冷静に見たら、気が散るくらい風変わりなバレエ男子たちの生態。なのに、とびきり魅力的に写る。本作のバレエマジックがある。バレエ初挑戦の戸塚に対して、作品全体の監修と指導を担当したのは、世界的バレエダンサー草刈民代。
監修者による秘技を得て、戸塚純貴史上もっとも背筋がピンとした作品となった本作の魅力とは? 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が解説する。
クスッと意外性がある配役

意外性と同時にクスッと感もある。もちろんバレエは初挑戦。だからこそいつものようにコミカルな方向でまとめあげ、自分が得意とする領域に引き寄せるのかどうか。意気込み十分、新たな役柄を得て挑む第1話冒頭、やっぱり戸塚純貴は戸塚純貴である。最高だ。
戸塚演じる主人公・小林八誠が所属する小森川バレエ団の練習風景。
チャイコフスキーと戸塚純貴という、これまた意外性ある組み合わせ。でもここでもしっかりクスッとさせてくれる。この緩急、弛緩と緊張のバランスが絶妙過ぎるんだよなぁ。
とっておきのバレエ喜劇

八誠曰く「我々男性ダンサーのイメージなんて、まずはもっこりだったり」。本作のタイトルでもある“バレエ男子”を説明するのに、このキーワードなのか……。2014年に公開され、ミニシアター界隈で話題になった、大真面目なバレエ男子たちのドキュメンタリー映画『バレエボーイズ』では、もちろんそんなワードは説明されていなかった。
いやいや、『バレエ男子!』が真面目でないわけではない。自分大好き超ナルシストなバレエダンサーである八誠役を水を得た魚のようにコミカルな存在として浮き上がらせるためには、これくらいのキーワードは必須ということ。そういうワードの扱いは朝飯前だという感じで、戸塚のやわらかな表情とモノローグに託せば、とっておきのバレエ・コミック(バレエ喜劇)がほとんど自動的に生成されるというわけ。
本作のバレエ監修と指導を担当する草刈民代

第2話冒頭、3人対3人で向かい合う女性たちを前に、八誠とバレエ団の先輩・守山正信(大東駿介)と同期ダンサー・佐々木真白(吉澤要人)が、すっとんきょうな自己紹介で、さっそく酒席を興醒めさせる。
女性たちのひとりが怪訝な顔をして「てか、三人ともなんでそんな姿勢がいいんですか?」と鋭く聞く。八誠は自分たちがバレエダンサーだと知られたらより風変わりな存在だと思われると懸念していたが、職業柄姿勢のよさだけは隠せない。
こうしたシチュエーションはバレエダンサーあるあるなのかはわからないけれど、でもぼくも10年近く前、ある食事会で実際にバレエダンサーを目の前にして座っていたとき、彼らにとっては普通のことである姿勢のよさに目を見張ったものである。ドラマ内の女性質問者による率直な反応に少なからず共感したのは、食事会で座っていたそのバレエダンサーが、何を隠そう、本作のバレエ監修と指導を担当する草刈民代だったからでもある。
戸塚純貴史上最も背筋がピンとした作品
本作が放送されているドラマフィル枠公式SNSには、草刈から手取り足取り指導を受ける戸塚の姿を捉えた現場映像がアップされている。画面前景に草刈と戸塚。後景に台本をもったスタッフたち。バレエ練習と撮影現場の確認作業が今まさに渾然一体となるこの風景からは、ここからバレエ喜劇が生まれるんだという臨場感が伝わる。あるいは、草刈民代公式Instagramには「3週間目にはここまでの動きができるように!」というキャプション付きで、「チャイコン」に合わせて戸塚がバレエ練習に励む動画がアップされている。
こちらの画面では戸塚が被写体となり、フレームの外から指導する草刈の声が聞こえる。ドラマ本編でもフレーム外の存在として監修にあたるわけだけれど、実際の画面に写るバレエスタジオの熱気みたいな有機的空気感には、たしかに監修者の熱い視線が宿っている。
驚くべきことに、草刈は監修と指導だけではなく、映像自体の編集にも関与しているという。
『キエフ・バレエ支援チャリティー BALLET GALA in TOKYO』(2022年)など、近年の重要なバレエ仕事も深く記憶されている世界的バレエダンサーである草刈民代だからこそ、見定められるアングルがある。
朝ドラ『虎に翼』(NHK総合、2024年)で誠実な豪快キャラを演じた戸塚もやけに姿勢がよかったが、本作ではさらにバレエ的魔法のアングルとポジションという秘技を得て、端的で魅力的な戸塚純貴史上もっとも背筋がピンとした作品になった。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu