同作で昨年、文芸社×毎日新聞主催のエッセイコンテスト「第7回人生十人十色大賞」長編部門で最優秀賞を受賞した彼女は、発達障害と診断された子どもとの生活を描いたことで、多くの共感を集めました。
お子さんが発達障害かもしれないと気が付いたきっかけや、子育ての中での気づきについて取材しました。
「うちの子だけオムツなの?」幼稚園で感じた発達の遅れ
彼女たちの暮らしは、決して平坦な道ではありませんでした。「『他の子と違うかも』と違和感を覚えたのは、一番上の子どもの幼稚園の入園式。集団に溶け込めず、他の子がパンツな中、オムツが取れていなかったのがわが子だけだったことに、少なからずショックを受けました。
3歳児健診では、他の子が保護者の隣で静かに質問に答える中、わが子は席にじっと座っていることすらままならず、別室に呼ばれて『しばらく様子を見ましょう』と言われました」(凪倫子さん、以下「」内同)

藁にもすがる思いの母親に、忍び寄る“トンデモ論”
凪さんが元夫に診断のことを伝えたところ、「やっぱりそうだったか」とスムーズに受け止めていたといいます。また、両親も発達障害について自分たちなりに勉強し、理解しようと努めてくれました。特に母親は育児書を読み込んで知識を深め、その書籍を凪さんにも送ってくれたそうです。一方で、凪さん自身もネットや書籍を通じて情報収集をしていたのですが、そのなかで、ある傾向に陥ります。
「グルテンが発達障害の原因になる」「牛乳がよくない」「抗生物質が発達障害の原因になる」「発達障害の子どもの髪には水銀が出る」といった根拠の乏しい“トンデモ論”に、一時は心を動かされてしまったのです。

実際、凪さんには一時期グルテンフリーの食生活を心がけていたこともありましたが、生活の負担が大きく、継続を断念しました。
収入が減るのを覚悟で、パート勤務に切り替えた
シングルマザーにとって、経済的な安定は死活問題です。お子さんが発達障害の診断を受けてからも、凪さんはフルタイム勤務で家計を支えていました。しかし、娘さんが小学校に進学するタイミングで働き方を見直し、パート勤務に切り替えました。

凪さんが休むことで仕事を変わってくれた同僚から責められた経験はなかったのですが、いつも申し訳ないと感じていました。
「パートなら、休む理由をそこまで説明しなくてもいいですし、子どもと一緒にいる時間を確保できる。それが今の私には必要だと判断したんです」
普通学級か支援学級か? 選択を迫られる
小学校入学前、自治体の就学説明会に参加した凪さんは、学区内の小学校で教員と面談をしました。その中で問われたのが「普通学級と支援学級、どちらを希望されますか?」という選択です。支援学級とは、発達や学習に特性のある子どもが、少人数で個別の支援を受けながら学べる学級のことです。通常の学級と同じ学校内に設置されており、教科学習の一部を普通学級で受ける「交流授業」もあります。
「本当は普通学級に通わせたい気持ちがありました。でも、普通学級でついていけず、孤立してしまう子どもの姿を想像すると、それは避けたいと思いました」

「親の私は、子どもより先に死にます。だったら、早めにサポートがある環境に慣れて、自立できるよう準備しておいた方がいいと考えました」
凪さんはシェアハウスで暮らす中で、住人や入居見学に来た人にも子どもの状態を正直に伝えていました。周囲の理解を得られたことで、お子さんも安心して生活できたといいます。
特別支援学級に通うため、転校を決めた
凪さんには、お子さんが発達障害と診断されてから初めて知ったことがたくさんありました。「以前は、児童相談所といえば児童虐待に対応する機関というイメージだったのですが、子どもの発達障害の支援もおこなっている機関なのだと知りました」

1. 特別支援学校
障害の程度が重く、通常の学校での学習が難しい子どもが通う学校。盲学校、聾学校、養護学校なども含む。
2. 特別支援学級(略して「支援学級」)
通常の小中学校に設置されており、特別な支援の必要な子どもが在籍。担任が配置され、原則少人数で学習。教科や活動に応じて通常学級との交流及び共同学習も。
3. 通級による指導(通級指導教室)
通常の学級に在籍しつつ、週に数回、必要な教科や時間のみ特別な指導を受ける形態。軽度の発達障害や情緒障害などを対象とするケースが多い。
「このような選択肢があることも、説明を受けるまで知りませんでした。通級指導教室の通学に付き添うお母さんもいるので、そうなると仕事はできなくなると思います」
凪さんは、固定の特別支援学級がある小学校にお子さんを転校させました。
わが子を誰かと比べる苦しみが、消えたきっかけ
凪さんが苦しかったのは、自身の思う“普通”にとらわれていたことだったと語ります。「“普通の育児”ができず、“普通の成長”をしないわが子を周りと比べて、人に相談できなくなっていました。当時はインスタでつながっている地元の友達の投稿を見ても、苦しくなっていたんです」
そんな凪さんが変わったきっかけが、“推し”との出会いです。凪さんの推しは、俳優の山田裕貴さん。共通の推しでつながる人脈は、プライベートを明かす必要がありません。推しへの愛で共感しあう繋がりがあることで、他人と比べて落ち込むことも激減しました。
推し活をするうえで情報収集のため、X(旧Twitter)のアカウントを開設した凪さん。生活のキラキラした部分だけを切り取るインスタグラムの世界観と異なり、Xの中には取り繕わず子育てに悩んでいる愚痴をそのまま投稿する母親が多く、楽になったそうです。
そして「“普通”になるために、背伸びをする必要はない」と気づけるように。
「自治体によっては、支援が多く必要な子どもを対象に泊まりで預かってくれるサービスがあります。
誰かを頼れるようになったことも自分の成長だと語る凪さんが、印象的でした。
【凪倫子】
3人の子どもを育てるシングルマザー。文芸社×毎日新聞主催「第7回 人生十人十色大賞」長編部門最優秀賞受賞エッセイ『36歳、初めて推しができました。』(文芸社)の著者。俳優・山田裕貴さんの“推し活”をきっかけに、生活や気持ちが前向きに変化した体験を配信中。
X: @rinco_run2
<取材・文/菊乃>
【菊乃】
恋愛・婚活コンサルタント、コラムニスト。29歳まで手抜きと個性を取り違えていたダメ女。低レベルからの女磨き、婚活を綴ったブログが「分かりやすい」と人気になり独立。ご相談にくる方の約4割は一度も交際経験がない女性。著書「あなたの『そこ』がもったいない。」他4冊。Twitter:@koakumamt