「スポーツに熱心な親御さんには、ついついわが子に口出ししてしまう方が多いんです。一方で、坂本花織選手(25)のお父さんはじっと見守ってこられたのではないでしょうか。

お父さんの様子を見ていると娘さんとの距離感をすごく考えられているのが伝わってきました」

こう語るのは、坂本の父でスポーツメンタルコーチとして活動する修一さんの師匠である鈴木颯人氏。鈴木氏は一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事で、修一さんにスポーツメンタルコーチングを教えた人物だ。

2月に開催されたミラノ・コルティナ’26冬季オリンピックで、団体戦と個人戦で銀メダルを獲得した坂本。3月25日から29日にかけてチェコ・プラハで開催される世界フィギュアスケート選手権’26の後に引退することを表明している。

彼女に伴走し続けてきたのが修一さんだ。坂本家の知人が明かす。

「修一さんは、38年間兵庫県で警察官を務め、副署長にも就任しました。

警察官と聞くと厳しそうなイメージを持たれるかもしれませんが、花織ちゃんは伸び伸びと育ちましたね。お父さんとお母さん、お姉さんはいつもニコニコされていて、それに花織ちゃん本人がいつも笑顔ですから、厳しいとかいうイメージはまったくないですよ(笑)。

花織ちゃんが興味を持ったことはなんでもやらせてあげていました。フィギュアも、水泳も、幼稚園のころはダンスも習っていましたね。躾はきちんとされていたと思います。

会うたびに『おはようございます』『こんにちは』と、挨拶をしてくれていましたから」

’20年3月に定年退職し、メンタルコーチとしての活動を開始した修一さん。実は警察官時代にプロスポーツメンタルコーチの資格を取得していた。

「’19年に初めて私の講座に申し込まれています。

お父さんは、『娘さんの助けになってあげたい。アスリートを支える親としてどんなことができるのかを考えていきたい』といったお話をされていました。

娘さんとお父さんはそっくりです。お父さんは明るくて、いつも元気いっぱい。とにかくよくしゃべるし、なおかつ話が面白い。常に“みんなを笑わせてやろう”と狙ってやっていらっしゃると思います(笑)」(前出・鈴木氏)

修一さんは、愛娘のために人一倍真剣にスポーツメンタルコーチを学んだ。

「警察官として、若手の人材育成や教育を担当する役職に就いておられたため、スポーツメンタルコーチに興味を持ったそうです。

受講生の中でもとりわけ熱心な生徒の一人でした。べーシックコースを終えた後に、さらに高度な知識と技能を習得したいと、上のプロフェッショナルコースも修了されました」(前出・鈴木氏)

修一さんが坂本のために学んだスポーツメンタルコーチングとは。

「スポーツメンタルコーチとは、その人に寄り添っていく存在。一言でいうと“人生の同伴者”です。

メンタルトレーナーの役割は、たとえば“緊張してしまう”という課題に対して、こういう対策をやってみましょうと教えることです。

一方で、スポーツメンタルコーチは、話を聴いてあげることによって、無意識下にある思い込みを外し、潜在能力を引き出す役割を担います。

緊張してしまう人には、『どうしてそう思うの?』などと問いかけ、思い込みから自由になれるように手助けします」(前出・鈴木氏)

■スランプ脱出の裏に修一さんとのご飯会

坂本はスランプに陥ったことがある。高校2年生だった’18年2月に平昌五輪に出場し、’18年12月には全日本選手権で初優勝を果たして燃え尽きたのだ。そこに襲ってきたのがコロナ禍。

坂本の“緊急事態”にスポーツメンタルコーチングを学んだ修一さんが献身的に支えた。

「誰もが気持ちが落ち込みがちでした。このころ、お父さんがおっしゃっていたのは、『よく娘を食事に誘うんです。一緒にご飯に行こうか?』って。きっとその場で、何かを言うとか教えるとかではなく、ひたすら坂本選手の話を聴いてあげていたんだと思います。


私も講座では、スポーツメンタルコーチに大事なこととして『見守ることの大切さ』を伝えてきました」(前出・鈴木氏)

坂本の話を聞き、時には彼女を爆笑させていたであろう修一さん。

親子の時間が功を奏し、坂本はコロナ禍をむしろ再浮上のきっかけにした。

「コロナ禍の影響で利用していたリンクが閉鎖に。この状況に坂本選手は、“頑張ったもん勝ちや”とプラスに捉え、所属する企業の陸上部の練習に加わり、トレーニングに励んだそうです。

追い込み切れないと感じたときには、“『これぐらいでいい』と思えるほど自分は天才じゃない”と自らを叱咤したといいます」(スポーツ紙記者)

ミラノ・コルティナ五輪で公開練習後に報道陣の取材を受けた際には、「昨日も怖すぎて泣いたり、正直毎日今のところ泣いてて、もう試合したんかなと思うぐらい。もう帰ったら確実に胃腸炎になって倒れる未来しか見えない。もう全身ストレスかかってます」とあけすけに語っていた坂本。個人戦で銀メダルを獲得した後にも涙を流していたがーー。

「坂本選手のケースに合うかどうかわかりませんが、泣くことで気持ちを整えられることがあります。

しっかり泣けるということは、心にブレーキがないこと、変なこだわりなどなく、自然体で競技生活を送れていることの裏返しでもあると思います。

指導者や修一さんをはじめとする家族の方々が、坂本選手が自然体でスポーツに打ち込めるよい環境を作ってあげられていた証しがあの涙でしょう」(前出・鈴木氏)

ミラノ・コルティナ五輪では“悔し涙の銀”に終わった坂本。現役最後の世界選手権では、“うれし涙の金”を全国のファンは期待している。

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