今後も確実に増加することが予想される。

「国の政策が追いつかないことがいちばんの問題です。声を大にして、私たちがどんなことに困っているのかをまずは政治に知ってもらうことが大事だと思うのです」

そこで今回は、和田さんが取材したさまざまな実例を基に、中高年シングル女性たちの前に岩盤のように立ち塞がる“3つの壁”と、その対策を語ってもらった。

■労働環境の壁

「就職氷河期や結婚を機に非正規雇用になり、フルタイムで勤務しても、最低賃金しかもらえず、苦しんでいる方が非常に多いです」

50歳以上の女性の53.1%はパートなどの非正規雇用。会社の状況や上司の気分で、いつクビになるかわからない不安に苛まれ、サービス残業、パワハラなどに遭遇しても、物申せず我慢を強いられている人が多いのが現状だという。

「シングル女性の6割は年収300万円以下。最低賃金に近い仕事ばかりで、退職金やボーナスもなく、蓄えなどできるはずもありません」

最低賃金の引き上げは言うまでもなく急務だが、さらに昇進がないことも女性たちを絶望させている、と和田さんは指摘する。

【声に出すことで扉は開く】

「正社員であれば努力次第で昇進できますが、非正規雇用は、朝から晩まで働いてもなかなか評価されない。評価されないから自信も持てない。非正規という雇用形態は、やりがいや生きがいの搾取にもつながっています」

非正規でも1人から加入できる労働組合(ユニオン)に相談するのも手だと和田さんは言う。和田さんが取材したAさん(62)は、「全国一般労働組合」に加入し、サービス残業の撤廃について闘っていたという。

「Aさんは労組に入ることで闘い方を教えてもらえ、『抗議しないと変わらない』という強い意志を持って待遇改善を要求し、勝ち取りました」

労組でなくても、男女共同参画センターや、しごとセンターでは女性のための就職を支援している。一人で悩むよりは、まず相談することから一歩を踏み出せる。

■住居探しの壁

中高年になるほど新たな住まいを確保することは困難を極める。

「昨今の家賃上昇で、更新ができなくなり、引っ越しを余儀なくされるケースはよく聞きます。そのうえ、新しく物件を探そうにも、高齢女性の場合、孤独死や残置物を懸念し、物件を貸し渋るオーナーが多いのも実情です」

和田さんの取材でも当事者たちは「いつまでこの家に住めるのか」といった恐怖に苛まれている。

【共助の輪が広がるおひとりさま団地】

そんななか好事例として、大阪府の茶山団地は若者を巻き込んだ再生プロジェクトで活性化した。また、兵庫県尼崎市の市営団地はリノベーションされ、安価で単身女性に貸し出されている。共有スペースはおひとりさま女性たちの憩いの場になっているという。

「低所得・低年金で、入居するなら公営団地になります。団地内コミュニティーで見守り・助け合いの輪を広げ、安心した生活を確保しているケースがあります」

さらにシェアハウスの拡充と成熟にも期待したいところ。

「友人同士が集まって運営する仕組みは、誰かが欠けたら立ち行かないケースも。もっと組織的に運営し、見知らぬ者同士がルールを守り共生する基盤が整えば、今より利用しやすくなるでしょう」

■老後孤立の壁

最晩年をどう生きるかは、高齢おひとりさまにとっては最大の悩みどころ。たとえ今、配偶者がいても、先立たれればひとりになるのだから、決して人ごとではない。

「多くの人は仕事から離れると、コミュニティーに属さない状況にある。そんななかで人との“つながり”が明暗を分けることになる」と和田さんは分析する。

【差し伸べられた手を掴めるかが、カギ】

孤独死のイメージもあるおひとりさまだが、Bさん(享年78)のような、2回りも若い友人たちが入れ代わり立ち代わり世話をして、最後まで看取ったという羨ましいケースもある。

「困ったとき、差し出された手をつかめる人であれば、孤立しません。地域に知り合いがいなければ、ラジオ体操や地域の茶話会にまずは一度参加してみましょう。

地域の情報を得るには、行政の公式LINEアプリに登録すると便利ですし、地域包括支援センターでは、ひとり暮らしの人の食事会などの取り組みもしています。

もし、何もなければ小さくても自分で立ち上げるくらいの気力を保つこと、そこで得た生の情報と付き合いは生きるうえで大事です」

気力を失わず、つながり続けること、そこから見えてくる希望はあるということだ。

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