あるベテラン放送作家が投稿プラットフォーム「note」に投稿した“テレビマンが転職市場で評価されない”ことを分析した記事が物議をかもしている。

記事のなかで著者は、テレビマンは履歴書に書けるような専門的なスキルがないため、優秀にも関わらず、転職市場では価値を低く見積もられがちだと指摘。

「企画力」「瞬発的判断力」「コミュ力」などテレビマンの優れている点を10個羅列したうえで、「実際にはどんな業界でも使える能力を持っている人たち」「どこへ行っても通用すると思う」などと主張した。

しかし、この内容が《これを堂々と書けるって、厚顔無恥とかそういう問題を通り越して単なる世間知らずだなという感想しかない》《テレビマンが評価されないのではなく単にこのnoteの人が仕事できなそうなイメージ持たれるだけな気がした》などと、Xでは賛否さまざまな声が上がっている。

実際のところ、テレビマンの転職事情はどうなっているのだろうかーー。元テレビ朝日のプロデューサーで、現在は独立してコンテンツプロデューサーとして活躍する鎮目博道氏に解説してもらった。

「まず、著者は記事のなかで『テレビ局を定年した人からも、転職は難しい、とよく聞く』と書いていますが、そもそも”定年後”の転職は、テレビマンに限った問題ではないのに、『テレビマンは……』と言っちゃうところが、ほかの業種が見えていないという印象は否めません。

その一方で、この記事のなかで確実に事実なのは、”テレビを辞めた人たちは、ほかの業界であまり市場価値がない”という点です。『テレビマンは転職市場では評価されにくい』というのは間違いありません」

30年近くテレ朝に務めた鎮目氏だが、30代で1度だけ転職を検討したことがあるという。

「転職エージェントに登録したんですが、担当者にはっきり言われたことがあります。

『テレビの人に転職は無理です』と。『テレビ業界のスキルやノウハウを必要としている会社は、ぶっちゃけないです』と断言されました。

続けて『みなさん競争率の高い試験を受けてテレビ局に入られたんで、それなりに基礎的なスキルはおありになると思うんですが、もし転職したければ、テレビ業界で学んだ一切のことは忘れて、1からやり直すつもりでやらないと無理です』って言われたことがあるんです。

テレビ業界って特殊で、ほぼ何のノウハウもほかの業界で応用できないんですよ。

極端な話、動画制作ですらテレビのノウハウはあまり役に立ちません。なぜかというと、テレビ業界は分業制で、面倒な作業は下請けに任せる構造なんです。

そのため、動画制作すら1人ではできない、あるいはテレビの予算規模でしか動けない人材が多いのです。むしろテレビを知らないで動画を作っている人の方が、今風の動画を作るのがうまいというのが実情です」

こうした事情は、あくまでテレビ局内でも番組制作に携わっている人たちのことだといい、営業や関連事業、経理、人事などバックオフィスの人たちに関しては、スムーズに転職をする人が多いという。

アナウンサーの場合、対人スキルが非常に高く、ビジュアルも整っていて、喋るのもうまいです。しかも、いろんな出演者さんと番組でやり合ってるので、人と仲良くなるのもうまいです。だから営業や広報にさせるとすごく向いていて、転職もスムーズにできるし、ほかの業種でもスキルを活かせます。

ただ、残念ながらアナウンサー自身がそれを望まない場合が多いです。やっぱり画面に出て、自分が注目を集めることが好きな人が多いので、裏方は性に合わず、結局はフリーアナウンサー業界に戻ってくるパターンが多いですね」

そもそも、サラリーマンの中では高収入でやりがいもあるであろうテレビマンが転職を希望するケースは多くないのではないだろうか。

「だから、これまでは業界内での転職の方が多かったです。局を移るとか、独立して制作会社を作るとか。それはテレビ業界がそれなりの規模があって、仕事はずっとあるとみんなが思っていたからです。

しかし、ここへ来て急速に業界が萎んできていて、予算が少ないなかで、人も足りなく、負担だけが増えた。そして疲れて””もうやってられないから他の仕事に移ろう”と転職を試みたときに、ハっと気がつくんです。”どこにも必要とされていない”と。そこで愕然とすることが多いですね」

テレビマンの転職が難しい理由は、他業界ではノウハウが役に立たないことに加え、テレビマン自身が「ちょっと上からの感じがある」と鎮目氏は指摘する。

「テレビマンって人に頭を下げてまで仕事をしたくないって感じの人が多いんですよ。テレビ局を退職して大学の先生になるケースも結構ありますが、そういったあまり人に頭を下げないで済むような仕事に行きたがる場合が多いです。

だから、民間の企業で『1からやり直します』みたいに人に頭を下げて商売するって感じのマインドにならない人も多いっていうのはあると思います」

皮肉なことに同じテレビマンでも、テレビ局員よりも下請けに当たる制作会社の人の方が転職はスムーズだという。

「制作会社の人の方が幅広く仕事をするし、過酷な現場で何でもこなし、臨機応変に考えるのも得意です。しかも、変にプライドが高いということもないので、比較的テレビと違う仕事にさっと変わる人が多いんですよ。

それに比べてやっぱり局の人って、小さな業界のピラミッドのトップにいたので、なんとなく”俺は偉いんだぞ”みたいなプライドが邪魔をして、皮肉にも転職しづらくなってる部分はあるのだと思います」

波紋を呼んだnoteだったが、どうやら“テレビマン”の転職が難しいという点は事実だったようだ。

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