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「結婚して18年たつ夫が、ふと気づいたら帰ってこなくなっていた。こんな話を聞いて、不思議やらおかしいやら」と語るのは、不倫事情を長年取材し著書多数のライター・亀山早苗さん。不可解な夫の行動、その結末を、亀山さんがレポートします。(以下、亀山さんの寄稿)
いつしか帰って来なくなった夫
「そもそも、夫はもともと毎日きっちり帰ってくる生活を送っていたわけではないんですよ」当事者のリョウコさん(49歳)は、そう言って苦笑した。3歳年上のサラリーマンの夫が知人と一緒に起業したのは8年前。「これが最後のチャンスだから」と説得され、渋々ながら了解した。それからの夫は仕事三昧で、たびたび会社に泊まっていたという。
「夜食を持っていったこともあるんですよ。同僚とふたり、深刻な顔でパソコンに向かって仕事をしていました。それでもふたりとも明るかった。自分たちのやることを信じている。きっといつか結果が出ると信じていたんです」
リョウコさんも仕事をしており、一緒に子育てもしてきたのに、夫だけ子育てを離脱したようにも感じていた。当時、子どもたちは9歳と6歳。
「ここ1、2年でしょうか、ようやく夫も少しラクになったみたいで、よほどのことがない限りは家で家族一緒に食事をとることもできるようになりました。ところが3ヶ月ほど前から、またたびたび会社に泊まることが増えたんです」

「なんだかヘンだなと思っていたら、中学生の次女が『今年に入ってから、お父さんに会ってない』と。いや、お正月にはいたから正確には4日以降ですね。それで1月半ばくらいに夫のクローゼットを見たら、ほとんど冬物の洋服がないんです」
知らないうちに、夫は家出をしていたのだ。
夫を職場から尾行して、行き先を突き止める
リョウコさんは、そのとき本音として「めんどうだな」と思ったという。このまま放っておいてもいいかと思ったが、次女は父親に会いたい様子。「しかたないから、会社から帰る夫を尾行しましたよ。探偵さんを頼めるほど経済的に余裕があるわけでもないので。すると夫は18時半ころ会社のあるビルを出て、すぐに電車に乗り込みました。我が家とは正反対の方角。電車の中ではせっせとSNSかなんかで連絡をとっているようで、ときおりにやにやしていました。
夫の行き先は……
一度電車を乗り継ぎ、とある駅で夫は降りた。すぐさま電話で話をしている。そのままコンビニに寄って買い物をすると、足早に歩いていく。夫が入っていった建物は、どこにでもあるような7階建てのマンションだった。
エレベーターが7階で止まり、ドアが開いたが夫は降りようとしない。彼女は開くボタンを押したまま、夫を後ろから蹴るようにしてふたりで外に出た。
「いや、頼むよとかなんとか夫はごにょごにょ言っていました。『私は冷静だから、とりあえずあなたが行くべきところへ行って』。うちの夫、どこか気が弱いところがあるんですよ。それでとうとう、ある部屋の前で止まった。
若い女性と暮らしていた夫。女性の正体は……
顔を覗かせたのは、小学生の娘たちを夕方からめんどうみてくれていた、リョウコさんの親戚の女の子だったからだ。「腹の底から、ハア? という声が出ました。彼女に来てもらっていたのは最初の2年くらい。遠方の大学に合格したというので、その後はあまり連絡をとっていなかったんですが、顔はもちろんはっきり覚えていました」

「1DKの狭いマンションだからベッドなんかすぐそこにあるわけですよ。男と女の欲望の匂いが漂っているような気がしました」
青くなって震えている親戚の女の子に、リョウコさんは言った。
「この人、あなたにあげるから。ただうちはまだまだ娘たちの学費がかかるの。生活費と学費だけは払い続けてもらいますから」
そのとたん、女の子は「いえ」と言った。
「いらないわよ、あげるって言ってるでしょ」
立ち上がってマンションを出たリョウコさんだが、腹を立てるべきなのにあまり立たない自分を感じていた。その翌日、夫が「帰っていいかな」と連絡してきたので、「帰らなくていいよ」と絵文字つきで送ってやったという。

「夫の同僚から連絡が来まして、このところ夫は本当に会社に泊まっているそうです。彼女にフラれたんでしょうかねえ」
リョウコさんはまだどうするか決めていない。離婚も頭にちらつくが、そういう煩(わずら)わしいことはしたくないのも本音。かといって何もなかったかのように夫を迎え入れるのも悔しい。ただ、罰を与えなくてはという気持ちもない。
「もしかしたら、私、夫に対して無関心になっているのかもしれません。憎むよりもっとよくない関係なのかな」
しばらくはこのまま過ごし、心の赴(おもむ)くままに決めたいのだが、父親に会いたがっている下の娘のことを考えると「早く決めたほうがいいのかな」とも思う。答えのでない「めんどうなこと」に巻き込まれたのがいちばん腹立たしいと彼女は笑った。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。