復帰作ではどんな役柄を演じているか。恐ろしいくらい研ぎ澄まされ、魅力的な殺人者役。視聴者誰もがその虜になってしまう。
その魅力の秘密は、現在の成宮寛貴が、明確に清濁あわせもつ俳優になったからだと思う。男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が解説する。
成宮寛貴にとって絶好のカムバック作品

声の持ち主は、本作『死ぬほど愛して』で8年ぶりに俳優活動を復帰させた成宮寛貴である。低音による暗い声のトーンは、第1話冒頭場面の導入ナレーションとして、作品のダークな基調を決定づけている。
深い地底世界に潜り込み、時間をかけて地上世界までやっと響かせたという感じのその声。凄みがある。2016年に芸能界を引退した成宮寛貴にとって、これは復帰までの期間を滋味深く感じる絶好のカムバック作品だと思う。
劇薬のように怪しげな殺人者

殺人者と野心的なビジネスマンである優しい夫というふたつの顔をもつ神城真人(成宮寛貴)は、洋菓子店に勤務する妻・澪(瀧本美織)と暮らしている。妻が作る朝食が並ぶ食卓を囲み、出社する夫を送り出す。一見、どこにでもいる幸せそうな夫婦である。
でも、真人が冒頭場面の暗く重い声色の人であることを忘れてはいけない。しかもこの夫婦には、前の夫から暴力を振るわれた澪が自殺しようとしていたところを間一髪、真人が救い、結婚した経緯があるのだ。
スマホ画面に照らされる一瞬の狂気

澪の疑念が深まる夜。
澪は夫の不倫を疑っている場合ではない。彼は殺人者なのだ。洋菓子店に関連する事件が並行する中、真人による具体的犯行場面が描かれずとも、彼が殺人者であることは明白。第3話でやっと真人の犯行場面が視聴者にだけは明かされる。視聴者もある種、共犯関係かのようなスリリングなドラマ構成である。
清濁あわせもつ俳優として

かと思えば、筒井真理子演じる愛人との逢い引きは朝か昼の場面なのに、明るい光の中で成宮がにじませるさわやかさと狂気が見事にとけあう。
成宮演じる主人公が、大学生から社会人にかけてアルコール依存症に身をやつしていく主演映画『ばかもの』(2010年)もそうだった。大学時代の友人と再会する場面で、早朝の薄明かりと間接照明が同居する室内で、その後依存症になっていくことを明示する一瞬の表情変化が印象的。
復帰作となる『死ぬほど愛して』では、そうした特性をよりわかりやすく提示して、清濁あわせもつ俳優として再スタートした感じだ。
<文/加賀谷健>




【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu