35歳からの終活を描いたマンガ『ひとりでしにたい』も、雑誌連載当初から、「身につまされる」「終活についてマジメに考えるようになった」「30代以上は全員読むべき」と評判で、綾瀬はるかさん主演のドラマが6月からNHK総合テレビで始まりました。

その後、読者の支持を受けて連載は続き、およそ1年後には2021年文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞、そして現在の豪華キャストで実写化という輝く未来が待っているのですが…。
名作に歴史アリという目線で、約5年前のコロナ禍当時、継続のピンチだった、カレー沢さんご自身による作品解説をご覧ください。
(以下、カレー沢薫さんに2020年5月にご執筆いただいた寄稿です)
自分の作品を自分で解説しろという仕事が来た
「作品解説をしてほしい」という仕事の依頼が来た。作品解説とは、文字通り、「この作品のここが面白い」的な解説をしたり、口を極めて罵倒し作者やそのファンに殺害予告をされる仕事である。
以前にも作品解説の仕事をさせてもらったことはある。
私に頼む時点で売る気がないのかなと思うが、正直自分で作品を作るより、お他人様が作ったものにガタガタ言う方が労力的には楽である。
もちろん解説や批評の仕事が楽というわけではない、上記のように恨みを買うこともあるし、作品を正しく批評するには正しく理解する必要があるので、相当の理解力と知識がないと無理である。
バカにしたつもりで己のバカを露呈する可能性も高い、責任が重くリスキーな仕事なのだ。
今回解説させていただくのは「ひとりでしにたい」という漫画作品である。

つまり自分の作品を自分で解説しろという仕事が来た、ということである。
そういうのは、普通他人やってもらうものではないのか。
しかし「自己PR」という言葉もある。
「恥ずかしい」というだけで自薦しても良いはずだ。
この「ひとりでしにたい」は今年3月に1巻が発売したのだが、今のところ2巻で終わる予定である。
これは想定通りの終了という意味ではなく、極めて良くない言葉を使えば「打ち切り」だ。
新刊発売からの1か月がコロナの影響にモロかぶり
売れている作品の解説なら自著でも、時おり総金歯をのぞかせながら「こういう狙いがあったんですよ」と語ることができる。では、打ち切りが決まりかけている作品を推せというのは「この死体の良さを説明しろ」と言われているようでツライ。
仕事を依頼してきた奴はそれを知っているのか、知っているならマルキド・サドの生まれ変わりすぎるし、知らなかったとしたら先を見通す力がなさすぎるので、その仕事向いてないと思う。
ただ、他人の仕事を心配している場合ではない、己の仕事が今まさにピンチだ。

この日にちを聞けばピンとくるだろうが、もちろん黒澤明監督の誕生日だ。
そして、コロナウイルスによる緊急事態宣言が出される割と直前である。
それ以前からも外出は自粛されており、大型書店も休業していたりした、さらに頼みの綱のネット通販も日用品優先で、本は在庫がなくなっても追加納入を受け入れてもらえず、ネットでも買えないという状態だった。
つまり新刊にとって最も大事と言われる発売からの1か月がコロナの影響にモロかぶりしたということである。
故に、重版ラインに届かず、終了を示唆された、という設定だ。
「なるようになる」と考えてしまうのが「老後」そして「死」
正直、コロナがなければ続けられたかはわからない、コロナの中でも売れている本はある以上普通に同じ結果だった可能性はあるが、だからと言って全く同じ結果とも思えないので、あきらめがつかなくて困っている、という状態だ。よって今からでも、連載継続できないかとあがいているし、それに賛同して、わざわざ本屋に行って本を買ってくれた読者もいるので、自分もこんなSMクラブ常連が思いついた変なプレイみたいな仕事でも、宣伝になるなら断るわけにもいかない、と思った次第である。

