2010年にTBSに入社し、『朝ズバッ!』『報道特集』などを担当したのち、2016年に退社したアンヌ遙香さん(39歳・以前は小林悠として活動)。

亡き祖母の「40年前の日記」を発見。その内容に胸がいっぱいに...の画像はこちら >>
 TBS退社から8年経った今年、紆余曲折を経て20年生活した東京を後にして活動拠点を故郷北海道に戻したアンヌさん。
アラフォーにして再スタートを切った「出戻り先」でのシングルライフの様子や心境をつづる連載です。

 第36回となる本記事では、アンヌさんが“亡き祖母の部屋”で見つけたあるモノについて、綴ります(以下、アンヌさんの寄稿)。

私が暮らすのは亡き祖母の部屋

 整理整頓やモノの手放しにより、家の中がすっきりするのは確か。私も「捨て活」は結構好きなほうですが、モノそのものが持つ力って、なんだかんだやっぱりあるよねと再認識した出来事があります。

 私は現在、故郷札幌でゴールデンレトリバーとともに暮らしていますが、生活しているのは実家。亡き祖母が暮らしていた空間。

 札幌に帰ってきた当初は完全なる物置部屋と化していて、なかなかのお金をかけて大清掃および不用品の整理をしましたっけ。そんな大整理もだいぶ落ち着き、日々穏やかに過ごしていますが、押し入れの奥底や、年代物のタンスの奥のほうはまだ手付かずのものがあったりします。そんな中、先日偶然発掘したのが祖母の日記帳でした。

 人様の日記というのは大変プライベートなものであり覗き見るなんてとんでもないというのは重々承知です。私が見つけたものは1985年のスケジュール帳を兼ねた一言日記のようなもの。祖母の心境の吐露があからさまに……というものではありませんでしたので、今回はご容赦ください。

祖母の日記の中に見つけた「女児誕生」の文字

亡き祖母の「40年前の日記」を発見。その内容に胸がいっぱいになったワケ|元TBSアナ・アンヌ遙香
祖母の部屋で見つけた日記
 表紙には1985年とあり、1985年前後の祖母の予定や、亡き祖父の体の調子などがスケジュール管理とともにポツポツと記されていました。雪の結晶の研究者であった祖父は家族中の尊敬を集めており、私自身も大切に思っている存在ですが、残念ながら祖父についての記憶がありません。


 というのも、祖父が難しい病となり闘病を始めた時期と私が生まれた時期はちょうど重なるのです。その様子が祖母の日記には記されていました。

〇月〇日、パパだるそう

〇月〇日、◇◇さんからカニをいただく。パパ半分も食べられず

 祖父が少しずつ体調を崩し、いよいよ入院生活が始まり、パパ(祖父)が不在の中、家の中で一人過ごすようになった祖母が寂しさを抱えていた様子までほんのりと浮かんできたのでした。

 そんな中で、

1985年9月26日、女児誕生。母子ともに健康

 の文字が。女児というのは私のこと。

今までわからなかった「生まれた時間」も判明

亡き祖母の「40年前の日記」を発見。その内容に胸がいっぱいになったワケ|元TBSアナ・アンヌ遙香
アンヌ遙香
 ここでちょっと話が変わりますが、女性の方はよくおわかりかと思いますが、星占いをプロにお願いした際、何月何日どこで生まれたという情報のみならず、生まれた時間も実は大事だったりしますよね?

 私も人並みに占いが好きですが、長年自分が生まれた正確な時間というのがわからなくて困っておりました。

 母子手帳に書いてあるとのことですが、母曰く母子手帳どこにしまったのかわからないとのこと。なんとなく夜だったような気がするけど……くらいな感じで、私はウン十年も自分が生まれた正確な時間がわからないまま過ごしていたのです。

 しかし今回祖母の日記にしっかり、9月26日何時に病院に入り、そして何時何分に無事生まれた。そして体重まで、克明に記してあったのです。

 その後、時折現れる「はるかちゃん」の文字。


〇月〇日 寂しいと伝えると、はるかちゃんとA子(私の母)が泊まりに来てくれた

〇月〇日 アメリカへ旅立つ前に成田空港から娘たちが電話をくれる。その時、はるかちゃんが電話口で「ハイ!」と確かに口に出す

〇月〇日 はるかちゃん日に日に可愛くなる

 などなど。照れ臭くも、私のことをしっかり慈しんでいてくれた様子が、ありありと伝わってきたのでした。

自分の誕生を喜び、大切に記録してくれていた事実

 たまたま見つけた日記帳。私は特におばあちゃん子でしたので、お習字の先生だった祖母の達筆な文字を見るだけで、懐かしさがこみ上げてきました。

 自分が誕生したことをこんなふうに喜んでくれて、自分の一挙手一投足を大切に大切に記録してくれていた事実に胸がいっぱいになりました。

 親族が亡くなった際の遺品整理は昨今、社会問題化しています。一つ一つ中身をチェックしていると大変だしキリがないから、完全にプロにお任せをして、中身を確かめることもなく処分をお願いするなんて話も耳にします。

 万が一私がその選択をしていたら、この日記帳はあふれるほどの家財と一緒に処分され、誰にも気づかれることなく灰と化していたに違いありません。

 紙は虫もつきやすいし、とっておきたいのだったら写真を撮り、それをデータ化して置いておけば良いのだという説もあります。もちろんそれもありです!

 ただ私、今はそれ、できないかも。

 日記帳にしみついたちょっとカビくさいような香り。
ペラペラの紙の質感。

 本物の触り心地がもたらす懐かしさには、かなうものはないと感じています。

 年代物のモノクロ写真もそう。私は祖母の花嫁姿を収めたモノクロ写真をフォトフレームに収め、この日記帳とともに宝物として飾っています。

 モノに埋もれ、生活するための足場もないといった状況だったら、それは確かに考えものではありますが、実はモノそのものが与えるパワーやエネルギーというものを、もっと私たちは見直しても良いのではないかと感じたりしています。

 大人になっても、自分が確かに愛されていたということを感じさせてくれるモノがこうして存在することに感謝。たとえ人と人が離れ離れになっても、モノがつなげる絆ってあるのではないでしょうか。

<文/アンヌ遙香>

【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道札幌出身、在住。現在はフリーアナウンサーとしてSTV「どさんこWEEKEND」メインMCや、情報番組コメンテーターして活動中。北海道大学大学院博士後期課程在籍中。文筆家。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。
Instagram: @aromatherapyanne
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