37歳で想定外の妊娠をしたフリーライターの私。

 長年、生理不順で3~4か月生理が来ないのは珍しくなかったこと、婦人科で不妊治療をしないと妊娠は難しいと言われていたこと、ADHD(注意欠如・多動性障害)の特性でセルフネグレクト癖があり自分の体の管理がおざなりになること、さらに算数障害(発達障害の一種で数字、計算に困難を抱える学習障害)で生理周期を把握していなかったことなどさまざまな要因が重なって、気付いたときにはすでに16週(妊娠5か月)に入っていた。


 30週に入るといよいよ妊娠後期。出産する病院で開催される母親学級や、行政主催の両親学級に参加することにした。

母親学級で自然派助産師に出会う

37歳で想定外に妊娠した私、助産師の“厳しい指導”に驚き。先...の画像はこちら >>
 私には近所にママ友が一人もいない。母親学級の参加者は同じ病院で産む人しかいないので、近所に住んでいると思われる人ばかり。

 近所にママ友が住んでいれば気軽に育児の相談ができたり、一緒に公園に行ったりできそうだ。今までは既に産んでいる友人に聞くか、マタニティアプリのSNS機能で本名も顔も住んでいる場所も知らないプレママ(妊婦)としか情報交換をしたことがない。

 そんな淡い期待を抱いて母親学級に参加したが、その期待はすぐに打ち砕かれた。母親学級の会場に入室すると、既に半分くらいの席が埋まっていた。話ができる雰囲気ではなくシーンとしている。時間になり、助産師さんが説明を始めたがひたすら座学のみ。途中、トイレ休憩を一度挟んだが、誰も他の人と話していなかった。

 ということで、ここでのママ友作りは失敗に終わった。母親学級の中身は、出産に向けての体調管理や出産当日のこと、産後の授乳について。
しかし、ここでかなり厳しいことを助産師さんに言われた。

・暑いけれどアクエリアスやポカリは禁止(食事で塩分はじゅうぶん摂れている)
・暑いけれど冷えないように靴下をきちんと履く
・甘い物(チョコ)は出産当日のみOK

 私の場合、妊娠糖尿病なので塩分や糖分を控えるのはわかるが、ハイリスク妊婦ではない妊婦にまでこんなことを言うのかと驚いた。そして今年は猛暑。妊婦は体内に熱がこもりやすく、暑さにより早産のリスクが上がることをニュースが報じていた。こんなに暑くても体は冷えるものなのだろうか。

「あんまり真に受けなくていい」先輩の一言にホッとする

 疑問に思って、出産経験のある作家の先輩に相談するとあっけらかんとした返信が来た。

「助産師さんはもちろん良い人もいるけど、行きすぎた自然派とかスピリチュアルな人が多いからあんまり真に受けなくていいよ」

 そう言えばとあるライターさんが、反ワクチン的な発言をしたり、冷え予防のために靴下を5枚も重ね履きすることを勧めたりする助産師さんがいるという記事を書いていたのを思い出した。

 さらに、医療記者の先輩に相談すると「助産師の教科書にも医学的根拠のない対処法が書かれているので気を付けてください」と、以前その方が取材した記事のURLが送られてきた。

 その記事では、乳腺炎になったときにキャベツを湿布代わりにして胸に当てて冷却をするよう助産師に言われたという例が紹介されていた。キャベツで冷却できるというエビデンスがないどころか、キャベツに付着している可能性のあるリステリア菌が赤ちゃんの口に入ると敗血症や髄膜炎など極めて重い感染症を引き起こすことさえあるという。

 出産や育児に詳しい小児科医にも取材依頼の際に相談したところ、「そんなことを指導する助産師がいるなんて衝撃的です」と言われた。

“誤った情報”は妊婦を余計にしんどくさせる

37歳で想定外に妊娠した私、助産師の“厳しい指導”に驚き。先輩ママに相談してみると
筆者(妊娠前)
 妊婦は孤独だ。妊娠していない人と比べると別の世界にいて置いていかれるような気持ちになる。そして私は発達障害もあるため健常者に近づきたいという思いが常にある。
障害者だからという理由でできないことがこれ以上増えないよう、社会に接していたい。

 知り合いのライターさんがライターに関するイベントを行うというので詳細を見てみると「会場の椅子は背もたれのない丸椅子」と書かれており、妊娠後期だと小さい背もたれのない椅子に長時間座っているのがキツいため、イベントに行くこと自体、あきらめてしまった。

 お腹が大きくなるにつれてどんどんできないことが増えていき、今までいた世界の人と触れ合う機会がなくなる。

 そんな不安定でただでさえしんどいマタニティ生活・育児生活の中で、エビデンスのない誤った情報を信じてしまうと、その分余計にしんどくなってしまうのではないだろうか。

“ゼロヒャク思考”でスポーツドリンクを我慢。あわや熱中症に

 私は発達障害の二次障害の摂食障害で、ゼロヒャク思考(白か黒かと極端に考えてしまう認知の歪み。完璧主義に近い思考)があるため、グレーゾーンの「ほどほど」という考え方をするのが難しい。そのことから助産師さんの言葉を信じざるを得なくなってしまったことがあった。

 ある日の日中、お腹が重くてベッドで横になってウトウトしていると、体のだるさと体の内部から熱くなるような感覚で起きた。エアコンはつけているし直射日光が入らないようカーテンは閉めていた。しかし、体が火照ったように熱く頭も痛い。もしかして、これは軽い熱中症!? 部屋の中にいても熱中症になる可能性があると聞いたことがある。
今年は6月からずっと暑い。

 とりあえず水分補給。もともとお酒が好きだったため、妊娠前は二日酔い対策でスポーツドリンクを箱買いしており、常備していたDAKARAがまだ残っている。しかし、助産師さんは暑くてもスポーツドリンクは飲まないよう言っていた。ゼロヒャク思考もあって迷った末、水だけを飲んで再び横になっていると次第に回復していった。

 この出来事を母親に話すと「熱中症は脳梗塞になる恐れもあるから禁止されていてもきちんとスポーツドリンクを飲んで」と言われた。母は昨年、脳梗塞で倒れて左半身に麻痺が残っている。下戸でお酒が飲めずタバコも吸わない、ジムや登山に行って運動もしている健康生活の母が脳梗塞になった原因の一つは水分不足で血液がドロドロになっていたからだったという。

夫と一緒に「両親学級」へ

37歳で想定外に妊娠した私、助産師の“厳しい指導”に驚き。先輩ママに相談してみると
両親学級の資料
 私の体調不良は別の日にも起こった。行政主催の両親学級に夫婦で参加することにした。夫に両親学級に参加してほしいと初めて伝えた日、「それだけは勘弁してほしい」と言われた。何が嫌なのかはわからなかったが、とにかく参加したくないらしい。

 しかし、後日この連載の担当編集者さんに「ぜひ両親学級に参加した体験を書いてみてください」と言われたので夫に「仕事で体験談を書かないといけない」と言ったところ、私の仕事に関することなら反対しないので、あっさりOKしてくれた。


 土曜の昼下がり、炎天下のなか夫と二人で会場に向かった。到着すると多くの夫婦が参加しており満席だ。両親学級の流れは前半に助産師さんの話、後半は沐浴の仕方やおむつの変え方、赤ちゃんの抱き方、夫の妊婦体験、そして交流タイムだった。

 母親学級でママ友を作れなかったので、両親学級ではママ友を作りたいと思っていた。そして何より、夫に妊婦の大変さを知ってもらいたかった。

 しかし、助産師さんの話を聞いている最中、目の前がチカチカして冷や汗が吹き出し、気分が悪くなってきた。パイプ椅子に座っていることもつらくなって限界になり、側にいた助産師さんに「頭がクラクラします」と声をかけると、すぐに部屋の一部をカーテンで仕切って長椅子に横にならせてくれた。

夫に変わってほしくて両親学級に参加したのに……

 血圧を測られるも正常。助産師さんには妊娠糖尿病であることを伝えた。妊娠糖尿病のため厳しい食事管理をしていて、白米や小麦製品などの炭水化物や砂糖の入っている食品をもう3週間くらい摂っていなかった。妊娠糖尿病の治療は低血糖と隣合わせのため、おそらく低血糖で倒れたのだと思われた。すぐに夫も呼ばれた。

 夫は「無理しないでタクシー呼んで帰ったほうがいいと思う」と言った。
しかし、今日の一番の目的だった体験コーナーがまだだ。本当はあなたに妊婦体験してもらいたかったのに……帰りたくない。助産師さんたちも無理はしないほうがいいと言う。助産師さんに「オムツの変え方がわからないので、少し休んでから参加したいです」と伝えると、カーテンの仕切りの中に赤ちゃん人形を持ってきて、その場でオムツの変え方を簡単に教えてくれた。

 夫もその様子を見ており「僕、再婚で前の結婚のときにオムツ変えていたので今見たら、思い出しました」と助産師さんに言った。私も目の前で見ただけで実際に自分で変えてはいないのですぐに忘れそうだが、なんとなくポイントはわかった。

 夫がタクシーアプリでタクシーを呼んでくれてすぐにタクシーが来た。私は夫に支えられてタクシーに乗り込む。近所なのですぐに自宅に着いた。水分を摂ってベッドに横になる。夫は「もう今日は夜までずっと休んどきな」と言い、二人でお昼寝をした。私はまったく眠気はこなかったが、夫は寝たり起きたりを繰り返し、目が覚めるたびに「大丈夫?」と心配してくれた。


 妊婦のつらさをわかってほしい一心で夫に両親学級へ参加してもらったのに途中退室となってしまった。でも、すぐにタクシーを呼んでくれ、ここまで心配してくれている。本当は妊婦の大変さを分かっていて、今まで口に出さなかっただけかもしれない。

その後、少しだけ変わった夫

 それ以降、夫は少しだけ変わった。以前、私がマタニティアプリを入れて今現在の私の体の変化や赤ちゃんの様子を知ってほしいと訴えてもマタニティアプリの初期設定すらしてくれていなかった。

 しかし突然「今、息子の骨が作られているんだね」と言い始めた。アプリには「今、骨が作られているよ」とか「肺呼吸の練習をしているよ」といったその週に合わせた赤ちゃんの成長具合が表示される。

 夜寝るときも、「お腹が大きくて仰向けに寝るのはキツいですよね。右側に大きな血管が流れているので左側を下にしたシムス位で寝るようにしましょう」と両親学級で言われたことを思い出したのか、夫は「こっち側(左向き)を向いて寝るといいんだよね」と言って妊婦ではないが左向きで寝始めた。

 今までは「産まれてきた後のことだけ考えるべきで今現在のことはそこまで考えない」と言っていたのでずいぶんな成長だ。最近はお腹にもよく話しかけてくれる。

 両親学級でママ友は作れなかったが、夫との絆は深まった。もっと絆が深まりそうな立ち会い出産があるが、夫は立ち会い出産を拒否した。私が痛みで叫んでいる姿を見たくないらしい。ネットで調べると立ち会い出産はメリット・デメリットがあるので夫婦でよく相談するよう書いてある。

 私としては命がけで産むので一緒にいてほしかったが、立ち会わないで良かったという人の体験談を読むと「出産の際に脱糞してしまってニオイもしたので夫に見られないで良かった」というものもあった。

 さすがに私も脱糞しているところを見られたくない……。ということで立ち会わないでいいと思えるようになった。

 32週の今、早産と位置づけられるが、この時期に産まれたとしても問題なく赤ちゃんが育つとマタニティアプリに書いてあった。妊娠糖尿病による食事管理がつらいため、出産は怖いが好きなものを気にせず食べられるなら正直早く産みたい気持ちがある(妊娠糖尿病は多くの場合、産んだら治る)。

 そう夫に伝えると「こんなに早く産んじゃったらかわいそう!」と言われた。なんだ、赤ちゃんの気持ちがどんどんわかるようになっているじゃないか。

 正期産まであともう少し。変わってくれた夫と一緒に頑張っていこうと思う。

<文/姫野桂>

【姫野桂】
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei
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