猫以外テンションが上がる要素が一つもないと思うかもしれないが、私もそう思う。
しかし、テンションが上がらない故に目を逸らし「なるようになる」と考えてしまうのが「老後」そして「死」なのだが、目を逸らすとなるようにならない可能性が高いのだ。
35歳女性が婚活よりも、ひとりで死ぬ「終活」へとシフト
人間死ぬときは1人だし、独居で死んだからと言って「孤独死」などと言って悪い物のように言うのは冒涜(ぼうとく)だし、中にはもう孤独死上等掃除する人マジサーセンという境地の人もいるかもしれない。確かに1人で死ぬことは悪くないが、死後長期気づかれず、溶解人間として発見されれば、家族や家主、周辺住民に物理的迷惑をかけるとし、誰も後処理を引き受けなかったら行政が関わることになり税金が使われるのだから、誰にでも関係がある社会問題である。
すでに迷惑上等な方も、孤独死というのはある日いきなり倒れて即死というものではない。
ゴミだらけの部屋で、誰とも関わらず、肉体的にも精神的にも長く苦しんだ末に孤独死というケースも少なくないのだ。
孤独死は良くてもこの「死ぬまで年単位で苦しむかもしれない」が良いと思えるかはまた別の話だろう。
「ひとりでしにたい」は35歳独身女「山口鳴海」が自身の伯母が「風呂場で孤独死しスープ状になって発見される」というメディアが良く報道するよう「悲惨な孤独死」を遂げたことから、自分は同じ轍は踏みたくないと行動を起こすところからはじまる。

孤独死は独居で起こる、つまり家族さえいれば回避できる、という発想である。
しかしそれは職場の若いエリート「那須田」という男に「結婚すれば老後安泰とかw」と盛大に草を生やされ論破。

孤独死は、死ぬ予定がある人全員関係ある話
一応主人公は独身女だが「結婚すれば老後安泰とか」という煽りの通り、結婚してもパートナーが先に死んだり子どもが出ていき疎遠だったりしたら同じことは起こる。実際孤独死するのは、家族がいない天涯孤独な人ではだけなく「家族がいても孤独な人」もするし、正直孤独じゃなくてもするかもしれないのだ。
つまり「全員する可能性がある」ということである。
孤独死を死ぬ予定がある人全員関係ある話として、読者全員がちょっとでも考えたり準備する気が起こるように、様々なタイプのキャラにスポットを当てて描いていきたい。
そう思っていたが、次巻で終わるかもしれないので、主人公のこともろくに描き切れないと思う。
そんなことは言いたくないし、そうならないように今頑張っているが、いくら「終わる気はねえ」と、伏線を張り続けても、強制的にわけのわからないところで終わるだけなので、超高速風呂敷畳を考えなければいけないのも確かなのだ。

真剣に続けたいと思っている
やはり、終わりを宣告された作品の展望を語るというのはキツイ、狂いそうだ。ただ、描きたいことがたくさんあるのは本当だし、真剣に続けたいと思っているので、興味がある人はぜひ金を出して買って欲しいと思う。
例え終わっても、何らかの形で続けたい、と思ってはいるが、無賃金で漫画を描くことができないのも事実である、狂いそうだ(二回目)。
それでは「死」をテーマにした作品を描くために己が餓死するという、私が今まで描いたどんなギャグよりも面白いことになってしまう。
よって出来たら応援していただければ幸いである。
1話目で「結局男と恋愛、結婚して解決かよ」と怒られた件について
ちなみに1話目で、無礼な若い男は実は主人公に気があるという終わり方をしている。実にご都合主義な展開だが、内容がシビアになるだろうから、恋愛漫画にするつもりはないが、少しぐらい漫画らしいファンタジーを入れた方が良いかなと思ったからだ。

「結局男と恋愛、結婚して解決かよ」と、激怒がメロスされた、原案の人にも「そういうオチはやめたほうが良いと思う」と言われる始末だった。
作者がサービスと思っていれたパンチラが読者に「これが一番いらない」と思われてたというよくある話である。
ともかく、恋愛漫画ではないので、そこに激怒して読むのは止めた人も我慢して続きも読んでみて欲しい、それでも激怒したら、それはすまなかった。
2人の関係も恋愛しないとは言わないが、短絡的なことにはならいようにいろいろ考えているが、考えても何せ描けない可能性が高い。
やはり、終わるかもしれない作品の解説を作者にさせるという仕事は、人の心があるなら出さない方がいいのではないかと思う。
<文/カレー沢薫>
【カレー沢薫】
かれーざわ・かおる
1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』、コラム集に『負ける技術』『ブスの本懐』『やらない理由』などがある