臼田さんは、2003年デビュー後、映画やドラマと活躍中で、私生活でも母親として奮闘していますが、その両立はどのようにしているのか。40代に入って改めて想うことなど、いろいろな話をお聞きしました。
「“女性像の描き方”が面白くなりそうだなと」

臼田あさ美(以下、臼田):柚木麻子さんの原作なので女性像の描き方が面白くなりそうだという期待感がありました。さらに、矢崎仁司さんが監督されるということで、わたしの中では意外な組み合わせでした。矢崎さんは『ストロベリーショートケイクス』(2005年)でも女性を描いていますが、今回の原作にはポップなイメージもあったので、その組み合わせに初めは不思議な印象を持ちました。
――完成版をご覧になっていかがでしたか?
臼田:映画版は原作とは違うので、登場人物も削ぎ落されて少人数になっていますし、その中で群像劇を膨らませているので、小説の印象とはまた違うものになっていました。登場人物が、理想とする自分と異なる現実との間でもどかしく感じていたり、どうしても譲れない芯があったり、その様がとても上手に描かれていると思いました。あと、女の子たちはライバルだけれど認め合う感じも柚木さんの作品の魅力なので、そこがしっかり描かれていると感じ思いました。
どの女性にもある葛藤

臼田:慶野亜依子はカナコの就職先の編集者であり、理想の上司でもある。でも亜依子自身は、外側からは分からないヒリヒリ、モヤモヤしたものを内に秘めています。しかし、それは他の誰かではなく自分自身の理想との比較で生きているからなんです。今まで計画的に暮らし、決して欲張ってもこなかった。とても誠実に生きてきた人ですが、思い描いていた未来とは違う現実がある。
――観客の共感を呼びそうですよね。
臼田:大人になっても自分が思い描いていた未来、理想像とは違う自分がいる。受け入れるけれど、受け入れられない自分もいて。その葛藤はどの女性にもあるなと思いました。
いい仕事のために「ちゃんと生き抜くこと」が大切

臼田:日々を大切に過ごすことがいい仕事につながる職業だと思っています。普通の生活ありきじゃないと、いろいろな人を演じることは難しいと思うんです。どんな生活だとしても、ちゃんと生き抜くことは大切なことなんじゃないでしょうか。
ただ、そういうすべてのことをいつも考えているわけではなくて(笑)。こういう仕事をしていると多感なところはあると思うので、素敵な景色を見た、美味しいものを食べたという経験が、ちょっと残りやすいのかもしれないですよね。それを仕事に活かそうと思って生きてはいないですが、感受性は豊かでありたいですし、豊かであるためには日常を丁寧に暮らし、状態を整えておくことが大事かなと思います。
――そういう日々を送ろうと思うモチベ―ションは何でしょうか?
臼田:やるしかないんです(笑)。でもひとつ言うと、作品を作るために関わっているみなさんの姿を見る、そこにいなくても想像することは、モチベーションにつながると思います。
――感謝の気持ちですね。
臼田:そうですね。反対にもうちょっとできたらなという悔しさ、反骨精神のときもありますが、結局一緒に現場を作っている人たちの刺激は大きいと思います。
仕事と家庭の両立は

臼田:私にとって仕事と家庭の両立のハードルはそこまで高くないのかもしれません。でも、もっと理想はあるんですよ。子どもといろんな場所に出かけたいし、仕事にもたくさん時間を使いたい、家でも仕事に集中したい、準備にあてたい……。それを言っていくとキリがないから、やっぱり両立できていないのかもしれませんね。欲があるから。
ただ、自分のやりたいことが二つもあって、それを二つともやれていることにまずは満足して、ありがたく過ごしております(笑)。
――理想の状態はあるけれども、現実と折り合いをつけつつ、手を抜かないという考え方ですね。
臼田:そうですね。今できる精一杯なんです。いつもそういう感じです。でも、言い方を変えれば今できる精一杯をやりましたって、言い訳でもあるんですよね。言い訳になりかねないんです。でも、どんな先輩方に聞いても、仕事と家庭の両立なんて完ぺきにはできていないとおっしゃる。こんなにも素晴らしいお芝居をしている先輩でさえそういうことを言うのかと思って、わたしも今の精一杯でいいと思うようにしています。
――最後にうかがいますが、この先何か目標や成し遂げたいことはありますか?
臼田:「40代か」と改めて思うこともありますが、今までも年齢やタイミングで何かが変わったということはあまりなくて、なるようになるかなと(笑)。グラフで例えるとありがたいことに緩やかに来られました。なので、その調子でこれからもやれたらと思うのですが、いろいろなことをやらせてもらっていくなかで、自分の予期せぬことが多少起っても面白いかなと思っています。
たとえば信じられないような役をやってみるとか、そういうことも今なら楽しめるかなと。
<取材・文/トキタタカシ 撮影/吉開健太>






【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。