現在放送中の『あんぱん』でも、数年後にはさまざまな作品で主役をバンバン張っていそうな雰囲気を漂わせている役者がいる。主人公・柳井嵩(北村匠海)の弟・千尋役を務める中沢元紀(なかざわもとき/25歳)もその1人だ。中沢の魅力を掘り下げていきたい。
文武両道の優秀な弟は、幼少期からずっと兄思い
本作の第1~2週は嵩たちの幼少期が描かれており、中沢は登場しない。幼少期の千尋(平山正剛)は小柄で身体が弱く、いつも嵩の後ろをついてくるような子どもだった。しかし、3週目になると成長した千尋、もとい中沢が登場するとあらビックリ。嵩よりもガッシリした見た目をしており、名前がわからなければ成長した嵩のほうがよっぽど千尋に見える。
視聴者をスカッとさせてくれた一言
中でも印象的だったのが第17回での一幕。母・登美子(松嶋菜々子)の“策略”によって医者の道に進まされそうになる嵩に対し、千尋は「ずいぶん前に捨てたと思うちょったら、急にまた戻ってきて母親面して」「兄貴はあの人に利用されゆうがよ。兄貴だって本当はわかっちゅうハズや」と言い放つ。
野球ドラマでしなやかな投球見せた、器用な役者
思い返せば、千尋は一貫して良いやつムーブしか見せていない。『あんぱん』の中でこれだけ千尋に注目したくなるのは、俳優・中沢元紀の演技力があってこそだろう。柔道有段者であることに納得感を与える183センチの長身。短髪にすることで聡明な印象が一層増した顔立ち。千尋というキャラのビジュアルにぴったりハマっている。
気持ちを隠して、空気を読む演技が“絶品”
そんな中沢の器用さは、『あんぱん』でも遺憾なく発揮されている。嵩からは「ここにもらわれてきてから、おじさんとおばさんの顔色ずっとうかがって、優等生になって」、伯父・寛(竹野内豊)からは「おまんは我慢しすぎる。
千尋はのぶに気があるような雰囲気を見せており、第33回でのぶの妹・メイコ(原菜乃華)に恋心を悟られるも、うまく周囲には隠している。この千尋の繊細な心の揺れ動きを、中沢は表情や目線でもって巧みに表現している。だからこそ、千尋の気持ちを思うとより強く心が動いてしまい、寛と同様に「わがままになってほしい」と望んでいる自分がいた。
※以下、これからの展開に関する史実に触れています。ネタバレにご注意ください。
千尋を思うと切なくなる「もう一つの要因」
千尋のことを思うと切なくなる要因は、兄に気を使って自身の恋心に蓋をしている健気な姿だけではない。本作の柳井千尋のモデルになった、やなせたかし氏の弟・柳瀬千尋さんは、若くして戦死している。
昨年の朝ドラ『虎に翼』でも優三(仲野太賀)や直道(上川周作)が戦死した時には、登場人物だけでなく、多くの視聴者も悲しみに打ちひしがれた。千尋も“良いやつ”として存在感を増している登場人物だけに、退場する時にはロスになる人も少なくないはずだ。今後の展開はわからないが、中沢が演じる千尋を1話1話、目に焼き付けておきたい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki