2000年4月1日から、6歳未満の幼児を車に乗せる際にはチャイルドシートの使用が義務付けられています。しかし実際には、「近い距離なら問題ない」「そんなに厳密に守らなくても」といった意識でルールを軽視する親もいるのが現状です。それがいつか取り返しのつかない事態を招くかもしれないことを忘れてはいけません。
夫婦間の衝突が原因で、息子の命を危険にさらしてしまったという野田由加里さん(仮名・20代)。その家庭で起きた実体験が、私たちに保護者としての責任とルールを守る重要性について深く問いかけます。
教育熱心すぎる妻と、奔放に子育てしたい夫の衝突
由加里さんは結婚するまで子どもの教育についてじっくり考えたことがなく、のびのびと育ってくれればいいと思っていました。けれど妊娠をキッカケに自分の人生を見つめ直し、小さいうちから礼儀やマナーについて教え、英才教育をすることも大事だと思いはじめます。「約束やルールを守ることも大切だと子どもたちに教えていたのですが、夫は自由奔放だった昔のまま。そして、『お前は厳しすぎる!』『子どもは自由に育てるのがいちばん』だと主張するため、事あるごとに大ゲンカに発展していました」

「ママ、鬼みたいで怖いな。鬼ババァだな」
「自分のやっていることが教育虐待のようになっていると気づいて英才教育を断念したのですが、夫は、自分の意見が通ったと思ったようです。その頃ぐらいから以前にも増して、『親は放任主義で、自由奔放な子育てこそ正しい』などと豪語。息子にもそう言い聞かせていました」さらに約束やルールを守らない息子を叱っていると「ママ、鬼みたいで怖いな。鬼ババァだな」などと茶化してくる始末。そのためか息子は、5歳を迎えるあたりから夫の真似をして「鬼ババァ」などと言うようにもなり、どうにかしなければと頭を悩ませることになります。
「そんなとき、夫と息子と3人で遠出することになりました。休日は近くの公園へ行ったり家でゲームをしたりすることが多く、食材などの買い物は私が仕事帰りに息子と2人で済ませることが多かったので、3人でのドライブは久しぶり。息子も大喜びでした」
「チャイルドシートには座らない!」息子がダダをこねて……
ところが、由加里さんと2人だけのときは大人しくチャイルドシートに座っている息子が、「(チャイルドシートには)座らない!」とダダをこねはじめます。「危ないから座って」と説得する由加里さんを、夫がいつものように茶化します。
運転席には夫、後部座席には息子と由加里さんが着席し、どうにか出発。息子はチャイルドシートに乗らず後部座席でしばらく機嫌よくひとり遊びをしていましたが、信号待ちから発進しようとしたとき、「おしっこ」と言って何を思ったのかドアに手をかけてしまいます。
車のドアから息子が転げ落ちてもおかしくなかった
「嫌な音というか、風圧が変わったような妙な感じとともに血の気が引いているのがわかりました。半ドア状態で止まったため助かりましたが、夫はチャイルドロックもかけていなかったので、ドアが開いて息子が転げ落ちていてもおかしくなかったと思います」いつの間にか震えていた手で息子を抱きしめると、勝手に涙がこぼれてきたという由加里さん。
「でもこれは、息子に何もなかったから収まったようなもの。何かあったら一生許せなかったし、自分のこともずっと責め続けていたと思います。たとえ誰かとケンカになったとしても、子どもの命にかかわることは絶対に妥協してはいけないと強く思いました」
チャイルドシート未着用での死亡事故も
2000年4月のチャイルドシート使用義務化から25年が経ちますが、「少しの間だから」「自分がしっかり運転すれば大丈夫」という気持ちから使用せず、交通事故で大切なわが子をうしなうケースも起きています。親が社会のルールに従って子どもを守ることも、大切な子育てのひとつといえるでしょう。<取材・文/山内良子>
【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意。