今回はそんなサプライズパーティーが招いたゴタゴタのエピソードをご紹介しましょう。
「最近、夫が怪しい」と友人に相談されて
ある日、佐々木香奈さん(仮名・34歳/デザイン事務所勤務)は、友達の恭子さん(仮名・33歳/主婦)から相談を持ちかけられました。「恭子の夫の涼太さん(仮名・36歳/会社員)が、もしかしたら不倫しているかもしれないって言うんです。最近なんだかソワソワしていて、恭子の話も上の空であまり聞いていないことがあり、同じ質問を何度もしてきたりするそうなんです」
そして決定的に怪しいと感じたのは、恭子さんの知り合いから「この間、スイーツが美味しくて有名な、あの映えるカフェに涼太さんがいたよ」という目撃情報が入ったからなのだそう。
「恭子は『涼太は全然スイーツになんて興味ないし、ひとりランチやお茶で時間を潰すなら絶対にスタバとかに入るはず。わざわざそんな可愛らしいカフェに行くなんて、きっと女との待ち合わせに決まってる!』と興奮気味に話してくるので、私も驚いてしまって」
香奈さんは「とりあえず落ち着いて。その目撃情報だって本当に涼太さんだっていう確証はまだないんでしょう? だったら思いきって、スマホを盗み見でもした方がはっきりするんじゃないの?」と提案してみました。
「するともうすでに見たそうで『不倫の確証はつかめなかったけど、実のお姉さんにオススメのケーキ屋を聞いたりしていて怪しかった。LINE以外にもインスタやXのDMとか、他のアプリで連絡を取り合っているのかもしれないと思ったけど、涼太がお風呂から出てきてしまったから、とても全部はチェックしきれなかった』そうでした」
代わりに尾行することにしたものの
とりあえずしばらく様子を見てみようということでその日は解散した2人でしたが、翌日にまた恭子さんから「今度は涼太の部屋の机の引き出しの奥にプレゼントの包みを見つけちゃった」と電話がきたそう。「その包みの写真を恭子が送ってくれたんですが、中身は明らかに女性用のアクセサリーだろうなという感じでした。恭子は落ち込んでしまい『どうしたらいいのか分からないから、いったん寝て現実逃避する』と電話を切ろうとするので、思わず『じゃあ私がとりあえず、会社帰りの涼太さんを尾行してみるよ』と言ってしまったんですよ」

「涼太さんの会社の近くに来たはいいけど『もし本当に不倫現場を見てしまったらどうするの? それを私が報告しなきゃいけないんだよ?』とぐるぐる考えてしまい、自分の言ったことを後悔しましたね」
すると会社から出てくる涼太さんが目に入り、香奈さんは仕方なく慣れない尾行をしたそう。
「すると涼太さんが自宅とは違う方向の電車に乗ったんですよ。あ~もう最悪だ! 絶対にやってるじゃん! とため息がでましたね」
真っ直ぐな目の友人夫、“完全にシロ”だった
そして涼太さんがあるケーキ屋さんに入ろうとしている瞬間。香奈さんがその証拠写真を撮ろうと慌てていたら、よそ見をしていた通行人がぶつかってきました。「それで私が転んじゃって……涼太さんに気づかれてしまったんですよ。とっさに『偶然ですね! ケーキ買いにきたんですか?』と誤魔化そうとしたら『内緒にしてくださいね。実は恭子のバースデーケーキを予約しにきたんです』と真っ直ぐな目で言われて、え? という感じで身体中の力が抜けたんです」

「そしたら涼太さん、実は昨年の恭子の誕生日を忙しくてど忘れしてしまい、恭子に悲しい思いをさせてしまったそうなんです。だから今年は事前にたくさん準備してサプライズでお祝いして喜ばせてあげたいと考えていたらしくて」
そして「もしよかったら一緒に協力して、恭子のサプライズバースデーパーティーを盛り上げてくれませんか?」と今度は逆に涼太さんからお願いされてしまいました。
「あ、それはいいかもと思いました。2人がかりの方が盛大なパーティーにできるだろうし、とりあえず恭子には『涼太さんを尾行してみたけど、全く怪しい行動はなかったよ』といったん安心させておけば大丈夫だろうと思ったんです」
なぜか泣き崩れてしまった恭子
そしてパーティー当日。バルーンやお花で部屋をかわいく飾り付け、ケーキやイタリアンのお惣菜、恭子さんの歳の数、34個のプレゼントを用意すると、涼太さんと香奈さんはクラッカーをスタンバイして恭子さんが買い物から帰ってくるのを待ち構えていたそう。
香奈さんと涼太さんが「しまった、ビックリさせすぎた?!」と慌てていると、恭子さんが「私に秘密でこの準備をしていたから2人ともおかしかったんだ……。安心したよぉ」とさらに泣いてしまいました。
サプライズは成功したものの……
「話を聞いたら、あの尾行した日から私の態度が急におかしくなったらしくて、恭子は『もし涼太と香奈が不倫していたらどうしよう?』と疑心暗鬼になっていたそうなんです。私はいつも通りに振る舞っていたつもりなんですが、全く上手くできてなかったみたいで(笑)」真相がはっきりして安心した恭子さんは、ようやくパーティーを楽しみ、準備をしてくれた2人に感謝したそう。
「でも恭子に『ありがたいけど、2人とも演技力ゼロだし嘘が下手すぎて全くサプライズには向いていないから、もうこれで最後にしてね! 私は誕生日を覚えていてもらえるだけで嬉しいんだから』と、サプライズパーティー禁止令を出されてしまったんですよね」
「でもとにかく涼太さんが不倫をしているんじゃなくて、あちこち恭子のパーティーのためにリサーチして回っていただけで本当に良かったです」と微笑む香奈さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop