友人同士のルームシェア賃貸が、暮らしの選択肢として定着している昨今。なかには期間限定で借りるだけではなく、阿佐ヶ谷姉妹のように長年の暮らしのパートナーとして生活を共にすることに憧れる女性も多いと聞きます。


かつてドラマ化もされた『私の家政夫ナギサさん』(※原作タイトルは『家政夫のナギサさん』/シーモアコミックス)の原作者である漫画家・四ツ原フリコさんは4年前からルームシェアをしていた漫画家で友人のエイタツさんの協力のもと、2024年秋にふたりで住む家を“購入”したそう。

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そんなふたりのルームシェアの様子を描いた同人誌『IMA IMA オタクルームシェアはじめました』も発表。またこの反響を受け、2025年春夏頃にはマンガサイト「Souffle」(秋田書店)にて家を購入した経緯のエッセイコミックを連載予定です。

それに先駆けて、前編の今回は、ルームシェアをはじめた経緯や心境を四ツ原さんにお聞きしました。
※本記事は全2回のうちの1本目です

大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
IMA IMA オタクルームシェアはじめました


大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
IMA IMA オタクルームシェアはじめました


大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
IMA IMA オタクルームシェアはじめました


大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
IMA IMA オタクルームシェアはじめました


大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
IMA IMA オタクルームシェアはじめました


「オタクのトキワ荘みたいなのやりたいよね」と話していた

――『ギブギブの悪魔』(作画:エイタツ、原作:四ツ原フリコ/新書館)をともに手掛けるエイタツさんと、4年前にルームシェアをスタートしたきっかけを教えてください。

大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
『ギブギブの悪魔』1巻(新書館)
四ツ原フリコさん(以下、四ツ原):20代の頃から、エイタツさんを含めた友人と「将来おばあちゃんになったら、友だちみんなで同じアパートに住んでオタクのトキワ荘みたいなのやりたいよね」なんて話をしていました。それから十数年後、私とエイタツさんは漫画家となって近所に住み、2週間に1度はお互いの家に入り浸って仕事をする“作業会”をしていたんです。

そんななか、エイタツさんが子猫を一時保護することになり、猫好きな私も彼女のお手伝いをするため、2~3日に1度は彼女の家に行くようになりました。会う頻度が上がって「一緒に住めば行き来する必要もなくなるのに」なんて話もしていましたね。

ただ、私の家にはそのとき引き取った猫と元々飼っていた猫で合計2頭。エイタツさんも3頭の猫を飼っていたので“猫5頭でルームシェアできる賃貸物件はさすがにない”と思っていたんです。

でも、ある日の作業会で私は仕事に飽きてしまい、サボる口実として「一緒に住める家を不動産屋で探してみよう」と提案したんです。

震災やコロナ禍がルームシェアのきっかけに

――物件探しのきっかけがサボり目的だったとは!

四ツ原:絶対にないと思っていたのですが、猫5頭と一緒にルームシェアができる物件が見つかりまして(笑)。築古のマンションでしたが、最寄り駅まで徒歩12分。
コンビニやスーパーも近くにある良物件だったので即決しました。

物件が見つかった以外に、東日本大震災やコロナ禍を経験して、有事に誰かと一緒にいられる安心感を得たかったのもルームシェアに踏み切った理由のひとつですね。

大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
『IMA IMA オタクルームシェアはじめました』より
――おふたりの生活を描いた『IMA IMA オタクルームシェアはじめました』を同人誌で発表した経緯もお聞きしたいです。

四ツ原:まず、オリジナル作品を販売する同人誌即売会『コミティア』に出す本の企画として考えたのがこのテーマでした。そのとき、自分が提供できる話のなかで、もっともキャッチーで興味をもたれやすいのが友だちとのルームシェアだと思ったんです。

信頼できる人がそばにいるのは大きな安心感

四ツ原:私自身、エイタツさんと暮らす前から「友人同士のルームシェア」に関する情報をネットで探してみたり、漫画家さん同士のルームシェアエッセイ漫画を読んだりしていて、興味があったので。実際にルームシェアをはじめてから、生活について質問を受けるようになり、需要を体感したのも大きいですね。

――たしかに「おばあちゃんになっても独身だったら、一緒に住もうね」という会話を友だちと交わした記憶があります。作品発表後の反響はいかがでしたか?

大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
『IMA IMA 03 オタクルームシェアはじめました』より
四ツ原:Twitter(現:X)に漫画を一部掲載すると、私の過去作品を読んでいなかった方からも「おもしろかったのでダウンロード販売の漫画を買いました」とコメントをいただきました。そうした感想のなかでも「結婚するにしろ、友人と暮らすにしろ、誰かと一緒にいて楽しい、一緒に暮らしたいと思える人に出会えたフリコ先生がうらやましい」というコメントは印象に残っています。

私とエイタツさんの出会いは、ある同人イベントでした。高校生の時、偶然隣のスペースになった縁がここまでつながるとは思いませんでしたね。長い付き合いなので連絡を取り合っていない時期もありました。
その後、ふたりとも“漫画家”になり、仕事の相談をするようになったのが、今の関係につながっているように感じます。

コメントをくれた方がおっしゃる通り、友人でも結婚相手でも、信頼できる人がそばにいるのは大きな安心になりました。

「結婚したほうが…」と不安を抱いていた30代

――独身の女性が家を買うと「結婚を諦めたの?」なんて意見を耳にすることもあるかと思うのですが、周りの人々の反応はいかがでしたか?

四ツ原:私自身は、エイタツさんとルームシェアをするときも、家を買ったときも「結婚できないからそうしたんでしょ?」と言われた経験はありません。親に家を買ったと報告したときも、深くツッコまれませんでした。

エイタツさんも、親御さんにLINEで家購入の事後報告をしたあと長い間「既読」のまま放置されたとか(笑)。親もいい意味でドライなので、助かっている部分もあるかもしれません。

大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
『IMA IMA 02 オタクルームシェアはじめました』より
私も30歳前後の頃は「結婚したほうがいいのかな」と不安を抱いていた面がありました。ただ、当時は駆け出しの漫画家で収入も少なく、結婚したとしても経済的に相手を頼らざるを得ない状態だったので、自立してから考えることにしたんです。

世間体を気にするのを止めたら楽になった

四ツ原:そんななか、友人に恋人との結婚に踏み切った理由を聞くと「周りから『結婚しないの?』と尋ねられるのが嫌だったから」と話していたんです。それを聞いて「私が結婚しなきゃ、と焦っていた理由は“世間体”の1点だった」と気付きました。

大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
『IMA IMA 02 オタクルームシェアはじめました』より
結婚したい理由が親の手前とか、世間の目とかでしかないなら、自分はしなくてもいいかなと思えるようになって、とてもラクになりましたね。今後よい出会いがあれば結婚する可能性もありますが、“無理に探す”のはやめました。

白か黒かではなく「グレー」の選択肢も残したい

――一気に価値観が変わったんですね。四ツ原さんの代表作『家政夫のナギサさん』も、男性が家事をして女性がバリバリ働く設定でした。
既存の価値観に新たな選択肢を提示するストーリーでしたが、四ツ原さんの心境の変化が作品に現れている部分もあるのでしょうか?


大ヒット漫画家が“女ふたり”で暮らす家を購入したワケ「結婚しなきゃ…は世間体だと気づいた」|漫画『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』
『家政夫のナギサさん』(シーモアコミックス)
四ツ原:ナギサさんを描いていた頃は、まだ「結婚したほうがいいのかな」と悩んでいた時期かもしれません。今でも結婚をしないと決めたわけではなく、今後その選択肢を選ぶ可能性もあります。人生の選択肢が白か黒しかない状況よりはグレーの選択肢も取れるようになると、生きやすいのではないかという思いがあります。

今は年齢・性別に関係なく、友人とのシェアルームについて前向きに捉える人が多くなりましたが、現時点で国の制度や法律の対応はあまりない印象です。ローンを組む際にも、友人同士が一緒に人生を歩むハードルの高さを実感しました。

戸籍上はつながりがない関係同士でも支え合って生きていけるような制度がほしい……と、切実に思います。友だちと暮らす“共助”の難しさについてはエッセイ漫画の次回作でも触れていきたいテーマですね。

【四ツ原フリコ】
漫画家。家事が苦手なキャリアウーマンと、彼女の家で家政夫をする中年男性の2人が織りなすハートフルストーリー『家政夫のナギサさん』(シーモアコミックス)で人気を博し、2020年にドラマ化。以降も『整形シンデレラ』(シーモアコミックス)などの作品を手掛ける。友人であり、『ギブギブの悪魔』(新書館)にて作画を手掛ける漫画家のエイタツとの生活を描いたルームシェアエッセイ同人誌『IMAIMA オタクルームシェアはじめました』シリーズをBOOTHにてDL販売中。

<取材・文/とみたまゆり、作品クレジット/(C) 四ツ原フリコ>

【とみたまゆり】
週刊誌や漫画の書評などジャンルにこだわりなく執筆する中堅ライター。
三毛猫が好き
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