そんな三上が話題を集めている。毎週火曜日よる10時から放送されている『東京サラダボウル』(NHK総合)第6話ラストに登場した三上博史を見て、SNS上が沸いたのだ。
今どうして三上博史が話題になるのか。男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が解説する。
ラストたった2カットで目が釘付け
東新宿署・国際捜査係の刑事・鴻田麻里(奈緒)と元刑事で警視庁・通訳センターに所属する有木野了(松田龍平)がバディとなって国際事件に挑む『東京サラダボウル』第6話が話題だ。麻里と有木野それぞれに隠された過去が紐解かれるこの回は、放送時間の大半を回想場面に割いている。
回想と回想で現実の場面をサンドイッチする語り方は悪くはないのだけれど、ちょっと刺激がほしいなと思った。すると、刺激どころか、かなりスパイシーでスモーキーな新キャラをラストで登場させる。
現場から干されていたベテラン刑事・阿川博也(三上博史)が満を持して登場するのだ。
外国人の聴取で意図的な誤訳を行ったということだが、きっと問題だらけの人物なのだろう。夜の歌舞伎町を得意満面の表情で闊歩する阿川をカメラが引きの位置から捉える。
彼は上を向いて目をつむり、立ちどまる。目を開け、再び歩き出す。手持ちカメラが揺れる。ラストたった2カット、画面上手側ぎりぎりに位置する三上博史を見て目が釘付けになった。
今どうして三上博史が話題になるのか
三上演じる阿川の登場に対してX上が盛り上がった。「ほとんど見た目が変わってないように思う」など、興奮気味の感想ポストが散見された。昔とまったく変わらないカッコよさは、翌日のネットニュースにもなった。筆者もまた、上述したポストやニュース記事を先に読んで、今どうして三上博史が話題になるのかと思ったひとりだ。その上で第6話のラスト2カットを見て、そうかこれにみんな興奮したんだと膝を打った。ぼくらは今も昔も三上博史ファンなんだと改めて気づく。みたいな話題性をいきなり提供する2カットなのだ。
鴻田と相棒を組むことになる阿川が本格的に登場する第7話が早く見たいなとワクワクしながら、次週の予告編を見てまた目が釘付けになる。
今度は画面下手。
芸術表現の理想型みたいな存在感
世界の名作文学を全4回で解説、読破する『100分de名著』(NHK Eテレ)でも三上は、この上ない厳格さと美しさで自らの横顔を印象付けていた。イタリアの記号学者ウンベルト・エーコによる大ベストセラー小説『薔薇の名前』放送回(2018年)。三上が、繊細な照明を施したスタジオで本を広げ、朗読する。ややローアングルのカメラが、その横顔を捉え、その声の表現を浮き上がらせる。エーコが込めた複雑なミステリー世界が、三上の横顔と声でより一層引き締まり、迷宮感を強める。
芸術表現の理想型みたいな存在感の人である。彼の声の魅力は、2007年から放送され、ナビゲーターを担当している『小さな村の物語 イタリア』(BS日テレ)のナレーションにもいきいきと息づいている。彼が発する言葉ひとつ、そしてまたひとつ、どれも決して聞き逃してはいけないと思わせる明快な磁場がある。
令和の時代に再発見

一方で若き日の三上は、トレンディドラマ俳優として気を吐いていた。『東京サラダボウル』と同じ刑事役を演じたコメディドラマ『君の瞳をタイホする!』(フジテレビ、1988年)は、バブル時代を象徴するトレンディドラマとして記憶されている。
1990年代には、世界的指揮者が中学校のオーケストラ部を指導する『それが答えだ!』(フジテレビ、1997年)で、とびきり嫌味っぽく、色っぽく、しなやかな名演がある。唯一出演経験がある大河ドラマ『平清盛』(NHK総合、2012年)での鳥羽上皇役も忘れがたく神々しい。『東京サラダボウル』の三上博史は、この令和の時代に不意に再発見された感じがする。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu