そこで、日本初の女性肛門科専門医でマリーゴールドクリニックの院長・山口トキコ先生に、温水洗浄便座の正しい使い方について伺いました。(初公開日は2020年2月25日 記事は取材時の状況)
洗浄シャワーは毎回使うべき?
ここ10数年ほどでメジャーになり、愛用者も多い温水洗浄便座の洗浄シャワーですが、山口先生は「いい便が出たときは肛門周辺もそれほど汚れないので、ペーパーだけできれいに拭き取れていれば、排便のたびに使用する必要はありません」といいます。おしりのトラブルで受診する患者さんに対しても、医師が洗浄シャワーの使用を推奨することはないそうです。ただ山口先生曰く、「緩い便が出たときは、洗浄シャワーの使用が望ましいときもあります。緩い便は肛門周辺が汚れやすく、きれいに拭き取るためには何回もペーパーで拭くことになって過度な刺激を与えてしまうため、かゆみやかぶれの原因になることがあります。そんな時洗浄シャワーを使えば、ペーパーでおしりについた水滴を取り除くだけでよくなり、拭き過ぎを防げる」そうです。

「便がつくと痔が刺激され、痛みを伴うことがあります。特に辛い物は食べるとそのまま便となって出てくるので、辛み成分が強い刺激となります。そのため、『洗浄シャワーできれいにできてよかった』という患者さんは多いです」(山口先生)
イボ痔の患者さんからは、「これまで排便のたびに、飛び出てきたイボを指やふろ場のシャワーで押し戻していたけれど、洗浄シャワーでイボをスムーズに戻せるようになった」との声もあったそうです。
とはいえ、イボを洗浄シャワーで戻すのは、温水洗浄便座の正しい使い方ではありません。同様に、「便秘の時に洗浄シャワーで排便を促す」というのも「温水洗浄便座の目的ではなく、正しい使い方ではない」と山口先生は忠告します。
温水洗浄便座の正しい使い方
そこで気になるのが、温水洗浄便座の正しい使い方。山口先生に伺ってみたところ、医師としての観点では、次のような使用方法が望ましいとのことでした。・緩い便が出たときなど肛門周辺が汚れたときだけ使用する
・かゆみなどがあるときは使用しない
・洗浄シャワーで洗うのは、肛門の中ではなく周囲のみ
・水温は、熱すぎず冷たすぎず、人肌くらいの温度
・洗浄シャワーの強さは強すぎないように
・あてる長さは10秒くらいでじゅうぶん
洗浄シャワーを強い勢いであてたり、1分2分と長時間使用したり、肛門の中まで洗っていたという患者さんの中には、直腸に水が溜まってあとから漏れてきた人もいるとのこと。
「お風呂でも洗いすぎたり長湯をすると、肌が乾燥してかゆくなりますよね。おしりも同じで、洗いすぎや長時間の使用はよくありません。何事もやりすぎは禁物。温水洗浄便座も正しく適度に使ってください」と山口先生。かゆみがあるとついあてたくなりますが、おしりに違和感があるときは洗浄シャワーの使用を控えた方がいいそうです。
温水洗浄便座は使いすぎると痔になる?
一方で、「温水洗浄便座の使い過ぎで痔になる」などのウワサもあり、洗浄シャワーの使い過ぎでかゆみやただれなどを引き起こす「温水便座症候群」なるものも言われていて、実際どうなのか気になるところ。
「温水便座症候群は、洗浄シャワーの使用でかゆみなどが起きるとされていますが、長年使用していてもかゆみがないという人もいるので、症状の有無は個人差があります」とのことで、正しく使用していればそれほど心配しなくていい様子。
また、「温水洗浄便座を使ったからといって痔になるということもありません。洗浄シャワーを使用した際に、もともとあったのに気付いていなかった傷がしみて、『痔になった!』と勘違いした人がいたのかもしれませんね」とのことでした。
おしりのために大切なこと

山口先生は、「肛門周辺の細菌が陰部へ移ると膣カンジタなどを起こすことがあるため、前から後ろへ拭くようにしてください。ただ、ごしごしこすらなくても、肛門にペーパーをあてるだけで周りの汚れは拭きとれますよ」と、汚れが付かなくなるまで“抑え拭き”をするのが正しいおしりの拭き方だと教えてくれました。
ただそれ以前に、女性は硬い便による切れ痔が多いこともあり、「おしりの負担やトラブルから考えても、洗浄シャワーを使用しなくてもいいような、肛門周辺が汚れない“いい便”を常に出すことが大切です」と山口先生。温水洗浄便座の使い方を気にするよりも、便通を整える生活を意識することが先決のようです。
【山口トキコ】
マリーゴールドクリニック院長。日本大腸肛門病学会専門医。東京女子医大大学院卒、東京女子医大一般外科医局での研修を経て、社会保険中央総合病院・大腸肛門病センターに6年3ヶ月勤務。2000年に東京都港区赤坂にマリーゴールドクリニックを開業。
<文/千葉こころ>
【千葉こころ】
自由とビールとMr.Childrenをこよなく愛するアラフィフライター&編集者。
人生後半戦も夢だけは大きく徒然滑走中