今回は、そんな悔やんでも悔やみ切れない一言がある女性のエピソードをご紹介しましょう。
彼に不満はないけれど
広崎綾音さん(仮名・29歳/契約社員)は、昨年から晴彦さん(仮名・32歳/会社員)と結婚前提の同棲生活を始めました。「本当はもう晴彦からプロポーズはされていて、すぐ結婚してしまってもよかったのですが『ちょっと待って。
実は綾音さんの同級生の中ですでに離婚した女性が2人いて、彼女達の大変そうな姿を見て「自分は慎重にいこう」と思ったのだそう。
「そうは言っても晴彦とはとても仲良くやっているので、本当に念のためという感じで同棲開始したんですが(笑)。不満はほとんどなくて、強いて言うならファッションセンスがまるでないところぐらいでした」
初めて彼が買ってきた服

「晴彦が優しいからってつい『本当はおしゃれな男性が好きなんだけど』とかはっきり言っちゃって申し訳なかったなと思いましたが、結果的に私好みの服を着てくれるようになりラッキーって感じでしたね」
そして晴彦さんに身を委ねてもらっている感じが嬉しくて、綾音さんは幸せを感じていたそう。
「ですがそんなある日、晴彦が自分で服を買ってきたんですよ。しかもそれが古着のスウェットやジーンズで『俺はアメカジに目覚めたから! 綾音もおしゃれな男性が好きって言っていたし、これからはちゃんと関心持つから』と宣言されてしまい困ったなと気が重くなりました」
アメカジにハマる彼

それで綾音さんはせめて清潔感を出して印象アップするようにと工夫して、パリッとしたシャツなど綺麗めでちょうど良いシルエットのシンプルな服を選んでいました。
「モデルさんのようなスタイルの良いイケメンのアメカジはかっこいいと思いますが……。正直、晴彦が着るとスタイルの悪いのが強調されて、ただの冴えないおじさんにしか見えないんですよね」
そして、以前は服にこだわりがなかったので綾音さんの言うことを素直に聞いてくれた晴彦さんでしたが、アメカジ沼にズブズブハマっていき古着屋巡りに夢中になり、服やスニーカーを大量に買ってくるようになってしまったそう。
「しかもある時レシートが落ちていたので何の気なしに見てみたら、スニーカーが4万円にリバーシブルのスカジャンが22万円だったんですよ。私、古着がそんなに高いだなんて思っていなかったので……。ビックリしすぎて呼吸が止まりそうになってしまいました」
自分の気持ちがわからなくなり…
その時に綾音さんは、そんな誰かの着古した服にそんな金額を注ぎ込むことが全く理解できず「だったら私にハイブランドのお財布でも買ってくれた方がよっぽど有効なお金の使い方なのに」と思ってしまいました。「そして極めつけは、私に古着のGジャンとスカートを買ってきた晴彦が『そんなつまらない服ばかり着てないでこっちを着てみなよ。味があるでしょ?』と言ってきたことです。そのしたり顔を見て、思わず『はぁ? ダサいお前にそんなこと言われたくねーし』と爆発しそうになってしまいまいした。
ですが『でもこれって、私が晴彦にやっていたことと同じじゃん!』とハッとして、とても複雑な気持ちになってしまったんですよね」
「結局私は晴彦のことをダサいと見下しているのかも。だって晴彦がせっかくファッションに目覚めたのに、私は自分の好みとは違うからと全否定しているし。しかも偉そうに、自分はセンスがあるからとコーディネートしてやってるつもりになって、いざ晴彦が私に似合う服を選んできてくれても、袖を通す気が1ミリも起きないなんて……」と、己の自分本位さに打ちのめされてしまいました。
そして、「私はまだまともに人を愛することもできない未熟者で、結婚する資格なんてないんじゃないか」と自信を失ってしまった綾音さん。
自分の本当の気持ちまでよく分からなくなり、そのことを晴彦さんへ素直に伝えて、話し合うことにしました。
アメカジにハマった本当の理由

「激しいケンカになったりはしなかったのですが、私たちの心はすれ違ったまま、修正できないところまできていました。お互いに無理していると感じたので、いったん距離を置くことに決め、私が部屋から出て行ったんです」
そしてそれから3ヶ月後に、晴彦さんから「好きな人ができたからちゃんと別れてほしい」と連絡がきました。
「薄々気がついていました。晴彦のインスタにアメカジ仲間の男女数人でバーベキューや海に行った時の写真が何枚もアップされていたのですが、若くて可愛い全身アメカジコーデ女子がいつも晴彦の近くで微笑んでいたので、きっとあの子だろうなと胸が苦しくなりましたね」
綾音さんは「きっと晴彦は、私としっかり別れて彼女に正式にお付き合いを申し込もうと覚悟を決めたんだろうな」と感じたので、別れることを了承したそう。
「正直まだ未練はありますが、もう晴彦をつなぎ止めておく自信もないですし、彼を解放してあげることが、私にできる唯一の優しさかなと思ったんですよね」
綾音さんの後悔
綾音さんは、晴彦さんの服装に口を出し「本当はおしゃれな男性が好き」と、相手を侮辱するような発言をしたことを悔やんでいます。「ただお互いに好きな服装で過ごせばいいだけのことだったのに、私が自分の見栄のために晴彦を強引にコントロールしようとしたんです。その歪みが招いた結果だと思っています。
今思えばいつも優しくて仲良くしてくれた晴彦にもっと感謝をして尊重してあげたかったな……。ただそれだけですね」とため息をつく綾音さんなのでした。
<文/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop