かつて「抱かれたくない芸人」「嫌いな芸能人」の代名詞と言われてきた江頭2:50さんと動画再生回数10億回を超えるお笑いモンスターチャンネル「エガちゃんねる」人気の秘訣はどこにあるのか?『エガちゃんねる』を支える映像ディレクターの藤野義明さんに聞きました。
「エガちゃんねる」人気で江頭2:50に女性ファンが増えた理由
――「エガちゃんねる」の成功に伴い江頭2:50さんの人気が一般層にも届き、地上波番組やCMにも出演されることが増えました。YouTubeを始めてから改めて気づいた江頭さんの凄さについてお聞かせください。藤野:やっぱり江頭さんの素の部分での「奇人」っぷりでしょうか。うまい棒を食べたことがなかったり、マクドナルドはフィレオフィッシュしか食べたことがなかったり。「どうしたらそんな人生歩めるんだ?」っていう。あとは、こんなこと言うと江頭さんに「営業妨害だ!」と怒られてしまいますが、真面目なところでしょうか。出会って20年以上経ちますが、今まで一度も遅刻をしているのを見たことがないですし、一番気楽にできるメンバーシップの生配信でも事前に話す内容をびっちりメモで書いて準備して来てますし(笑)。
――かつては『anan』嫌いな男ランキングで何度も第1位になった江頭さんですが、現在は女性ファンも獲得しています。その要因をどのようにお考えですか?
藤野:江頭さんのファンと名乗ることが恥ずかしいことではなくなったからではないでしょうか。テレビでは過激な江頭さんが前面に出ていて、お茶の間の嫌われ者でしたが、江頭さんの人柄や仕事に対する真摯な向き合い方をずっと見てきて、「江頭さんの知られていない素の部分、B面の部分も知ってほしい」と思って動画制作をしていく中で、自然と女性にも受け入れられたのかなと思います。
――昨年夏に行われた「エガちゃんねる」初のライブイベント「エガフェス」にも多くの女性が詰めかけていました。
藤野:女性ファンが増えてきているなと思ったんですけど、チャンネル登録者数の数字を見ると8対2で今でも圧倒的に男が多いんですよね。ただ、「エガフェス」の場合は男性が55%、女性が45%で、男女比が半々でした。
――女性からも支持されていることを藤野さんが実感した出来事などありましたら、教えていただければと思います。
藤野:この前、「エガフェス」で売れ残ったグッズをフリーマーケットで販売したことがあったんですが、そこに古参の女性ファンが来られて、「エガちゃん、客層変わったね」と言っていました。それこそ妊婦さんが「お腹に手を当てて触ってください」と言って触らせて、江頭さんが安産祈願したんです。そんなことは昔の江頭さんならあり得ないことだと思います。
グルメ企画が再生回数の上位に来るとは予想してなかった

藤野:このような結果になるとは予想していませんでした。僕はこうした一面はYouTubeもテレビと似ているなという感想を抱いています。どのメディアでもグルメ系特集は人気ですし。知り合いに「YouTubeで再生回数を伸ばすにはどうすればいいの?」と聞かれた時は「グルメ企画も挟んでみたらどうかな」と答えたことがあります。たとえば、スポーツ系チャンネルなら、アスリートが普段食べている食事やチートデーで何を食べているのかって気になるじゃないですか。
――確かにさまざまなジャンルのYouTubeでもグルメ企画は人気になりやすい傾向がありますね。
藤野:やっぱり根本的に「メシ物が見たい」という欲求が視聴者の中にあるんでしょうね。「エガちゃんねる」でやっている「初めての◯◯」シリーズは他のYouTubeチャンネルでもやっているのを見ると「うちも真似される立場になったんだな」と嬉しく思います。
過激なネタでも見せ方を工夫すれば受け入れてもらえるかもしれない
――「エガちゃんねる」の動画を観ていると広告審査が落ちるのを覚悟して過激な内容を配信している印象もありますが、その意図はどこからきていますか?藤野:逆に言うと、広告審査が落ちるのさえ覚悟すれば、やりたいことができるのがYouTubeなんですよね。
ただ、過激なネタをやると広告審査が落ちるだけではなく、チャンネル登録者数が減ったり、再生数も伸びなかったりするんですね。やはりあまり求められないのかもしれないですね(笑)そんな中、新しい発見があったのが『孤独のス●ベ』という動画。こちらは下ネタ全開で広告審査は当然落ちましたが、再生回数や登録者数は伸びたんですよ。
――それは意外な現象ですね!
藤野:本家『孤独のグルメ』に寄せたドラマ風の作りで作品性を高めたことによって、少し上品に見えたのが功を奏したのではないかと。もしかしたら見せ方を工夫すると下ネタも受け入れてもらえるのかなと考えています。その後にやった『食わず嫌い王決定戦』のパロディである『抜かず嫌い王決定戦』も広告審査は落ちましたが、再生回数とチャンネル登録者数は伸びました。しかも、コメント欄も荒れなかったんです。

藤野:広告はダメでも再生回数とチャンネル登録者数が伸びるなら過激なネタもやる意味はあるのかなと思います。やっぱり我々にとって再生回数とチャンネル登録者数という目に見えてわかる数字の増加は江頭さんやブリーフ団、スタッフ全員にとって動画制作のモチベーションになりますから。
――動画につくコメントがモチベーションになったり、次の動画制作の参考になったりすることもありますか?
藤野:チャンネル運営においてコメントはある程度参考にしていますが、コメントだけに捉われないことも大事かと思っています。
――その危機感はどこから来ているのですか?
藤野:かつて、dTV(現・Lemino)で『がんばれ!エガちゃんピン』という番組をやっていました。その番組は「ザ・江頭2:50」という過激で下品な内容をやらせていただきまして、コアファンからは大絶賛をいただいていたのですが、最終的には打ち切りになりました。コアファンは喜んでもらえたのですが、多くの人には見てもらえなかったのが原因でした。番組が終わるというのは本当に悲しいことです。毎週やっていたロケもできない、会議でスタッフにも会えない、そこで働いていたみんなの給料もなくなってしまう……だから「エガちゃんねる」をスタートさせる時は、「このチャンネルは絶対に終わらせない」という覚悟で始めました。
【藤野義明】
演出家、ディレクター。1978年生まれ、神奈川県出身。明治大学卒業後、テレビ制作会社ケイマックスに所属。

【ジャスト日本】
プロレスやエンタメを中心にさまざまなジャンルの記事を執筆。2019年からなんば紅鶴にて「プロレストーキング・ブルース」を開催するほか、ブログやnoteなどで情報発信を続ける。著書に『俺達が愛するプロレスラー劇場Vol.1』『俺達が愛するプロレスラー劇場Vol.2』『インディペンデント・ブルース』(Twitterアカウント:@jumpwith44)