橋田壽賀子脚本の人気長寿ドラマシリーズ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)で10歳から12年間、“加津ちゃん”こと野々下加津役を演じていた宇野なおみさん(35歳)。かつて“天才子役”と呼ばれた宇野さんは現在、フリーライターとして活動中です。


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 渡鬼シリーズ終了後の歩み、そして現在にいたるまで——当時は語れなかったことも含めて、宇野さんが“今だからこそ”綴るエッセイ連載。今回は、TOEIC930点の英語力を活かし、通訳や翻訳も手掛ける宇野さんが、その語学力をどのように培ってきたのか振り返ります。(以下、宇野さんの寄稿)。

高校に通いながら高認に合格

国民的ドラマ出演の“天才子役”。高認合格→「TOEIC930点」の英語力を手に入れるまで
「渡鬼」舞台版のときの写真
「どうしてそんなに英語が喋れるの?」

「どうやってセリフを覚えているの」と同じぐらい聞かれたことがあるのが、この質問です。

 ご機嫌よう、宇野なおみです。前回と前々回の記事を読んでくださった皆様、ありがとうございました。

 私は高校に通いながら高等学校卒業程度認定試験取得→早稲田大学入学~卒業という、同じルートをたどったことがある人に一度もお目にかかったことがない、謎の経歴です。

 やはり芸能人=学校に行っていない、というイメージがあるのでしょうか。通訳や翻訳もしていますと話すと、英語をどうやって学んだか、よく聞かれます。

イギリス映画から英語への憧れを膨らませた

 小さい頃に英語教室に通っていて、オペラに出演したときにイタリア人演出家に「ワットアニマルドゥーユーライク?」と聞いたというエピソードは母から聞かされたことがあります。これは英語ができるというか、天衣無縫な性格がさく裂しただけですね……。今回、5~6歳当時使っていたノートを発見いたしまして。

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幼少期の英語のノート
 英語のノートなのに、途中から数式書いているありさま。どういうつもりだったのやら、子育てにおける母の苦労がしのばれます。


 実は、海外に行ったことはほぼないんです。渡鬼の最終シリーズが終わった大学卒業後に、卒業旅行と半年間カナダ・バンクーバーに留学したのが、初海外。だからバイリンガルではありません。

 当時、渡鬼は4クール(1年間)。収録がトータル1年半はあり、合間にも舞台出演などがあったので、留学は難しかったんです。なので、基本的には国内で勉強してきました。

 英語に夢中になったきっかけは、イギリス映画。無論ハリー・ポッターシリーズもどっぷりハマりましたが、もっとも影響を受けたのは『ノッティングヒルの恋人』という映画。主人公はジュリア・ロバーツ演じるハリウッドの世界的大スター・アナ。そしてヒュー・グラント演じる、英国ノッティングヒルで本屋を経営するパッとしない店主・ウィリアムの、ロマンティック・コメディ映画です。

 誠実で不器用なヒュー・グラントがとても素敵でした。エルヴィス・コステロが歌う主題歌「She」も印象的で、ノッティングヒルは今でも憧れの場所です。


 さらに、同じリチャード・カーティス作品である 「ラブ・アクチュアリー」にのめりこみ、クリスマスの映画だというのに1年じゅうDVDで見ておりました。

英語力が伸びたのは高校から

国民的ドラマ出演の“天才子役”。高認合格→「TOEIC930点」の英語力を手に入れるまで
初海外のアイスランドにて。この後、氷を踏んで水の中へ落ちる
 高校の時にふと思い立ち、英語のスピーチコンテストに出場しました。私が通っていた単位制の「チャレンジスクール」は、開校したての実験的な高校。勉強のレベル自体は正直高くなかったです。ただし都立でしたので、進学校で教えた経験がある先生方が多かったんですよ。

 学校を休むことが多く、自学自習でやってきた(※やるしかなかった)私はそこに目をつけました。

 英語の先生留学経験者で、発音もネイティブ並。スピーチコンテストの指導経験もお持ちでした。指導をお願いしたところ、発音を徹底的に叩き込んでくださいました。厳しかった……! ひそかに持っていた英語への自信は、ここで粉々に砕かれます(笑)。

 ただ、ここで発音を矯正したことが、後にリスニング・スピーキング能力を飛躍的に伸ばす手助けになってくれるのですが。余談ですが、この私のムチャクチャな挑戦は先生の教師人生でも趣深い出来事だったようで、昨年インスタグラムで「定年の折に書いた教育実践論文にあなたのことにも触れました」とご連絡くださいました。

いざ留学!伸びたのは本当に英語力?

