今回はそんな経験をした女性のエピソードをご紹介しましょう。
マッチングアプリで知り合った男性と交際
松永奈帆さん(仮名・33歳/契約社員)は、昨年マッチングアプリで知り合った圭佑さん(仮名・33歳/メーカー勤務)とお付き合いを始めました。「圭佑さんとは同じ年で話も合うし、お互いに結婚願望が強いこともあり、4回目のデートの帰りには『まだ知り合って間もないけど、とりあえずお付き合いを始めてみよう』という話になったんですよね」
圭佑さんは地元に仲の良い男友達が数人いますが、仕事関係の人たちとは付かず離れずの距離感を保ち、交友関係はあまり広くないタイプのようでした。
「なのでお家での1人の時間を大切にしていて。そんなところも私に似ていて共感できたので『これからは1人でいるより2人でいる方が落ち着くような関係性を築いていこうね』と伝えました。お互いに譲れない部分を話し合ったり、妥協点を擦り合わせたりと、全く揉めることなく仲良く過ごしていたのですが……」
「これって浮気?」彼氏の部屋に気になるものが
さて2人の間に何が起こったのでしょうか?「ある日、私が圭佑の部屋に遊びに行ったら、キッチンの隅にコップに活けたチューリップがあったんです。私が『これどうしたの? お花が好きなんて話聞いたことなかったけど……』と不思議がると『え、いや違うんだよ。なんかたまたま会社でもらっただけ』と慌てている様子だったのが妙に気になったんですよね」
さらに冷蔵庫を開けると、今度はプリンが“2個”入っているのを見つけてしまいました。
「私が冷蔵庫の前で固まっていると、圭佑が『あ、一緒に食べようと思って買っておいたのを忘れてた』と不自然な作り笑顔でこっちに近づいてきて。明らかにおかしいなと感じました。
だって圭佑は卵、特に卵黄が苦手で、プリンはプッチンプリンしか食べられないって言っていたのに、出てきたのはリッチな焼きプリンだったんですよ」

「いつもは割とすぐに連絡がつくのに、多分電源を切っていたんだと思います。何度電話をかけても『応答がありませんでした』というアナウンスが流れてきたので」
奈帆さんは「これってもしかして圭佑を狙っている女が、彼女である私への宣戦布告としてわざと置いていった、いわゆる“女の影”というやつなのかも」と一気に不安な気持ちになったそう。
「圭佑のことを疑いたくない気持ちが強い反面、実は圭佑が平気で女遊びをするタイプだったらどうしよう? と不安になり、その日は何も言えずにいつも通りに振る舞ったんですよ」
チューリップを持った彼氏を思わず尾行
そして奈帆さんは悶々とした気持ちを抱えたまま1ヶ月ほど過ごしましたが、それ以後圭佑さんに怪しいところは特に見受けられませんでした。「私の考えすぎだったのかも? と思いかけたある日、私がふといたずら心から抜き打ちで圭佑の家に遊びに行こうとしたら……最寄り駅で偶然圭佑を見かけてしまって」
そして圭佑さんはチューリップの花が入った紙袋を手に持っていました。

すると圭佑さんは1時間近く電車に乗って郊外の駅に降り立ち、そこからさらにバスに乗り込んだそう。
「バスの中は人もまばらだったので『どうしよう?』と躊躇(ちゅうちょ)したのですが、たまたま圭佑がいちばん前の席に座ってくれたので、私もささっと後ろの方の席に乗り込みなんとかバレずに発車することができました」
バスで着いた場所は……
そこから20分後、終点に降り立つとそこは高台にある見晴らしの良い墓地でした。「圭佑はお墓にお水をかけて軽く掃除をすると、お線香を焚き、なんと例のチューリップと紙袋からプリンを2個取り出してお供えすると、目をつむり熱心に合掌し続けていていたんですよ」

「我慢できなくなり思わず圭佑の背後から『疑ってごめんなさい!』と抱きつくと、すごく驚かせてしまったみたいで『なんで奈帆ちゃんがここにいるの?』と腰を抜かしていました」
お墓参りを隠していた理由
奈帆さんが今までの経過と自分の気持ちを正直に話すと、圭佑さんも「僕もお墓参りに行っていることを隠していてごめんなさい」と謝ってきました。実は圭佑さん、以前にマッチングした女性とデートをした際に「自分はお墓参りに行って手を合わせるとスッキリした気持ちになれて、大好きな祖父母が亡くなってからはさらに頻繁に行くようになったんですよ」と何の気なしに言ったら「今デート中ですよ。もっと明るい趣味の話はないんですか?」とその女性に怪訝(けげん)な顔をされてしまったことがとてもショックだったんだそう。

それ以来圭佑さんは、家族と地元の親しい男友達以外にお墓参りの話はしないと決めたんだとか。
「なので私にも変な目で見られたくなくて、つい嘘をついたらしいのですが『だったらチューリップもプリンも隠しておくべきだったよね。悪いことをしている自覚がなかったので、ついそのままにしちゃっていたんだ。ごめん、不安な気持ちにさせちゃったね』ととても申し訳なさそうにしていて、かえって気の毒でしたね」
プリンとチューリップは祖父母の好物
ちなみにプリンはおじいさんの好物で、チューリップはおばあさんの好きな花でした。「花はお墓にお供えしたままでも良さそうですが、どうやらチューリップは毒のある花なのでお墓参りには不向きという説もあり『あそこの孫はそんなマナーも知らないのか』と思われるのも何なので持ち帰るようにしているそうなんです」
そして奈帆さんが「圭佑のおじいさん・おばあさん想いなところを知って尊敬してるし、これからお墓参りに行く時は全く隠す必要ないからね。なんなら私もたまには一緒に連れて行ってほしいぐらいだよ」と言うと、圭佑さんはいたく感動したそう。
「『実は今日も、奈帆ちゃんといい感じで付き合えているよってここに報告に来たんだ。まさかこんなに早くご対面させられるなんて思わなかったよ』とその場でおじいさんおばあさんに、私のことを紹介してくれたんですよ」
奈帆さんはそれがたまらなく嬉しかったそう。
「私を本気で大事に思ってくれているなと感じました。
一緒にお墓参りに行くようになった結果
実は奈帆さんが圭佑さんの前に付き合っていた彼は、些細なことでイライラするタイプだったそうで……。「なのでなおさら圭佑を離さないぞという気持ちになってしまったんですよね」
今では、圭佑さんと奈帆さんは月1ペースで一緒にお墓参りに行っています。
「圭佑がプロポーズしてくれたので、次のお墓参りの時に結婚するって報告しようねって話になっているんですよ」と微笑む奈帆さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop