2015年公開の『ケンとカズ』でカトウシンスケさんとともにW主演を務め、自主映画としては異例のロングランとともに、高い評価を受けた俳優・毎熊克哉さん(37歳)。

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 その後は、連続テレビ小説『まんぷく』で主人公一家を支えた“塩軍団”のひとり森本元や、昨年の大河ドラマ『光る君へ』で、序盤数回の出演ながらまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)、それぞれと絆を結ぶ直秀を好演。
直秀の退場時は視聴者からロスの声が起きました。

 そんな毎熊さんの主演最新映画『初級演技レッスン』が公開。タイトルに付く“初級”の大切さや、『光る君へ』で感じた吉高さん、柄本さんの姿を含め、「主演として立つ」ことについての思いなどを聞きました。

『初級演技レッスン』は仮のタイトルだと思っていた

『光る君へ』で話題の37歳俳優が明かす吉高由里子の“緊張感”。感動したレジェンド俳優からの言葉とは?
毎熊さんインタビュー
――オファーがあった際の感想を聞かせてください。

毎熊克哉さん(以下、毎熊):すごいタイトルだなと思って。ちょっと怪しげだし(笑)、最初は仮なのかなと思っていたら、そのまま正式タイトルでした。

 だけどこの“初級”っていうところが肝だと思っていて、いろんなレッスンに初級、中級、上級がありますが、たとえば、僕がとても尊敬していて実際に教わっていたダンサー(EIJI)の方がいらっしゃるのですが、その方のクラスは初級しかないんです。やってみると、初級が一番難しいんです。

――初級が一番難しい。

毎熊:今回、映画本編にも踊りのシーンがちらっとだけ登場するので、あえて踊りに例えたままお話させていただきます。

 動きの難しさだけで言うと、おそらく上級が難しいと思います。では初級は何をやるのかというと、“音楽に乗る”んです。だけど踊りって、そもそも形の難しさではなくて、まず音楽があって、音楽に乗ることですよね。


 そこをやっていくから初級なんですが、逆にそこが一番難しくて、そこがかっこよくないと、どんなに難しい動きを覚えたところで、結局かっこよくならないんです。

“音楽に乗る”ことこそが難しい

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毎熊さんインタビュー
――そのダンスレッスンに何年も通われていたそうですが、ずっと初級クラスに行っていたのですか?

毎熊:踊りを始めたきっかけ自体がその先生でしたし、初級クラスとは書いてあるけれど、やっている型が難しくないだけで、ダンスを生業にしているプロの方も習いに来ていたんです。

 それくらい“音楽に乗る”というそこが一番難しいのだと思っていたので、このタイトルの“初級”にも反応しました。

 では「演技の初級ってなんぞや」と。『初級演技レッスン』は、そこを軸に行ったり来たりするので、これはもう映像にしないとわからないなと、むしろワクワクしました。

役作りで大切なこととは?

『光る君へ』で話題の37歳俳優が明かす吉高由里子の“緊張感”。感動したレジェンド俳優からの言葉とは?
毎熊さんインタビュー
――毎熊さん演じる演技講師・蝶野とのレッスンの中で、受講者はパーソナルな部分、心の内を探っていきます。そしてアウトプットしていく。

 毎熊さん自身は、直接役につながらなかったとしても、実生活における個人としてのインプット作業、私生活での経験は、役者が芝居に厚みを持たせるうえでも大事だと感じますか?


毎熊:大事どころか、むしろそちらがメインかなと思います。

 こうした演技レッスンのようなトレーニングや、体を動かしたり声を出すレッスンといったアウトプットのための実習ももちろん大事ですが、インプットがないと外には出て行かない。

 ひとつ芝居をするにしても、何かを選択するときの判断材料として、過去の自分がインプットしたものがないとできないと思います。

内野聖陽からの「ある言葉」に感謝

『光る君へ』で話題の37歳俳優が明かす吉高由里子の“緊張感”。感動したレジェンド俳優からの言葉とは?
毎熊さんインタビュー
――レッスンとは言わずとも、これまでに毎熊さん自身が出会ってきた先輩にかけてもらった言動で、心に留めておきたいものはありますか?

毎熊:ひとつ挙げるなら、「いいよ、思いっきり来い!」と言ってくれた先輩のことはすごく感謝しています。正直、がむしゃらにぶつかっていくと、「そういうのはやめてくれ」みたいな方もいると思うんです。

 自分は役者としてまだ年齢的にも40歳手前という中途半端なところにいます。

 これから先、より大きなキャッチャーミットを持っておくためにも、今はスキルも大事だけれど、それよりも心と心で、本気でぶつかる芝居がしたい。だから「心で来い! 大丈夫だよ。
思いっきり来い!」と言ってくれる先輩は、本当にかっこいいと思いました。

――たくさんいらっしゃるとは思いますが、どなたか具体的にお名前を挙げられますか?

毎熊:そうですね。内野聖陽さんです。一度ご一緒しただけなのですが、本当にアツい方で、「来い!」と。

 1回で決めないといけない緊張感を持っている方だという話を聞くこともありますが、それもとてもいい緊張感です。脚本では描かれていない部分にまで想像を馳せながら、本気で演技をされているのを肌で感じられて、とても刺激を受けましたし、嬉しかったです。

朝ドラと大河ドラマの反響はやっぱりすごい

――昨年、大評判だった大河ドラマ『光る君へ』出演時のことも聞かせてください。直秀は前半の登場でした。

毎熊:割とすぐにいなくなったんですけどね(笑)

 でも街でも声をかけていただきましたし、やっぱり朝ドラ(『まんぷく』)と大河ドラマは観ている人の数が圧倒的に多いというのは感じました。

――『まんぷく』の塩軍団での森本も人気でした。

毎熊:言ってしまうと端役で、最初はそんなに目立つわけでもありませんでした。人数も多いですし。でもちょっとした表現を拾ってくださる視聴者の方がたくさんいて。


 それが今度は大河ドラマという場所で、メインのキャラクターとして出させていただいて、さらに細かいところを拾って見てくださる視聴者が多いのを感じました。

派手さはないが程よい緊張感があった『光る君へ』の現場

――『光る君へ』の現場の雰囲気はいかがでしたか?

毎熊:今回の『初級演技レッスン』では僕が主人公なので、主演ということになりますが、大河ドラマに参加したとき、改めて主役って大事だと感じました。

 吉高さんと柄本さん、2人の醸し出すものが作品のベースになっていくし、そこが作品の質感を決めるんだなと感じて、すごく偉大に見えました。

 同じお話でも、別の方がやったら全然違う話に見えたと思います。現場も非常にいい空気でした。

 派手さはないんだけれど、自分の役や作品に、日々すっと向き合っていく、程よい緊張感。その緊張感も強くなりすぎることのない、軸となるおふたりの人柄の良さを感じる、とてもいい現場でしたね。

器の大きな人になっていきたい

『光る君へ』で話題の37歳俳優が明かす吉高由里子の“緊張感”。感動したレジェンド俳優からの言葉とは?
毎熊さんインタビュー
――毎熊さんも主演作として『初級演技レッスン』、そして7月にも主演映画(『桐島です』)が控えています。これから、どう熟していきたいですか?

毎熊:主演をやることにこだわってはいないんです。面白い役や監督に出会ったり、いい共演をしていくことが一番。

 ただその中に、主演という役割も入っていくのだとすると、やっぱり『光る君へ』じゃないですけど、主人公を演じる人の空気感を中心に、作品って出来上がるところはあると感じます。

 そういう意味でいくと、今回、主演させていただきましたが、僕はまだそうした空気を出したり、作ることの努力ができていないなと。

 お芝居はもちろんなんですけど、最初の“初級”の話ではないですが、結局、スキル云々ではなくて。
もうちょっと人としての大きさを身に付けられたら。器の大きな人になれたらと思います。

(C) 2024埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ
『初級演技レッスン』は渋谷ユーロスペース、MOVIX川口ほかにて順次公開中

<取材・文・撮影/望月ふみ ヘアメイク/星野加奈子 スタイリスト/カワサキタカフミ>

【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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