今回はそんなアンラッキーが重なってしまった女性のエピソードをご紹介しましょう。
身体を密着させながら乗車してきたカップル
独身女性で会社員の三枝麻衣さん(仮名・33歳)は、毎朝満員電車に20分ほど揺られて通勤しています。そんなある日、麻衣さんのすぐ横に恋人同士とおぼしき20代後半くらいの男女が、手を繋いで身体を密着させながら仲良さそうに小声で話しながら乗ってきたそう。「私はすぐ『いちゃいちゃするなら家でやってくれよ』と内心不快に思いましたが、周りの乗客達はイヤホンをしている人も多く、たいして気に留めていない様子でしたね」
するとさっきまで鼻と鼻をくっつけて囁き合っていた男女が、急に揉めだしました。
どうしたどうした? 急な喧嘩に想像が膨らむ
「『別れたいってどういうこと? 私、何かした?』と彼女の方が明らかに動揺した様子で拳をあげて抵抗しようとし、彼氏と揉み合いの喧嘩が始まったんですよ」
「きっとこんな行動をとらなくてはいけない理由があるんだろうし、このカップルにとっては緊急事態に違いないから、お互いに納得のいく形で落ち着くといいよね。と思いましたね」
ざわつく車内、彼氏がとった驚きの行動とは?
そして車内の乗客達もザワつきだし、その男女は完全に注目の的になりました。「そしたらその男性が彼女を抱き寄せて『ごめんごめん嘘だよ! ちょっと驚かせたかっただけ。結婚しよう』と胸ポケットから指輪を出すと彼女の指にはめて手の甲にキスしたんですよ」

私たちを勝手にプロポーズのモブキャラにしないで!
「はぁ? って感じでした。信じられない! なに完全に2人の世界に入っちゃってんの? ここ電車の中なんですけど? と、私は死んだような目になりました。私を含む周りの乗客を勝手にプロポーズのためのモブキャラとして使ったことにも呆れ果ててしまい、気がついたら舌打ちしていましたね」他の乗客も、その男女に冷ややかな目を向ける人や咳払いをして迷惑だとアピールする人、「全く何見せられてんだよ」と小さく独り呟く人、とさまざまでした。中には「素敵な家庭を築いてください! よかったね」「おめでとう!」などと祝福する声もあったそう。
その後も、ドラマの主人公を気取るふたり
「その男女の笑顔でドラマの主人公にでもなったかのように『ありがとうございます! 僕たち絶対に幸せになります! もちろん皆さんの幸せも祈っています』と次の駅で手を振りながら降りて行く姿を見て、少しでもこのカップルの心境により添い心配した自分って本当にバカだなと思いました」そして裏腹にもう一つの感情が湧いてきてしまい……。
「『もしや人の幸せを素直に喜べない私って、心が相当すさんでいるのかな? だからここ2年間、全く彼氏ができないのかも……あれ、変なのは私の方なのかな? と妙にモヤモヤしてしまったんです。
誰もが不愉快なはずの満員電車での自分勝手なカップルの振る舞いに、あんな優しい反応をする人達っていったいどんな豊かな毎日を送っているんだろう? とつい考え込んでしまって」
同僚に愚痴ったら、まさかの反応にため息
そんなこんなで朝から疲れてしまい、その日麻衣さんは全く仕事に集中できませんでした。「なんで朝からこんな風に自分の至らない面と向き合わなくちゃいけないの? と嫌になりました。さらにお昼休みに同僚に愚痴ったら『ただそのカップルに嫉妬しているだけじゃない?』と言われてため息が止まりませんでしたね」と苦笑いをする麻衣さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop