健康と美容に良いイメージがある、はちみつ。コロナ禍で免疫力や抗菌が注目されて以降、また世界中ではちみつの売上が伸びているそうです。


 実は日本でも2015年頃から、はちみつブームがありました。そのきっかけの一つでもあり、当時10万部のベストセラーになった書籍が、新装版として刊行されました。『新装版 ひとさじのはちみつ 自然がくれた医薬品の知恵』(2025年2月、マガジンハウス刊)。著者は、手作り石けんなどでも有名な前田京子さんです。

今また「はちみつ」がブームなわけ。食べるだけでなく、全身のケ...の画像はこちら >>
 同書には、はちみつの選び方から摂り方まで、こと細かに解説されています。何千年も前から人類が愛用してきて、今また注目を浴びているはちみつのすごいパワーとは…?

※厚生労働省は、「はちみつを与えるのは1歳を過ぎてから」と注意喚起しています。1歳未満だと乳児ボツリヌス症のリスクがあるため。

(以下、同書より抜粋して再構成)

食べるだけでなく、入浴剤や美容液としても

 はちみつは長年、私の暮らしの中にあたりまえのようにあった。

 料理に使ったり、パンやお菓子に焼き込んだり、ヨーグルトやわらび餅にとろりとかけたり、ちょっと口寂しいときにひとさじすくって、そのままペロリとなめたり。

 産地の違うさまざまな蜜源(みつげん)のはちみつのひとくちをゆっくりと味わいながら、その土地の風景を思い浮かべるのは、ちょっとした旅行気分だ。珍しい花のはちみつに出会うと、その絵や写真を探して眺めるのも楽しい。

今また「はちみつ」がブームなわけ。食べるだけでなく、全身のケアにも使える
マガジンハウス『新装版 ひとさじのはちみつ 自然がくれた家庭医薬品の知恵』
 これまでも書いてきたことだけれど、はちみつを入浴剤としてお風呂に持ち込むこともしょっちゅうだ。大さじ2、3杯を湯船に溶かし入れるのだが、べたべたせずに、すばらしくさらりとした極上の保湿力。
お風呂上がりはいつもご機嫌だ。

 イタリア産のオレンジのはちみつに、オレンジの花の精油とオリーブオイルを数滴合わせるなど、その日のお風呂素材の組み合わせを夕食の献立のように考える。疲れたときの何よりのレクリエーションである。

 すぐに出かけなくてはならないのに肌がちょっとまずい状態だったら、大急ぎでひとさじのはちみつにお気に入りの植物油を美容オイルとして1滴垂らして混ぜ、1、2分のはちみつパックをする。

 毎度のことなのに、肌の表面をつるんつるんにしてくれるその即効性には、ばたばたしながらでも、「おおっ」と、人知れず感動するのである。

おすすめの摂り方①:はちみつ水

今また「はちみつ」がブームなわけ。食べるだけでなく、全身のケアにも使える
ひとさじのはちみつ
 風邪で高熱を出した時、夏の暑い日や運動で汗をかくような時の熱中症予防に最適な、ビタミン・ミネラルたっぷりの手作りイオン飲料。ビタミンCの粉末の代わりに、フレッシュなライムやレモン果汁を大さじ1杯搾り入れても。キリッとして冷やして飲む爽快感は格別。冷えたくなければ室温で。プチ断食用デトックス水としても。

●材料と作り方/作りやすい分量
水500mlにはちみつ大さじ2、天然塩小さじ1/4、ビタミンC(粉末)小さじ1/2~1/4を合わせてよく混ぜて溶かす。

「医療用はちみつ」=「メディカルハニー」との出会い

 実を言うと、子どもの頃からもう何十年のつきあいだったはちみつとの関係に、数年前、革命的変化があった。そのことが、これまでのはちみつとのつきあい方をふりかえり、この本をまとめるきっかけとなったと言っていい。

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前田さん宅は、はちみつが並ぶ“おうち薬局”が
 ある時期、突然しつこい喉のイガイガに悩まされるようになった。


 それまでだったら原因が何であれ、寝る前に、マグカップに熱いお湯を入れ、はっか油を垂らして喉にかざすスチームバスのトリートメントをすれば、翌日か翌々日にはすっきりと元通り。

 ところが、どんなのど飴よりも頼りになっていたはずのはっか油なのに、今度ばかりは喉のイガイガが何日経っても治らない。いったいどうしたことなのか。

 そこでふと思い出したのは、「はちみつが傷んだ肌や粘膜の修復を助ける」ということだ。あれた肌の修復に、いつもの顔のはちみつパックがあれだけ効くことを考えたら、はちみつをもっと早く喉に試さなかったのは不覚であった。

 さっそく、そのとき手元にあった中から、温かい日向のような味の大好きなクローバーのクリームはちみつを選び、寝る前にひとさじ舐めて床につく。そうしたら翌日は、数日ぶりに快適な目覚めがやってきた。万歳!

 ところがその後しばらく、何とも不思議な感覚が続いた。どうもイガイガの原因は完全に取り除かれているわけではないようなのだ。

 はちみつをなめているかぎり、症状をある程度抑えることはできるのだけど、「イガイガ」や「ひりひり」が、くすぐったいような「ちりちり」になるぐらいで、完全に喉のことを忘れ去ることができない日が多い。

ニュージーランドの友人に教わった「マヌカハニー」

 そんなとき、ハッと思い出したのが、十年ほど前、ニュージーランドに住んでいる大学時代の友人が電話をかけてきてくれたときに聞いた、あるはちみつの話である。

「あのね、マヌカハニーっていうの、知ってる? マヌカっていう植物は、ティートリーに似ているんだけど、やっぱりちょっと違うの。こっちではね、はちみつというとマヌカなのよ」

 私が精油やはちみつに目がないことを知っていた友人は、そのはちみつの話をした後すぐに、香りがとっても似ているとカヌカの精油をペーパータオルに染みこませ、手紙といっしょに送ってくれた。
興味津々でいそいそ封を切ると、濃いエメラルドグリーンの強い海風のような香りがあふれ出た。

 なんでもマヌカのはちみつは、れっきとした病院でお医者さんたちが難病の治療にまで使うもので、効き目の強さによって数種類のグレードに分類されているのだという。

医療用グレードには指標がある

 2002年当時、日本でも、ほんとうにちらほらとマヌカハニーという名前を聞き始めた頃だったので、友人から聞いた後、さっそく輸入食品店でひとびん手に入れて私も味わってみた。はちみつというより、濃いキャラメルのような感じ。自分としてはとっても好みの味で美味しい。

 でも、難病どころか体調不良とも縁遠かった私は、「薬として使われるらしい」ことはあまり気にもとめず、トーストに塗ったりしながら、ひたすらペロペロ美味しく食べてしまったのだった。

「そうだ、そうだ。あのはちみつをこの喉に試してみよう」

 そう思った私は、さっそく、いろいろと資料を探し始めた。そうしたら、すばらしく興味深いことに、あれからマヌカハニーの研究はさらに進んでいて、それは世界で他のはちみつの医学的研究をも促し、なんといまや「メディカルハニー」とでも言うべき「医療用はちみつ」の分野が確立しつつあるらしいぞということが、段々わかってきたのだ。

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日本でもネットで買えるマヌカハニーの例。UMF10+、またはMGO260以上は医療グレードとされる
「マヌカハニーの効き目の理由となる特殊な成分は『UMF=ユニークマヌカファクター』と名付けられている」と知ったときには感動し、途端に喉の憂鬱が吹っ飛び、一瞬それだけでひりひりまでなくなった気がしたほどだ。

 それまでいろいろな植物オイルの効能を使い分けては、肌の調子やタイプに合わせて石けんや美容クリームのレシピを作ってきたけれど、オイルと同じように、いろいろなはちみつも効能をねらって使い分けられるようになってきたのか、と思ったら、小躍りしたい気分になった。

 いやー、年をとるのも、たまに喉が痛いのも悪くない。長生きというのはするものです。


おすすめの摂り方②ハニーキャンディ

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ひとさじのはちみつ
 大さじ1の蜂蜜に小さじ1/4ほどのビタミンCの粉末をそっとのせてそのままぱくり。このひとさじが風邪対策のおいしいサプリメントになる。しょうが、緑茶、ココア、シナモンなどの粉末を加えてフレーバーを変え、おやつ感覚で風邪予防を楽しんでみるのもいい。

はちみつの食べ方にもコツがある

 というわけで、その後、メディカルハニーの世界にどっぷり足を踏み入れたら、それまでのはちみつ人生の次元がぐぐっと広がり、楽しみ方が、何倍にも膨らんだ。

 それまでのように、いろいろな種類のはちみつを味わい分けるのも面白いけれど、不調に対する「効き目」ということを真剣に考えたら、はちみつのひとさじの食べ方、選び方にも、実はいろいろコツがあるということも段々わかってきた。

今また「はちみつ」がブームなわけ。食べるだけでなく、全身のケアにも使える
前田京子さん
 で、肝心の喉のイガイガひりひりはどうなったかって?

 詳しいことはあとで書くけれど、うれしさと驚きのあまり、どうしても原生林で満開のマヌカの花とハチたちの飛び交う様子が見たくなり、春のニュージーランドに自分も飛んで行ってしまったぐらいなのです。

まずはお気に入りのひとさじを探して

 普段の体調不良や体力作りに、はちみつが幾通りにも役に立つということを知ると、はちみつを常備しておくということは、大げさではなく、家にちょっとした薬局があることに等しいとわかる。

 そして面白いことに、何の症状から入ったとしても、一度はちみつを試してその効果を体感した人が、進んで元の市販薬に戻ることは、あまりないようだ。

 それはきっと、上手に使ったとき、はちみつがからだの不調を緩和するだけでなく、ほんとうの元気をくれるということを実感できるからだと思う。

 まずはお気に入りのひとさじを探す旅に出てみませんか?

<文/前田京子 写真/『新装版 ひとさじのはちみつ』より>

【前田京子】
国際基督教大学教養学部、東京大学法学部卒業。 手作り石けん・ボディケアブームの先駆けとなった『お風呂の愉しみ』 (飛鳥新社)、 『はっか油の愉しみ』(マガジンハウス) 他、著書多数。2015年に発売した『ひとさじのはちみつ 自然がくれた家庭医薬品の知恵』は10万部のベストセラーに。
持ち前の探究心から得た知見を暮らしの楽しみ方と結びつけ、そのアイデアを惜しみなく伝えている。1962年生まれ、横浜市在住。
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