鈴鹿さんは2000年生まれの25歳。数々の映画・ドラマに出演を重ねる若手実力派ですが、ここ数年仕事に対する意識に変化があったとか。映画『花まんま』で経験したことも含め、人気俳優の現在に迫りました。
「本当に良すぎて何度も泣いた」

鈴鹿央士(以下、鈴鹿):素晴らしかったです。僕、自分が出た作品で泣くことってほとんどないのですが、この映画は本当に良すぎて、何度も泣きました。
台本があるので撮影したシーンは自分でも内容を分かっているのですが、それ以外の部分を観て、「ここでこんなに感動してしまうのか……!」という新しい発見がありました。
――確かに、未見のシーンがありますからね。
鈴鹿:たとえば、僕は物語をずっと「兄やん(鈴木)とフミちゃん(有村)と自分」の側で読んでいたんです。でも、酒向芳さんのお芝居を観て、この家族の物語の“別の側”からも強く心を動かされました。「ああ、こんなにも絡み合っている物語だったんだ」と改めて思わされました。
一方で、自分の想像力にもう少し頑張ってほしかったなとも思いました。でも、酒向さんのお芝居がすごかったからこそ、そう思えたんです。心から良い作品に出られてよかったと感じました。
鈴木亮平、有村架純はまさに“理想の俳優像”

鈴鹿:本当に素晴らしいお二人でした。どんなふうに台本を読んでいるんだろうとすごく気になったんです。僕が『花まんま』の台本を読んで、150%頑張って理解したつもりでも、もっと人生経験がある方からしたら、僕の理解度って60%、50%くらいなのかなと。
結婚や人生のいろいろなことって、演じる側としては理解しなきゃいけないけれど、実際に経験している方と比べたら、また違う考え方になってしまうと思うんです。もちろん観る人は結婚経験がなくても楽しめる作品ですが、演じる立場としてはもっと理解して挑みたいなと思いました。
――なるほど、おふたりの理解度に驚いた。
鈴鹿:そうなんです。お二人には何が見えているんだろうって。そして、実際に現場で一緒にお芝居をしたときの空気感が、僕が「こうありたいな」と思う俳優像が、まさにお二人でした。あと、これは僕自身の話ですが、もっと年を重ねてからもう一度この映画を観たい、台本を読み直したいと心から思ったんです。ネガティブな意味じゃなく、人生経験を積むことで、きっと受け取るものが変わるはずだと。だからこそ、今の自分にできるすべてを出し切ろうと思って臨みました。
もっとも注目してほしいシーンとは

鈴鹿:個人的には、やっぱりスピーチのシーンです。結婚式を挙げる側という自分が経験したことのない状況で、お兄さんのスピーチを聞くわけですが、その言葉の中にアドリブもあり、本当に胸に届いたんです。
また、電車でのお兄さんとフミちゃんの小さい頃のシーンも印象的でした。駅のホームで見せるお兄ちゃんの愛情が感じられて、「ああ、頑張ってるな」と思いました。ただ、人によってグッとくるタイミングは違うと思います。でも僕にとっては、やっぱりスピーチの場面が大きかったです。
――そのシーンは、役としての気持ちとご自身の感情、どちらが強かったのでしょうか?
鈴鹿:あれは完全に太郎としての気持ちでした。お兄さん、そして奥さんになる妹・フミ子さんとの関係。自分がこれまで経験してきたことが映像として残っていて、そこに重なる言葉が流れてくる。そうなると、もう完全に太郎としてその場にいる感覚でした。
鈴木亮平との共演で得た学び

鈴鹿:お芝居において、監督の演出をどう受け取るかという部分は、すごく勉強になりました。
たとえば、「もう少し楽しそうにしてみて」と言われたときに、以前の自分だったら「楽しそうにしなきゃ」と感情だけを足そうとしていたと思うんです。でも、そうではなくて「なぜこの役はここで楽しいと感じるのか」をちゃんと考えなきゃいけない。
それを教えてくださったのが、亮平さんでした。「外側から見える“楽しい”を表現するのではなくて、内側にある感情から“楽しい”を生み出す」という、そのアプローチにとても感動しました。
――この映画、まだ知らない方に説明するとしたら、どのようにアピールしますか?
鈴鹿:一言で言うなら、「兄妹愛と家族愛、そして“自分じゃない誰かとの関係”を描いた映画」だと思います。血のつながりだけじゃなくて、いろいろな人との関係性が丁寧に描かれていて、誰かの人生に寄り添うような作品です。だからこそ、たくさんの方に観ていただきたいです。
何事もやりすぎないようにしよう

鈴鹿:ひとつひとつ丁寧に取り組みたいです。作品の規模的にも役柄的にも大きくなり、責任も大きくなったと自分の目線でも感じます。より一個一個、丁寧に向き合っていかないといけないですが、まだまだチャレンジして、いろいろな新しいことに手を伸ばしていければいいなと思います。
――そう思われるにいたった、何かきっかけがあったのですか?
鈴鹿:先輩たちと話していて思ったんです。先輩からは「まだあまり重く考えなくてもいいよ」ともおっしゃっていただきました。ただ、少しずつキャリアを重ねていくと、関わる方もお世話になった方も増えていきますし、自分の責任って、作品に対するもの以外も大きくなっていくなと。今活躍されている先輩方は、とてもいろいろなものを背負ってお仕事されているんですよね。
なので今の僕は、そういう先輩方と比べるとまだまだですが、自分が関わって来た方たちはたくさんいますし、感謝している方もたくさんいるので、そういう意味でも責任は大きくなっていくのだとここ2年くらいで思うようになりました。

鈴鹿:何事もやりすぎないようにしようと思っています。思い浮かんだことをすべてやっていると、自己満足なお芝居になってしまうので。相手もいますし、大袈裟なお芝居になると、見ている方も「え!?」となってしまいますよね。自分を出したくなる、やりたくなる時があるので、バランスを見ながら考えて抑えたりしないといけないなと思います。
なので、しっかりその場にいたいと思います。それこそ今回、亮平さん、有村さん、酒向さんたちのお芝居を見て、その場にその役、その人間がいる説得力に驚かされました。撮影が終わって家に帰って考えると、あの時すごかったなとなりました。僕もそうやって役を体現できる人になりたいなと思っています。
<取材・文/トキタタカシ 撮影/塚本桃>
【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。