正直、大森の本作出演が4月中旬に発表された時、アニメ映画の声優を“声優”ではなく“俳優”が演じることが決まった時と同じような胸騒ぎを覚えた。大森の出演回が近づくにつれて不安感が高まったが、いざ大森の演技を見ると考えは一変。「俳優・大森元貴」のポテンシャルを疑ってしまったことへの強い罪悪感に襲われるほどだった。
大森が役に与える説得力
大森が演じた役は、誰もが知る名曲『手のひらを太陽に』の作曲を担当するなど、生涯で1万5000曲以上を作曲した「いずみ たく」さんをモデルにした「いせ たくや」だ。第91回で初登場した時はまだ18歳の学生。しかも学ラン姿。大森は現在28歳で10歳下の役となったが、それを感じさせない。なにより、たくやはノリが独特ではあるが、作品の雰囲気を壊さず、それでも彼の個性をいい塩梅で表現していた。その後、「素人のど自慢」に出場したいのぶ(今田美桜)の妹・メイコ(原菜乃華)のために練習に付き合ってあげたりなど、いいやつムーブを見せる。この時、メイコは嵩(北村匠海)の親友・健太郎(高橋文哉)に好意を寄せているが、「いせルートもあるのか?」と頭をよぎった。しかし、たくやはメイコの気持ちを見抜いており、その可能性は光の速さで消滅。
下心はなく純粋にメイコを応援したい気持ちで練習に付き合っており、たくやの優しさに加え、音楽に対する情熱が伝わる。練習中にピアノを弾いたり、お手本として歌ったりなど、トップミュージシャンの大森がやることで、その情熱と技量を兼ね備えたキャラであることを示し、たくやがいずみたくさんのモデルであることに説得力を持たせていた。
演技の幅広さを見せつけた1週間
とりわけ、8月11日から放送された第20週で見せた大森の演技は必見だ。第98話の冒頭、たくやはアクの強い気鋭の演出家・作詞家・構成作家の六原永輔(藤堂日向)と一緒にのぶと嵩が暮らす家を訪れ、嵩に2人が制作するミュージカルの舞台美術を担当してほしいという。その際、永輔はのぶ、のぶの妹・蘭子(河合優実)、メイコに向かって「お美しいの三拍子」と口にして拍手をするが、この突飛な行動をたくやはすぐに制止。その後も永輔の謎ノリをたしなめながら、話を先に進める“司会役”を務める。第99話では、舞台の見学に来た嵩を見て、「奥さん、素敵な人だから、どんな人だろうと思ったけど……」とふくみのある言い方をする永輔に、首を振ったりなどして「それ以上、何も言うな」と言わんばかりの表情を浮かべるたくや。振り回してくる永輔に反応する“受け”の演技をしっかり見せる。
第99話では、嵩に追加の発注を依頼する時に申し訳なさそうな顔を浮かべる“顔芸”も披露。また、後半には本番前日に「いいものを作りたい」という理由から細かい修正点を加える永輔にたくやは困惑する。そして、休憩中に嵩の隣に座り「いいものを作る、これを言われちゃうとね、弱いんですよ」という。クリエイターの葛藤を表情や言い回しから表現し、“受け”ばかりではない演技力の幅広さを感じた。
ミュージックビデオでも培われた演技力
役者経験が少ないながらも、印象的な演技を連発した背景は何なのか。それはミュージックビデオ(MV)への出演の多さが挙げられる。ドラマや映画にはあまり出演していないが、ミセスのMVには当然登場が多い。
ただ、かつての筆者のようにミュージシャンだからといって「演技が拙い」と安易に決めつけることはない。ミュージシャンがどのような演技を見せるのか、なにより大森の今後の出演作も待ち遠しくなる。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki