『勤労ロードショー 今日も財布がさみしくて』(KADOKAWA)の著者、まぼさんが労働を開始したのは16歳。
お金がほしい、だから働く
野球部のマネージャーという、青春の代名詞のようなポジションにつきながらも、重労働=無給という現実に悶々(もんもん)とする日々。ついに初バイトに踏み切ったのです。勢いとやる気はあっても、スキルと経験が皆無なのが高校生の現実。必然的に、今ある貴重な若さと情熱を売りにするしかないわけで。まぼさんが選んだのは試食販売。いわゆる「スーパーの試食販売や実演販売」です。
年齢不詳で正体不明の人々が雑居ビルの一室でスシ詰めになって行われる、人材派遣会社の登録会。まずは研修からはじまるのですが、担当社員も接客マニュアルも、これがまあ、癖が強すぎて、まぼさんは悪夢にうなされてしまうのです。


























お金は苦労と愛の結晶?
接客業。それは他人様と直に関わる仕事。スポット勤務が多く、一期一会になりがちな試食販売とはいえ、一日、いいえ一瞬でも恋に落ちるのが人間というもの。まぼさんにも出会いがありました。「派遣先で個人的に連絡交換してはいけない」という規則を破って、いい感じの男性とマッチング。
“いかなる誘惑にも屈せず、粛々(しゅくしゅく)と働くのみ!すべてはお金のため!”こんなスローガンも、目の前にぶらさがる色恋にはかないません。
私達の欲はオールジャンルに対応、女なら恋愛して当然だろ?と自らの行動を正当化してみても、やはり罪はバレてしまいます。
派遣会社にいづらくなったまぼさんは、もやもやした思いを抱えて、次なるバイトを探しに出るのです。
天然?変人?そば屋の店長
縁は異なもの味なもの。まぼさんの次なるバイトは、おそば屋さん。この店長がまた独特で、なんと「腰をバイトに叩かせる」のです。プレイではなく、れっきとしたバイトの役割。そば打ちで凝ってかたくなった腰をほぐすためで、まぼさんもその伝統(?)をしっかり受け継ぎました。
今日もまぼさんは、店長の腰を力いっぱい瓶で叩きまくります。「もっと!」と要求されれば、店長の腰を足で踏みまくります。
これもバイトだから!と肝に銘じればこわくはありません。世の中、さまざまな人がいて、人に揉まれて大人になるのです。
変…、いえ少々個性的な店長ですが、店長の打つおそばは絶品ですし、時給もよく、ちょいちょいパフェをごちそうしてくれたり(スイーツ好き店長に付き合わされる)居心地はよかったといいます。
個人的に、このおそば屋さんに行きたくなりました。
今日も続くよ勤労ロードショー
その後、美大に進学したまぼさんですが、バイトライフは続きます。美大といえば課題のオンパレード。お金がかかるのです。しかも製作時間も確保しなくてはならず、おのずと時短で稼げるバイトに目がいきます。やってきました、お水デビュー。一筋縄ではいかない接客(試食販売、おそば屋の店長)をやってきたまぼさん、お水の世界も波瀾万丈、クセつよ、天然、変人…、まぼさんの立ち回りは見ものです。
手にする金額に比例して、成長させてくれるのがバイトの醍醐味(だいごみ)。働くって尊い。本書を読めば、明日への活力がわいてきますよ。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。