1日に1000人以上の子どもが性被害に遭っているという調査結果があります(厚生労働省調査 令和2年度、推定)。

 X(旧Twitter)で「ふらいと先生」の名前で小児医療や福祉の問題を発信し、フォロワー14万人を超える今西洋介医師が、『小児科医「ふらいと先生」が教えるみんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)を上梓しました。


1日に1000人以上の子どもが性被害に!「先生にもノーを言っ...の画像はこちら >>
 様々なデータや研究結果を元に、子どもの性被害に対する誤解を正しながら、実態について知ることができる一冊です。

 今回は今西先生に、小さな子どもの性被害の特徴や、子どもに教えておきたい知識についてお話しを聞きました。性被害を防ぐためには、どんなことが大切なのでしょうか。

性加害者の多くは子どもと信頼関係のある家族や知り合い

1日に1000人以上の子どもが性被害に!「先生にもノーを言ってもいいよ」と教えるべきワケ
※写真はイメージです(以下同)
――子どもの性被害は、どんな特徴があるのでしょうか?

今西洋介先生(以下、今西先生):子どもは成人と比べると、突発的な被害よりは人間関係のつながりの中で性被害に遭うことが多いです。

 被害者の年齢が7~12歳において、最も多いのは「親の恋人・親族」、ついで「親」からの被害です。

 また、0~6歳、13~15歳では「親」の割合が最も大きいと分かっています(一般社団法人Spring【性被害の実態調査アンケート結果報告書① ~量的分析結果~】2020年)。

 そのため、発覚した時にすごく驚く親御さんが多いんです。

実際の被害件数は統計よりもさらに多い

――本書の帯にもありましたが、「1日に1000人以上の子どもが性被害に遭っている」という試算があることに衝撃を受けました。

今西先生:あくまでも厚生労働省調査の推定の数値なので、正確な数値ではないのですが非常に多いですよね。

 ただ、子どもの性被害は暗数(統計に現れなかった数値)が多いと考えられているので、実際はもっと多くの性被害が起こっていると思われます。

――統計に現れない数が多いのはなぜなのでしょうか。

今西先生:信頼関係のある中で性被害が起きることが多いので、加害者が家族や、身近な先生というケースが多いのです。

 その場合、親御さんが子どものプライバシーを考えて公表しなかったり、警察に行かなかったりすることが多々あります。また、子どもが被害を保護者に言えないことも多いです。


誰にも話すことができず、大人になってトラウマが現れることも

1日に1000人以上の子どもが性被害に!「先生にもノーを言ってもいいよ」と教えるべきワケ
壁に寄り掛かる女性
――性被害に遭っても、保護者に話すことができない子どもが多いのはなぜなのでしょうか。

今西先生:「親を悲しませたくない」と思って被害にあったことを言えない子どもや、幼いために自分がされたことが性被害だと理解できないことも多いです。そのような場合は、成長してからトラウマ(心的外傷)が現れることがあります。

 そもそも、大人でも自分で警察に行って訴えたり、加害者から逃げるのが難しいですが、子どもにはもっと難しく、できないという問題があります。

性被害を防ぐための「性教育」と「同意学習」

1日に1000人以上の子どもが性被害に!「先生にもノーを言ってもいいよ」と教えるべきワケ
小学校
――性被害を防ぐために、子どもにどんなことを教えるべきなのでしょうか。

今西先生:まずは包括的性教育(体の仕組みだけでなく、人間関係など幅広いテーマを含む性教育)として、プライベートゾーンについて教えることが大切です。

「水着や下着で隠れる場所と口は、自分しか触れてはいけない場所だよ」としっかりと伝えてあげてください。ユネスコ(国連教育科学文化機関)では、5歳から性教育を始める方針を示しています。

 また、「同意学習(同意教育)」も大切です。私が渡米した時に見学した保育園では、子ども達に水が入ったコップを渡し、クラスメイトに「お水を一緒に飲まない?」と話しかける授業が行われていました。

 一見すると性被害と直接関係ないような気がしますが、イエス、ノーの意思を伝えたり、相手がノーと言った時は引き下がるように教えることで、「バウンダリー(自分と他者を区別する境界線)」を学ぶことができます。

 また、重要なのは、先生もその授業に参加しており、「先生にもノーを言ってもいいのだ」「そのノーは尊重されるべきものなのだ」と実体験を持って身につけていくことです。

自分を犠牲にしてでも大人の言うことを聞くのはおかしい

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黒板を持った子供
――日本では、「先生や年上の人の言うことを聞かなければいけない」と教えられるので、子どもが大人に「ノー」と言うのはなかなか難しいかもしれません。

今西先生:確かに「先生の言うことを聞きなさい」とは昔から言われてきたことですが、自分を犠牲にしてでも先生や大人の言うことを聞けというのはおかしいですよね。


 大前提として「自分の体は大事なんだよ」と教えること、そして「自分の体を守るためには、先生が相手であっても嫌だと言うんだよ」としっかり話しておくべきです。

 そして、「少しでも変だと感じることがあったら、どんなことでもお母さんやお父さんに話してね」と伝えてあげてください。

<文/都田ミツコ>

【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。
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