5月14日に発売された星野源のニューアルバム『Gen』。その広告展開が議論を呼んでいます。


「バカにしてる」星野源のユーモア広告に批判殺到!隠された“お...の画像はこちら >>

町内会風ポスターに「巨大企業が宣伝に使うのはダメだろ」

問題とされているのは、株式会社バーグハンバーグバーグが制作した町内会のお知らせ風のポスター。「星野源さんの曲を聴いてたのしく踊りませんか♪」というコピーに昭和感あふれるイラストと字体を組み合わせた、ユーモラスなデザインです。

これが戸越銀座商店街の案内所入口と横浜市鶴見中央の公共掲示板に掲示されたことが明らかになると、一部から「巨大企業が日本中で売るCDの宣伝に地域の掲示板を使うのはダメだろ」や「ちょっと市民の掲示板をバカにしてる」といった批判の声が上がりました。

「たった二ヶ所」大げさな反応に疑問の声も

一方、そうした意見を過剰反応だと見る向きも少なくありません。「たった二ヶ所にだけ出稿されたポスター広告が、いったい、誰の、どんな権利や尊厳を傷つけるというのだろうか」や、公共の掲示物のことを“私が守ってあげないといけない天然記念物”のように大げさに訴えかける人々への疑問も、多くの共感を集めています。

筆者は、キャンペーン自体に特段問題があるとは思いません。これが23区内すべての公共掲示板をジャックするとかだったらさすがにまずいけれども、極めて限定的な規模で行政の許可も得ているのであれば、かわいらしいお遊び程度の話でしょう。

問われるべきはユーモアの表現方法

けれども、このポスターが反発を招くのも、少しだけ理解できます。あのあざといアナログ感が鼻につくと感じる人がいても不思議ではないと思いました。

それは、批判されているプロモーション戦略云々ではなく、むしろ最近の星野源のおしゃれな音楽性によるところが大きいのではないかと思うのです。つまり、問われるべきはユーモアの表現方法なのです。

今回のアルバム『Gen』は、とても先進的なポップスです。海外のマニアックな音楽を取り込みつつ、シンガーソングライター星野源の内省を、より実験的に深掘りした仕上がりになっています。大ヒット曲「SUN」や「恋」のような国民的ポップスター路線とは異なり、世間一般に浸透している親しみやすい「星野源」像からは距離を置いた実験的かつ最新型のサウンドです。


当然、その新しい作風と、地域のお知らせ的なアナログ感、そして昭和のご近所感の古臭さはマッチしません。それを分かったうえで、あえて“面白い”ものとして打ち出したことが、今回の広告メッセージの核なのだと思います。

広告代理店的なユーモア装飾で、音楽の価値が正確に届かない

「バカにしてる」星野源のユーモア広告に批判殺到!隠された“おごり”が反発の根本原因であるワケ
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しかし、見る人によっては、その意図の中に“星野源が他のJ-POPとは一線を画している”といった驕(おご)りを感じるのではないでしょうか。ポスターの素朴なロゴの裏側には、『Gen』がいかに多くの創意工夫と鋭いアンテナによって作り上げられたかという反語的なメッセージが込められているのです。

それをストレートに伝えるより先に広告代理店的な“スマートな”ユーモアで装飾してしまったために、結果として音楽の価値を正確に届ける手段を失ってしまったとも言えます。それこそが、今回の『Gen』広告プロモーションの最大の失敗と言えるでしょう。

もちろん、とにかくSNSでバズらせないことには広告効果が望めない世知辛(せちがら)い現実もあります。けれども、このような形で拡散したところで、アルバムの売り上げにどの程度の影響を期待できるのでしょうか?

理想論かもしれませんが、音楽の価値を分かりやすく正確に伝える地道なプロモーションが、最終的には勝つと信じたいところです。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。
Twitter: @TakayukiIshigu4
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