このぐらぐらした不安定さは、多くの俳優がリスペクトを表明している映画『GO』(2001年)で、父・窪塚洋介が示した危うげな魅力の系譜にある気がする。
男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が、独特な存在感をまとい、本作でもっともキャラ立ちしていると話題の窪塚愛流を解説する。
キャスティング面でも意欲的な目算

第2話で御上は、副担任・是枝文香(吉岡里帆)相手に、バージョンアップではなく抜本的な見直しを説く。「とある有名な学園ドラマの新シリーズが始まるたびに、日本中の学校が荒れて、学級崩壊を起こす」と引き合いに出される過去の名作ドラマの功罪、その是非はさておき、本作が単なる精神的、道徳的な理想論の学園ドラマではないことが端的に示される。
学園ドラマには、これからブレイク候補になるポテンシャルがある若手俳優がこぞって顔を揃えるものだが、本作にはキャスティング面でも意欲的な目算が、はっきりと確認できる。
もっともキャラ立ちしていると話題
御上が担任になった3年2組で当初から挑戦的な態度をとる要注意人物である神崎拓斗を演じる奥平大兼は、主演映画『君は放課後インソムニア』(2023年)や菅田将暉が黒沢清監督とタッグを組んだ『Cloud クラウド』(2024年)などですでにあざやかな名演を印象付けている。その神崎を何かと茶化しているのか、どうなのか、風変わりなキャラクター設定でクラス内を活気付けているのが、次元賢太である。演じるのは、窪塚愛流。ネット上では、窪塚演じる次元がもっともキャラ立ちしていると話題だ。
彼が次元役に込める軽妙さ、浮き足立つ身体、ふわふわふわふわした存在感。プログラミングで並外れた才覚を持ち、妙に明るい次元賢太というキャラクター性のどこをどうつかみ、理解して役作りしているのだろうか?
綱渡りするかのような窪塚愛流

どこか生々しい表情が印象的な道化師という感じ。
モデルでもある窪塚は、自らのビジュアルからそのフォルムを取り出して、輪郭自体を際立たせているような独特なたたずまいがある。内面的にも外面的にも他とは違う。
同話では、御上にやり込められた神崎にピースした右手をあげて、助っ人したいと申し出る。実にチャーミング。役柄と演じる本人の特性が不思議と調合された、ほんとうに謎にキャラ立ちした魅力の人である。
父・窪塚洋介が躍動した名作映画

俳優デビューは14歳。
順当に出演作を重ねる窪塚愛流が、『御上先生』でさらに提示する存在の危うさ、不安定さは、乱暴な引用だけれど、窪塚洋介の鮮烈な初主演映画である名作『GO』の系譜にあると指摘してみたくなる。窪塚洋介が躍動させた剥き出しの痛快な暴力性が、『御上先生』の窪塚愛流にも同様に認められると言いたいわけではない。
そうではなく、彼は彼なりのポテンシャルを感じさせながら、平成初期に父が体現した映画の熱量を令和的なクールでまとめあげ、見る者の心をぐらぐらさせて、扇動することが面白いのだ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu