暖かくなって過ごしやすくなり、お出かけの計画を立てたりイベントに参加したりと活動的になっている人も多いのではないでしょうか。でもそれは、人間だけではないようです。
この時期になると話題になることも多いダニやカメムシ。今回はその対策方法について、殺虫剤でおなじみフマキラー株式会社で開発本部基礎科学研究部部長・主席研究員を務める佐々木智基先生に詳しく話を聞きました。
佐々木先生は新商品開発のため虫の飼育や研究をおこない、多くのメディアにも登場する虫博士。人と虫との在り方についても研究し、人の命と地球環境をみつめる情報発信もおこなっています。
一年を通して必要なダニ対策
――暖かくなってくるとダニの存在が気になりはじめる人も多いと思うのですが、やっぱりこの時期は対策や駆除するなどして気をつけたほうがいいでしょうか?佐々木先生:ひと昔前は、冬になるとダニがいなくなるといわれていました。それは冬になると家の中も湿度と温度が低くなっていたからです。
けれどいまは気密性が高いおうちが増え、冬には暖房や加湿器で快適な温度を保つため、季節に関係なく高温多湿を好むダニが増える傾向にあります。
――エアコンや加湿器で、一年中ダニも快適に過ごしているというのは心中複雑です……。
佐々木先生:そうですね。そして、だいたい35℃を超えると、ほかの虫と同様に動きが鈍くなります。温度が低すぎるのも苦手です。
また、動物に寄生するイエダニやノミは季節に関係なく増えることがあり、冬場になると相談が増加することもあるので注意してください。刺されると、虫刺されに似た湿疹ができてしまいます。
――ペットといっしょに暮らしている人は、とくに注意したいですね。
佐々木先生:ほかに、チリダニとも呼ばれるすごく小さなダニ「コナヒョウヒダニ」は人を刺しませんが、その死骸を吸い込むことによってアレルギーを引き起こす原因にもなります。
ほかのダニも吸い込むことでアレルギーを引き起こす原因になりますが、こういった小さなダニは、大きなダニのエサにもなるので注意してください。小さなダニを餌とする「ツメダニ」は間違って人を刺すことがあり、1週間など、かゆみが長く続くこともあります。
ダニが増える場所や対策法

佐々木先生:ダニは、布団やソファー、布製品のところで増えてしまいます。ぬいぐるみとか。そういったものを小さいお子様がずっと触ってるとアレルギー体質になってしまうこともあるので、ダニ対策はしっかりやっていただいたほうがいいかなと思います。
――具体的な対策方法を教えてください。
佐々木先生:布団やカーペットなどにも使える殺虫剤をスプレーして殺虫してから、死骸を掃除機で吸い取り、粘着ローラーなどで掃除するという順番がおすすめです。また、天日干しや布団乾燥機をかけて湿気を飛ばすことでダニの餌となるカビの発生を抑えることにつながります。
生きているダニは洗濯洗剤で死ぬので洗濯もおすすめですが、卵を死滅させるには50~60℃以上必要です。洗濯後は、乾燥機までしっかりかけておくといいですよ。
――ぬいぐるみや布団には、殺虫効果のある製品を使いたくないという人も多そうです。
佐々木先生:殺虫効果のある製品も強烈な薬剤は使用していないので安心して使っていただきたいですが、気になる方は、強い薬剤が入っていない食品成分もしくは植物由来などのダニよけ商品を使うといいかもしれません。
注意してほしいのは、スプレーした部分にダニが寄りつかなくなり、別の場所へ移動するだけだということ。
そのため、まずはこまめな掃除でおうち全体のダニを減らしてからペットや赤ちゃんの近くなど、絶対にダニを寄せつけたくない部分だけに使うのがおすすめです。
春と秋に異なる対策が必要なカメムシ

佐々木先生:いまの時期だと、去年の秋口あたりから家のなかや家の外回り、ベランダなどの目立たない場所で越冬したカメムシが隠れていることがあります。2024年は、大量発生したので、今年はそういうカメムシも多いかもしれません。
暖かくなると出てきて繁殖するため、普段は気づきにくいところにカメムシがいっぱいいたりすることもあります。このように冬を越すために家のなかに入ってくるカメムシは、“秋口に家へ入れない、家の外回りやベランダなどに寄せつけない”対策をしておくことが大切です。
――なるほど。春に嫌な思いをしないためには、秋から対策をしておく必要があるのですね。
佐々木先生:はい。カメムシは、春と秋に対策をするのがおすすめです。また、春が少なくても秋に多く発生する場合もありますし、その逆もあります。
たとえば普段は使っていない部屋にお客さんが来てエアコンやファンヒーターをつけたら、秋口に侵入していたカメムシが出たという問い合わせがくることもあります。これは、部屋の温度が上がって「春が来た」と勘違いしたカメムシが出てきてしまうことによるものです。
――秋口にカメムシの侵入を防ぐには、どのような方法がありますか?
佐々木先生:実はカメムシ、春と秋では対策の方法が異なります。春は灯りに寄ってくるのですが、秋口は玄関や隙間から侵入する。なので秋口は、玄関や窓をピッチリと閉め、網戸に損傷があれば修繕して備えます。
ほかの虫と同じで、家の外回りにある雑草を抜いたり物やゴミを片付けたりすると隠れ場所がなくなって近づきにくくなり、結果的に家への侵入を防ぐことにもつながります。あとは、屋外側から網戸や窓ガラスにスプレーできる虫よけや吊るすタイプの虫よけも効果的です。
春は「いつもの暮らし」を変えてカメムシ対策
――ちょうどいまぐらい、春の対策方法についても教えてください。佐々木先生:春のカメムシは、灯りに寄ってきます。夜の玄関ライトや家の窓から漏れる灯りなどに寄ってくるので、玄関灯を消したり、家のカーテンを遮光カーテンに変えたりして隙間がないよう閉めるというのもひとつの方法です。あとは昼間の洗濯物。
――洗濯物にカメムシが紛れて家のなかに入ってきた、というのはよく聞きますね。
佐々木先生:はい。カメムシは明るいところが好きなので、光を反射する白色を好みます。また、あたたかいところが好きなカメムシにとって日光であたためられた洗濯物は居心地のよい場所になってしまうので、この時期だけ部屋干しするといいですね。
――外に干したいという人は、どうすればいいでしょう?
佐々木先生:よく確認してから洗濯を取り込む方法もありますが、紛れ込んでしまうこともあるでしょう。洗濯物についたカメムシを駆除するときに殺虫成分を使いたくないという場合、凍らせるタイプもあります。オイル不使用の製品を選べば、洗濯物もベタつきません。
駆除するのではなく寄せつけない工夫を

佐々木先生:洗濯物から離れたカメムシは、殺虫成分の入ったスプレーのほうが素早く駆除できます。
当社だと、冷却効果で瞬時にカメムシの動きを止めて駆除する『カメムシ凍殺ジェット』という製品があり、屋内外用です。事前に家の周りやカメムシが隠れていそうな場所にスプレーしておくことで最大2か月、住みつきも防止します。
――室内にもあらかじめスプレーしておけば、秋口のカメムシ対策としても使えそうですね。
佐々木先生:う~ん……、私はあんまりおすすめしないです。
なぜなら、カメムシが潜む場所は押入れやクローゼットを開けたところの裏側など。
――確かに、布団や衣類に殺虫成分が付着するかもしれないのは心配です。でも、家のなかでカメムシが潜むのを防止できないのはツラすぎます。
佐々木先生:そうですね。家のなかに入ってきてしまうと駆除も大変になるので、やはり、“カメムシを家へ入れない、家の外回りやベランダなどに寄せつけない”ということが大切になってきます。
繰り返しにはなりますが、家の外回りにある雑草を抜いたり物やゴミを片付けたりして隠れ場所をなくしてみてください。
また、屋外にある玄関灯や家の外回りにある外灯、屋外側から網戸や窓ガラスにスプレーできる虫よけ、吊るすタイプも効果的です。
“家に入れない、寄せつけない、減らした状態をキープする”工夫を
ダニやカメムシなど嫌な虫の名前を聞くと、つい「害虫なんて消えてしまえばいい」と考えるかもしれません。けれど佐々木先生いわく、「虫も地球の生態系を支える一員」。まずは、“家に入れない、寄せつけない、減らした状態をキープする”工夫を心がけたいものですね。
【佐々木智基】
フマキラー株式会社にて開発本部基礎科学研究部部長・主席研究員を務め、虫の飼育・研究をおこなう虫博士で、5年以上にわたり蚊・ゴキブリ・ダニ・アリ・外来種問題を担当。虫や植物がテーマのキッズ向けサイト「フマキッズこども研究所」内でも“虫はかせ”として活躍するほか、「虫や植物とふれあうコンテスト」の審査員も務めている。
<取材・文/山内良子>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意。