『アンパンマン』の生みの親であるやなせたかしさんと妻・暢(のぶ)さんの夫婦をモデルにした、連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)。ストーリーもさることながら、アニメ『それいけ!アンパンマン』(日本テレビ系)の声優陣がサプライズ出演することも注目ポイントになっている。


声優たちの登場で、朝のSNSが大盛り上がり

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 4月9日放送の第8回では、しょくぱんまんの声優を担当している島本須美が、朝田家にあんパンを買いに来た近所の人たちの1人・大出加子として出演。5月19日放送の第36回では、ばいきんまん役でお馴染みの中尾隆聖が、朝田のぶ(今田美桜)が教師として赴任した母校・御免与尋常小学校の校長・古山時三役で出演した。島本も中尾も登場した際の反響は凄まじく、X(旧Twitter)でもトレンドワードに浮上するほどの盛り上がりを見せた。

 校長役の中尾はその後もちょくちょく登場しているが、決してメインどころではない。恐らく、島本も今後登場する可能性は低い。その一方で、柳井嵩(北村匠海)が通う芸術学校の教師・座間晴斗として、2代目ジャムおじさんやチーズ、カバオくんなど、いろいろな役を担っている山寺宏一も登場している。

楽しむことを恐れない、山ちゃんの存在感

 山寺宏一演じる座間は、スランプに苦しむ嵩に寄り添うなど嵩の恩師として存在感を発揮。中でも印象的だったのは第27回でのカフェでの一幕だ。

NHK朝ドラが、声優たちを“俳優として”重宝する「深い理由」。悲しい展開続く『あんぱん』での効果は
NHK『あんぱん』
 座間と嵩が「ワッサワッサワッサリン」といった謎の歌詞が並ぶ、図案科に伝わる歌を楽しげに歌っていると、入店した軍人から「ふざけた歌はやめろ。うるさくて話ができん」と水を差される。気まずい空気が流れる中、座間は「わが校の図案科で歌い継がれた名曲ですよ」と反発。「もういっぺん頭からいこう」と言って再度歌い始めると、「やめろと言ったらやめんか」と声を荒げる軍人に、「やめん」と言い返す。

 舞台は戦時中のため、何かを楽しむことが“不謹慎”とされる空気感が蔓延している。さらには、兵隊にとられる可能性と隣り合わせで、個人としての自由もない。
そんな状況下でも、軍人に歯向かい、何かを楽しむことを恐れず、自由を標榜する座間の姿勢はカッコ良い。嵩の考え方に多大な影響を与えている存在であり、今後も出番は多そうだ。

NHK朝ドラが、声優たちを“俳優として”重宝する「深い理由」。悲しい展開続く『あんぱん』での効果は
NHK『あんぱん』
 なんにせよ、登場頻度に関係なく『それいけ!アンパンマン』に出演している声優が出ると、ついついテンションが上がる。今後も他の声優が『あんぱん』に出演する可能性は十分にあると思われ、そこを楽しみに視聴したくなる。

『虎に翼』や『なつぞら』でも。俳優として活躍する声優たち

 朝ドラに俳優として出演する“朝ドラ声優”は『あんぱん』に限らず、他の作品でもちょくちょく見かける。昨年の『虎に翼』では、主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)の親友・花江(森田望智)のお手伝いとして働く稲役として、『ワンピース』(フジテレビ系)のルフィ役など、多くの人の記憶に残るキャラを担当してきた田中真弓が登場。

NHK朝ドラが、声優たちを“俳優として”重宝する「深い理由」。悲しい展開続く『あんぱん』での効果は
『連続テレビ小説 虎に翼 Part1 (1)』(NHK出版)
 稲は戦時中に親戚が住む新潟に帰郷して、一旦退場したかに思われたが、その後寅子が新潟地方・家庭裁判所三条支部に赴任した際に再登場して視聴者を驚かせた。

 また、『虎に翼』では寅子の父親・直言(岡部たかし)が社長を務める会社「登戸火工」の従業員・重田として、『名探偵コナン』(読売テレビ・日本テレビ系)のアガサ博士役でお馴染みの緒方賢一も出演。重田の声があまりにアガサ博士だったため、一瞬で重田が緒方であることに気付き、その時の興奮に今でも鮮明に覚えている。

『虎に翼』以外にも、『らんまん』(2023年)の宮野真守、小野大輔、『なつぞら』(2019年)の沢城みゆき、高木渉など、朝ドラに声優が出演するケースは枚挙にいとまがない。

声優が出演するメリットは「朝ドラだからこそ」

 そもそも、最近は声優が俳優として実写ドラマや映画に出演するケースが増えており、朝ドラに限った話ではない。アニメ業界と映像業界の垣根が薄れつつあり、業界全体の流れとして声優は「声のプロ」以上の多才なパフォーマーとしても注目されている。


 それでもやはり、「朝ドラに」声優が出演することの効用は大きい。というのも、朝ドラは一般的なドラマより、シリアスパートが多い傾向がある。大切な人との別れなど視聴者のメンタルをえぐる展開も珍しくなく、視聴するのがしんどくなる瞬間にも直面しやすい。そこで声優が大きな役割を果たすのだ。

NHK朝ドラが、声優たちを“俳優として”重宝する「深い理由」。悲しい展開続く『あんぱん』での効果は
NHK『あんぱん』
 声優は当然声が特徴的であり、“普通の役者”とは声のトーンが微妙に違う。だからこそ、声優がセリフを発することで、良い意味で“異物感”を与え、作中の空気を緩和しているように感じる。視聴者に親しみや懐かしさによる安堵感を生み出し、それが感情のバランスを取る役割を果たしているとも言えるだろう。

 対照的なのが、TBSの日曜劇場に登場する歌舞伎界や狂言界のトップランナーたちだ。『半沢直樹』シリーズの大和田暁役の香川照之、『アンチヒーロー』の伊達原泰輔役の野村萬斎をはじめ、彼らが“ボスキャラ”や“敵役”を担うケースが目立つ。ところどころ伝統芸能特有のニュアンスが入ったセリフ回しや表情が入ることで、ピンと張りつめた緊張感を作品にまとわせている。

アンパンマン役の戸田恵子も登場するのだろうか

 朝ドラでほぼ避けられないヒリヒリ感を抑え、視聴者の負担を軽減する役割を担う、声優たち。なにより、「アガサ博士じゃん」「しょくぱんまんの声優さんが出てたんだ」と知るだけで、凄惨な展開が起きたとしても、どこかほっこりさせられる。
幼少期からお世話になっているアニメに出演していた声優だからこそ、与えられる安心感なのかもしれない。

 今後『あんぱん』に出演する朝ドラ声優は誰なのか。アンパンマン役の声優であり、俳優として『なつぞら』(2019年)に出演していた戸田恵子も、いつか登場してくれるだろうか。物語の展開に注目するとともに、あっと驚く声優の登場にも期待したい。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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