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当時のノート。子どものころよりは字がまともですね(笑)
 大学でも英語の授業を積極的に取り、留学生も多かったのでいっぱい交流しました。今も付き合いがある友人も多いです。
初めて受けたTOEICは780点。あれ? これいけんじゃない? という驕り高ぶりが生まれます。その勢いで留学。バンクーバーのカレッジで、通訳と翻訳のコースを取りました。

 留学先では、本当に英語がぺらぺらな人、カナダで就業したくて来ている人、1か月だけクラスを受けに来た人、日本人と言ってもいろんな人がいました。ビジネスカレッジだったので、他のクラス多様なバックグラウンドの人ばかり。

 正直、最初は「あらどうしましょ、帰りたい」と思うこともしばしばでした。まず、「日本語しか話せない」は世界的にマイノリティに区分される。と肌で感じた経験は大きかったです。言いたいことがあったら、英語で言わなければならない。最初は表現にこだわっている余裕なんてありません!

 さらに、ビジネスに関するクラスもとったのですが、これもまたなかなかハード。職務経歴書や自己PRを書きなさい、と言われても、まさかTVドラマに出演したなんて書けるわけもなく、頭も文面もまっしろ。


 ビジネスノウハウもさっぱりで、最初は完全に「落ちこぼれ」でした。

 唯一、「ビデオで自分が喋っている様子を撮りあう」という授業では、「ナオミ! なんてすばらしいの!」って褒められました。カメラ慣れが尋常じゃなかったからでしょうね……。

渡鬼の現場で培った「めげない」「くじけない」力で

 ただ、渡鬼の現場で鍛えられた私は、めげる・くじけることはめったになかったです。

・結局、ネイティブやバイリンガルに、英語力は敵わない。

・発音はそこそこ通じる。

・日本語の理解力や文章力はむしろ高いほう……。

 勉強と海外ひとり暮らしでヘロヘロの日々でこう理解し、英語力と同時に、コミュニケーションが取れるようになろうと決意しました。いわゆる「コミュ力」です。

 その頃は他責思考というか、人任せで甘ったれな部分だらけ。しかして、留学先ではうっかりしていたら部屋を追い出されて明日から宿なし、なんてことも起こります。

 実際1回危なかったんですよ! スカイプ(そう、当時はスカイプで交流しておりました)で盛り上がって大騒ぎしてしまったら、シェアメイトから大家さんに苦情が入ったようで、「あと一回やったら出てってもらうから」みたいなメールを受け取りました。あれは怖かった……。


 母と姉はコミュニケーションをとるのが得意で、末っ子の私はマイペースのまま甘やかされていました。まさか数千キロ離れたカナダで、23区の端っこの実家に住む人々の能力値の高さを実感することになるとは。他にも今まで見てきた芸能界の方々を参考にし、己のふるまいを少しずつ変えていきました。

 多文化共生社会を目指していたカナダという土地で、人とぶつからない、相手を尊重するコミュニケーションを学べたのは、留学の大きな成果だったかな、と今は思います。

日本語力と現場力を活かして

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留学当時
 海外育ちではなく、赤坂TBS育ち(笑)の私。

 ただ英語が好きで、いろんな世界を知り、いろんな人と話してみたかったから勉強してきました。

 昨今はAIの精度がどんどん高まり、機械翻訳で会話もメールのやり取りもほぼ問題なくできてしまう時代です。語学と同時にコミュニケーション能力を伸ばそうと試みたことは、そこまで間違っていなかったような気がします。

 今年TOEICを受けなおし、930点という自分の最高点を更新することができました。でも、本当にまだまだなんです。

 インバウンド需要を受け、あちこちの知人から「手伝ってくれ」と頼まれることが増えまして。茶道と歌舞伎と漫画・アニメに詳しい、着物が着られる英語話者はあんまりいないそうな。
オタク趣味が役立っている(笑)。

 私の人生、空回りだらけに見えて結局、すべてが連動しているようです。なんだかんだ過去って役立ってくれるものだなあと最近しみじみ思います。風が吹けば桶屋が儲かるとでも申しましょうか。

 あらやだ! ここは英語で「Butterfly Effect」ってかっこよく言うべきでした。

 やっぱり、まだまだです。

<文/宇野なおみ>

【宇野なおみ】
ライター・エッセイスト。TOEIC930点を活かして通訳・翻訳も手掛ける。元子役で、『渡る世間は鬼ばかり』『ホーホケキョ となりの山田くん』などに出演。趣味は漫画含む読書、茶道と歌舞伎鑑賞。よく書き、よく喋る。YouTube「なおみのーと」/Instagram(naomi_1826)/X(@Naomi_Uno)をゆるゆる運営中
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