そんな主人公の心の叫びから幕を開ける漫画『マイ・ワンナイト・ルール』(著:なかおもとこ/シーモアコミックス)。総合電子書籍ストア「コミックシーモア」のレーベル「恋するソワレ+」で連載中の同作は、オトナの性欲にスポットを当てたラブコメディです。
今年1月には足立梨花さん主演の同名ドラマ(テレビ東京系)も放送されました。
主人公・成海綾は、シングル歴8年の33歳独身女性。自分の暴走する性欲と理性の狭間で揺れ動く日々を送っています。そんななか、彼女の上司で“バツイチチャラ男”の異名を取る堂島吾郎と2人で飲みに行くことに。
苦い離婚を経験した彼は、当分“恋”をせず、お互いに割り切って性欲を満たす「ワンナイト」を楽しんでいるそう。堂島の話を聞いて選択肢が広がった綾は、性欲を鎮めるために5つの「ルール」を定めてワンナイト成功を目指す……まさに“性サバイバルエンターテイメント”なのです!
そんな話題作『マイ・ワンナイト・ルール』の作者・なかおもとこさんに作品に込めた想いを聞きました。
透明化されている“パートナー不在”女性の性衝動
――現在連載中の『マイ・ワンナイト・ルール』は、オトナの“性欲”を軸にした異色作ですが、発想の原点はどこにあったのでしょうか?なかおもとこさん(以下、なかお):別の出版社の編集さんから“性”を扱った漫画を描いてほしい、と打診されたのがはじまりでした。ただ、そのときはエロチックに寄せてWeb広告の引きになるような漫画を、とのお話をいただいたんです。私としてはより一般の人に向けた大人の恋愛を描きたいと伝えたのですが、方向性があわず実現できませんでした。
とくに当時は、夫婦間のセックスレスを主題にした作品が多く、レスに悩む女性が不倫や女性用風俗に……というストーリーが増えていた時期。多くが、セックスに悩んでいる人にはパートナーがいる前提だったので「パートナーがいない人の性衝動はどうすればいいんだろう?」と考えたのが原点ですね。その後、コミックシーモアでの連載が決まりました。

なかお:テーマは思いつきではありますが、私の周りには趣味や仕事に没頭している独身の友だちが多いんです。そうした周りの環境が、発想に影響を与えた部分もあるかもしれませんね。それに、一般の人の感覚では、不倫や女性用風俗って心理的なハードルがかなり高い選択肢だと思うんです。
女風や不倫とは違うリアルな感情を描く
――たしかに、女性用風俗や不倫までいくと、ドラマや漫画の世界と感じる人は多そう。メディアで取り上げられる機会は増えていても、ごく一部なのかもしれませんね。なかお:そうですよね。読者層の感覚だと、マッチングアプリで相手を探すのでは、と考えて作中でも、アプリを使いました。周りの友人にも聞き込みをしたところ、その子の独身の友人もマッチングアプリでワンナイトのお相手を探していると教えてくれたんです。
その話を聞いて、性の悩みを抱えている人が身近にいる、と知ることができたのも発見でしたね。ただ、そうしたリアルな感情や悩みを活かしつつも、エンターテイメントとして楽しめるように恋愛漫画として描いています。

主人公が定めた「ワンナイト・ルール」の作り方
――物語の核として、主人公が定めた5つの「ワンナイト・ルール」が登場します。このルールはどの段階で作られたのでしょうか?なかお:ストーリーとルールはほぼ同時に作りました。連載を始める前から、このテーマはどんな描き方をしても賛否両論の“否”が大半になると覚悟していて、可能な限り叩かれる要素を減らしたかったんです。それを突き詰めた結果、ワンナイト・ルールが生まれました。

なかお:はい。ルールが存在しない“ワンナイト”の世界を描きつつ、エンターテインメントとして楽しんでもらいたい。そこで、自らワンナイトにルールを設ける真面目なキャラクターを主人公にしたところ、彼女のパーソナリティがより伝わりやすくなりました。
人によって異なる恋愛とセックスの境界線
――そうですね。本作を読むと性欲が暴走している主人公、という文字からは想像できないほど生真面目な綾ちゃんを応援したくなります!なかお:ありがとうございます。彼女は真面目すぎて少し考え方が幼いところがあるかもしれません……(笑)。じつは、人によって恋愛とセックスの境界線が違うことを伝えるのも、今作の裏テーマなんです。
恋愛感情なしのセックスがNGな人もいれば、スポーツ感覚でセックスできる人もいる。なかには、堂島のようにワンナイトであっても「ココロ」を大事にしたいという人もいるはず。そうした登場人物一人ひとりの言動から、何かを感じてもらいたいという想いはありますね。
「絶対に叩かれる」と思っていたが…意外な反応
――読者の方からはどんな感想が届いていますか?なかお:連載開始前は「絶対に叩かれる」と思って臨んだのですが、シーモアの読者は漫画好きな方が多く、純粋に恋愛漫画として楽しんでいただいているようです。想像以上に、綾に共感して「恋愛したくてもできない!」という声が多かったのは驚きましたね。
ワンナイトに興味があっても、それを行動に移すのは難しいのが現実です。

「誰でもいい」わけではない女性の“ワンナイト”
――たしかに「性欲は誰にでもある。でもそれを口に出せるほど世の中は寛容ではない」「性欲を男性に委ねなきゃいけないの?」など、独特な視点のセリフが多いので驚きました! セリフやストーリーづくりで意識している点はありますか?なかお:センシティブなテーマなので白黒はつけず、問題提起に留めるようにしています。ネット上に寄せられる感想のなかには「そんなにセックスしたいなら、誰でもいいじゃん」「女性用風俗に行けばいいのに」という内容もありますが、周りの友人に聞くと「ときめきは少しでも欲しい」「お互いに対等な関係として選びたい」という声のほうが圧倒的に多かったんです。

正直、恋愛とセックスのどちらに重点を置くべきか毎回悩みますが、個人的には女性の性や恋愛にも多様な考え方があると、作中で示せただけでも描いた甲斐がありました。
【なかおもとこプロフィール】
漫画家。エンターブレインでデビュー後、短編集『おたくカレシ。』(COMICポラリス)、仏教系高校を舞台にした『ぶっだなでいず』(双葉社)などの連載を経て、2024年より『マイ・ワンナイト・ルール』を総合電子書籍ストア「コミックシーモア」にて連載中。2025年1月には同名ドラマが放送され、話題に。
<取材・文/とみたまゆり、作品クレジット(C) なかおもとこ/シーモアコミックス>
【とみたまゆり】
週刊誌や漫画の書評などジャンルにこだわりなく執筆する中堅ライター。