『キッチンラボ 作って 食べて おうち実験!』(偕成社)は、東洋大学食環境科学部食環境科学科准教授の露久保美夏先生が、小学生を対象にした科学実験講座で行ってきた科学に興味が持てるような実験を収録したといいます。

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「クッキーの焼き色が変わる理由は?」「どうしてカップケーキのふくらみ方が違うことがあるの?」など、実験を通して調理の科学を学ぶことができます。


子どもと一緒に「おうち実験=調理」を楽しみ、科学に興味を持ってもらうためには、何が大切か?をお聞きした前回に続き、今回は、調理を通して科学を学ぶことのメリットや、“食べること”を通じた子どもとの関わり方などについて、露久保先生にお聞きしました。

大人も楽しめる、調理科学の世界

――どんな思いを込めて本書を作ったのでしょうか。

子どもを科学嫌いにさせないためには?食育からの大事なポイント
露久保美夏 『キッチンラボ 作って食べておうち実験!』(偕成社)
露久保美夏先生(以下、露久保):お菓子や料理作りを楽しみながら、自分が作りたいものが科学の力でコントロールできることに気づいてもらって、自然と科学に触れてもらえたらいいなと思っています。

――料理やお菓子作りが科学的に解説されていて、大人も楽しめる本になっているのではないでしょうか。

露久保:調理をしながら「なぜこの焼き色になるんだろう」「今日はどうしてふくらまなかったのかな」と、何となく疑問に思っていたことを、科学的な視点から学んでもらえるきっかけになると思います。

例えば、欧米では家庭にある砂糖は一般的にグラニュー糖なので、洋菓子のレシピはグラニュー糖が使われていることが多いんです。でも日本の家庭では上白糖が一般的ですよね。グラニュー糖は上白糖よりも甘さがスッキリとしているので、大量に使用しても甘くなり過ぎないという特徴があります。

上白糖はグラニュー糖よりもベタッとした甘さなので、同じグラム数を入れても甘さの感じ方が違います。また、砂糖の種類や量によって、焼き色や食感も変わります。

最近は「時短レシピ」という言葉が定着していますが、科学的な調理のポイントを少し知っておいていただくと、「この材料を代用するとこんな変化がある」とか、「この手順は省いても大丈夫」と、自分がイメージしたものを作るための近道になると思います。

食べ物の好き嫌いは変わる、感覚の違いを楽しんで

――本書をどんな風に活用してほしいですか?

露久保:読むだけではなく実際に作ってもらって匂いや食感の変化を楽しんでもらいたいですね。完成品だけではなく、その工程で起きることを感じてほしいです。

また、できれば人と一緒に作りながら、発見したことを話し合って共有してもらえるといいと思います。
味や匂いの感じ方は人それぞれ違うので、自分とは違う感覚があることを、ぜひ楽しんでください。

子どもを科学嫌いにさせないためには?食育からの大事なポイント
露久保美夏 『キッチンラボ 作って食べておうち実験!』(偕成社)より
――味や匂いの感じ方は、人によって結構違うのでしょうか?

露久保:人によって感覚が違うので、私は世の中に、絶対的においしい食べ物はないと捉えています。成長過程や、健康状態によっても味の感じ方が変わります。「こう作ればおいしい」という正解を求めているのではなく、「今の自分が食べたらどう感じるんだろう?」ということを、味わう時の楽しみの1つにしているんですね。

だから、お子さんに感想を聞く時は、まずは「どんな感じ?」と聞いてみてください。「おいしい?」と聞くと「おいしい」/「おいしくない」の二択になってしまいます。それよりは、「甘さはちょうどいいかな?」「硬さはどうかな?」など、オープンな答え方ができる聞き方をしてあげると、子ども自身も食べ物からの情報をキャッチしようとする思考ができると思います。

そこで「苦い」とか「しょっぱ過ぎる」というネガティブに思われるような感想が出てきても、「そんなわけないでしょ!おいしいんだから食べなさい」と否定せずに、まずはその子の感じたことを受け止めていただきたいです。

子どもを科学嫌いにさせないためには?食育からの大事なポイント
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――子どもの食べ物の好き嫌いが多いと気になってしまいますが、その感覚も成長や体調によって変化する可能性があるのでしょうか。

露久保:今の時点では、受け入れる体制が整っていないだけかもしれません。そのとき苦手だというだけで、「うちの子はピーマンが嫌い」と決めつけないでほしいです。

「今のこの子は、ピーマンを受け止める準備期間なんだな」と、嗜好が変わっていくことを楽しみにするくらいの方が、保護者の方も「好き嫌いを無くさないと!」と焦らず、気楽にいられるのではないかと思います。


母のレシピ本を読み漁り、高校で「調理って科学なんだ」

――露久保先生が科学に興味を持ったきっかけは何だったのですか?

子どもを科学嫌いにさせないためには?食育からの大事なポイント
写真はイメージです
露久保:私の専門分野は「調理科学」なのですが、幼い頃から料理が好きで、母が沢山持っていたレシピ本を読み漁っていたんです。読んでいると、「なぜお菓子を焼くときは180度や190度がいいんだろう?」といった疑問が次々に浮かんできました。

そして高校時代の家庭科の先生が調理を科学的に教えてくれる方だったので、「調理って科学なんだ」と腑(ふ)に落ちた感覚がありました。それが、調理科学に対する興味がハッキリした瞬間でした。

――「子どもの興味を伸ばしてあげたい」と考えている親は多いと思うのですが、ご両親に料理が好きなことを応援してもらったりしたのでしょうか?

露久保:はい、そうでした。母自身も、新しい料理に挑戦することに関心が高かったですね。母は裁縫も得意だったので、私も幼い頃から針と布とミシンが遊び道具でした。

特別なことをするというよりは、親が好きなことをしているのを間近で見たり聞いたりすることが、私自身の興味関心の広がりに大きく影響したと思います。

子どもを科学嫌いにさせないためには?

――科学的な発想をすることに対して、子どもに興味を持たせるためには何が大切なのでしょうか。

子どもを科学嫌いにさせないためには?食育からの大事なポイント
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露久保:食の実験をすると、子ども達はすごく関心を持って取り組んでくれるんです。その続きで科学的な解説を行うと「解説はつまらないから嫌だ」という子はいません。

やはり「どうしてこうなったのか知りたい」という気持ちが湧いてくるので、そういう機会を沢山作っていただいて、「面白い」という感覚を持ってもらうことが大事だと思っています。

化学式や知識を詰め込まないといけないというよりも、「科学って面白い」と感じて一緒に実験を楽しんでくれる大人が近くにいるかどうかで、子どもの興味の持ち方が変わってくるのではないでしょうか。


【露久保美夏】東洋大学食環境科学部食環境科学科准教授。博士(学術)。専門は調理科学、食育。小学生を対象とした親子の食育プログラムや、科学実験講座を定期的に実施。「所さんの目がテン!」(日本テレビ)に不定期出演。

<文/都田ミツコ>

【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
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